67.冥婚の儀①
※アヌシュカが違和感を気に掛けた結果、変態が出ます。
ヒルベルテとの冥婚の儀が進むにつれて、気掛かりな事があった。
シルヴィナが贈った花嫁衣装を見ながら、エルルは思いをはせる。
肉体の死を迎えたヒルベルテはこの世界にずっと留めることは出来ない。
精霊の召喚のような状態故、定期的に死の世界に戻らねばならない。
そして。彼は、魂に損傷が出て声が出ないという。
「…わたくしは我儘ね。あんなに疎んで、要らないと言った力を…もう一度欲しいなんて」
あれから、エルルの『心眼』は一切発動していない。
『俺が爺ちゃんになって、喋れなくなってもエルルには俺の愛を伝えられるな‼最高‼』
『寧ろ死ぬまで『愛している』を伝える方法を手に入れた‼ヒャッホ―――ッ‼』
(貴方の心の声を聞きたいなんて、…我が儘ね)
その願いを叶えてあげられない事が悔やまれた。
「エルル」
「お母様」
こうやって母と目を合わせるのは、何時ぶりだろうか。
「大司教らが投獄されたにも関わらず、奴らの一派は聖女たちを王都に入れないつもりでいます」
「あら、それは……」
「「徒労に終わるでしょうに」」
母子2人、同じ考えに至った。
エルルは思わず吹き出すと、母が頭を下げる。
「ごめんなさい。貴女の苦しみを思いやれない母親で」
「……、もういいのです。お母様はわたくしに心の支えを下さいました。
わたくしこそ、謝らないといけません。
お母様は必死にわたくしを護ろうとしたのに、命を無下にするような真似をして……ごめんなさい」
「貴女は謝ることを何もしていない。貴女の心を想うなら、ヒルベルテたちを侮辱する輩のいる場所へ…連れて行かせないように立てこもるべきだった。
愚かな王を止められなかった」
「…もう、お互い謝るのはよしましょう。お母様がわたくしを護ろうと扇子を投げつけて威嚇する姿、思い返すとスッキリします」
「……そうね。貴女の晴れの舞台の前夜だもの。貴女が良いというなら、受け入れます」
王妃はエルルを優しく抱きしめた。
「――どんな形であろうと、貴女の幸せを願っています」
「ありがとう…お母様……」
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エルル王女殿下の結婚式…いえ、冥婚の儀の前日になりました。
僕たちは近くの平地に逗留しています。
ここに来るまで、他の聖女の方ともお話をしました。
平民のデイジーさんが隣国の王子や魔王…エヴァンス様とも気さくに話をしているのを聞いて、デイジーさんが行くならと情報共有し合いました。
ご本人は『せめて、せめてあのこの地方の木花だけでも!撮らせて下さいよー‼』『ここの焼うどんだけでも食べたいんですー‼』とエヴァンス様に引きずられて交流会に参加させられている時もありました。自由です。
折角なので、皆でその地方のご飯を食べながら話をしませんかとエヴァンス様に伝えましたら、デイジーさんに凄く感謝されました。
旦那様やディルはエヴァンス様に扱かれていました。
一撃で粉砕されたことが気掛かりだったのか、クローブさんやヴィルヘルム様も防護障壁の展開のタイミングなどを徹底的に指導されてボロボロです。
ですが、クローブさんは以前よりも心にゆとりのあるような表情をしているとディルから聞きました。
そういえば、不思議なことがあります。
シャルロット…フェカーリエン伯爵夫人に一度も会っていません。
いや、僕も沢山叩く人に会いたいとは思わないんですけど。
シャルロットが好みそうなサリナ小侯爵夫人や隣国のフォクス様のお茶会や、豪商の集まりにも出てきません。遭遇どころか、噂一つ聞かないのです。
ちょっと不気味で、だ…えっと、その、旦…、に、相談してみました。
エヴァンス様曰く、聖女候補として同行はしているそうです。
「会いたいのか?」
「いえ。あまりにも噂を聞かないので不気味なだけです」
「ふむ…」
後日、旦那様同席でウンフェンコ・フェカーリエン伯爵に会いました。
…何だか、旦那様に物凄く渋られましたけど、それとなくシルヴィナ様にも聞いたところ、その夫に話を聞けばいいと場を設けられました。
穏やかな好青年といった感じの、お若い伯爵様でした。
「妻が気になるとのことですが、妻は聖女の責務として加護を与える事に集中しておりまして。私としても、大切な妻ですので無理はさせたくないのですが…。
そうだ、お詫びと言っては何ですが。
此方、寒冷地でも育つ作物と、作物の疫病対策の資料です。もしもの時にお役立て下さい」
「……感謝する」
「ありがとうございます」
…従姉のイメージにそぐわない事について、聞いても良いものでしょうか。
「ご安心ください。辺境伯夫人が気になさることは何もございません。
私めが、全力で彼女を愛しておりますので」
肝心なところは分かりませんでしたが、賢く見目も良い御方なのでシャルロットとしても良縁なのでしょう。
あれですね、『らぶらぶ』な新婚さんの邪魔はいけません。
『らぶらぶ』になって落ち着いたのかもしれません。
後は、僕自身の事情を曖昧にしていることが問題です。
「旦那様…オルトス、様」
「だにゃっ、オルトス様」
「オ…オルトス様、……だ…、オルトス様」
旦那様に名前で呼んで欲しいと言われました。
でも、スルッと一回で呼べません。
僕は昔からこうです。
最初に決めた自称や名称を変えるのが苦手です。『僕』呼びもそうなのです。
以前ベアトリス様から貰ったぬいぐるみを旦那様に見立てて、名前呼びに挑戦していますが自然に呼べません。
尚、必死に名前呼びを試みるアヌシュカを見て、悶えるオルトスやカレン、サリナ達が居た。
しかし、爵位等の称号は兎も角、『旦那=オルトス』と認識しているのか名称を変えることに難儀している。
更にはオルトスを見ては会話を噛んで沈黙してしまう妻を見て、公衆の場では直ぐじゃなくて良いと伝えたオルトス。
(そういえば、『魔王』という名称にも頓着していない。…不得手なものを押し付けるのは良くない)
それでも、二人の時は貯めに貯めて『オルトス様』と呼んでくれる。
その辺りは自然に任せて良いだろう。
ちなみにシャルロットだが。
『アヌシュカにシャルロットを近付かせたらご褒美永久はく奪』をシルヴィナとエヴァンスに宣告されたウンフェンコと使用人総出でアヌシュカの行動範囲に入らないようにと徹底されている。
アヌシュカが自身を気に掛けたことにシャルロットは涙した。だが、あの魔王のような女侯爵とその後継者、夫たちがアヌシュカと会わせることは無いだろうと、アヌシュカとの話し合いが無事に済みエヴァンスに鞭でシバかれる夫を見ながら察していた。




