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「お前を愛するつもりはない」そう言った呪われた英雄辺境伯に、売られた令嬢は咄嗟に蝉ドンしてみた~魔王殺しの英雄と魔王令嬢の物語~  作者: 桃緑茶


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63.『心眼』のエルル第二王女とヒルベルテ侯爵令息③

※16歳の少女には耐えられない胸糞描写があります。

「第二王女の癒しと浄化の祝福は聖女になる逸材なのだ。何故穢れた魔族である貴様などが婚約者など…。

王家を貴様ら穢れた血で汚すな。聖女を教会に迎えるのは神の意志です」

社交シーズン。教会本部の大司教が、シルヴィナとヒルベルテを口汚く罵っていたのを聞いた。


バーンベルク侯爵家が特異な一族であることを、エルルは知っている。

世界の秩序を保つ魔国の者。

2人の真なる魔王――否、神に反逆した悪王を封じるべく、自らも善の魔王に堕ちかの悪王を封印した神の腹心。

シルヴィナはその神の腹心シュトラゾームの眷属。諸侯王・序列『侯爵』。真の名を静かに(アィン・シュティル・)激怒する(ヴューテン・)雷竜(ブリッツドラッヘ)

……これは、忘れられた歴史だ。

自ら双子の兄の反逆を償うため、自ら天界から堕ちて悪の魔王を封印する主君に準じて、永き時を世界の秩序を保つ…調停者の役目を担う彼女らをどうして罵倒できるのだろうか。


ましてや、彼女らはエルルの恩人だ。

シルヴィナが一度でも我欲の為に民を虐げただろうか。

断じてない。

彼女は、その強大な力をもってしても、ただの人間の高位貴族として、王家を護る剣であり盾であり続けている高潔なひと。

なのに、彼等はそれを邪悪なモノとして蔑み唾棄する。


エルルの愛する彼も、彼の母も、正しい存在だ。

祝福は人のため、他者の為に使うものではないのか?


咄嗟に出ようとしたがシルヴィナと目が合い、制止させられた。


「ふむ。そうかね、そう言った妄言は教皇の位を復権させてから言いなさい」

「だから聖女が必要だと…‼」

「百十五年前の邪視の魔女の呪いを、どうして君たちで解けないのかね?大司教?」

「……ッ」

「私はお前たちの魔女狩りを不毛なものと認識している。一人の産後間もない女性を公開処刑するなんぞ、正気を疑う所業だ。結果、それらに賛同した多くの神官や司祭、信徒達を失った。

当時の聖女すら、邪視の魔女に殺されたね。お前達は、無駄に死者を増やして置きながら何を言うかね?

それに、貴様らの腐敗こそが信徒達が離れた理由だろう?」

「神を貶めて……貴様ら……ッ」

()()()()()()()()()()()()?」


大司教は悔し気に去っていく。

その後ろ姿は、悪魔のようだった。


「ダメだね。アレは」

「エルルは本当によくやってくれているし、マシな神官もいるんだけどなあ」

『エルル、根詰めていて心配。やると決めたら頑張る子だし…。リラックスできるポプリでも買おうか…それとも気分転換に外出デートか…。どっちが負担じゃないかなー。

あと、あの窓際に追いやられた司教様。…オルトスの所に送れるように根回ししておこう。エルルが安心できる人だからこそ、あそこに居たらマズイ』


このように、シルヴィナとヒルベルテは人々を『見捨てない』。

誰よりも献身的に愛を持って人に接している。


彼らの腐敗に、エルルは辟易していた。

特に当代の聖女に好き勝手させる大司教を。

信仰を貶める、当代の聖女を理解できなかった。


けれど、だからこそ。

ヒルベルテと国を変えたかった。

人々が笑って生きていける国を、ヒルベルテ達と作りたかった。




ヒルベルテは死んだ。

遺体も残さぬ惨い死に方のまま、王都に戻って来た。


あり得ないことが起きた。

魔獣すら忌避する神の山脈ゼフェスゾームに魔王――悪王側の諸侯王が現れた。

魔王は狂ったように暴れ、瘴気を振りまき魔獣や魔物は凶暴化した。

討伐に赴いたバーンベルク騎士団とベルンシュタイン騎士団は。

シルヴィナは腕を失い、オルトス・ベルンシュタイン辺境伯は魔障で死の淵を彷徨い。

…ヒルベルテは。シルヴィナを庇い、塵になって、死んだ。


戻って来たのは、小さな小箱。

そこには、彼が愛用していた、留め具の壊れた黒い十字架の耳飾りが一対。

国の膿を出し切るために、敢えて軽薄に振る舞い相手の懐に飛び込むヒルベルテに、エルルが贈ったもの。

普段使いの黒い十字架の耳飾りと遜色ないように、シルヴィナと相談しながらエルルの色である小さなペリドットの石が付いたもの。

「嬉しい、めっちゃ嬉しい‼」

『スッゲー嬉しい‼ありがとうエルル‼』

抱きしめて、とても喜んでいた。


それだけしか、戻ってこなかった。

実感があまりにもなくて、何時ものように笑顔で現れるんじゃないかと思って。

何かの事故で行方不明で、バツが悪そうにひょっこり現れるんじゃないかと思って。

遺体も残らない死に方をしたって、理解したくなくて。

涙が、出なかった。



――ヒルベルテが死んだ日から2か月後。


「――エルル・ティア・シェレンベルク第二王女。婚約者を想う貴女には喪に服すためにも教会に身を寄せては如何でしょうか」

『穢れた魔族が死んだ。忌々しい女侯爵は生きているが、腕を失っては表舞台に立てまい。いい気味だ』


――教会本部にて。

半ば放心状態のエルルは国王と共に教会の神官達によって呼び出されてしまった。

本来ならば王家が抗議を入れるところであるが、国王は侯爵家の後ろ盾は期待できぬと判断しエルルを差し出した。

幸いなのは、王妃も付き添ったこと。

国王のエルルへの情の薄さが窺える。

エルルは教会本部の大司教にそう言われる。


しかし――。

『これでいい。これでいい……。神の復活は叶わなかったが、聖女エルルが居れば私の権力は保たれる……。』

――なんて醜い心だろうか。

その醜悪な感情はあまりにも強く、大司教の心の映像がそのままエルルに流れる。


聖女マリエラが娼婦のように大司教とまぐわう様。

神の腹心が悪王を封じる、神の山脈を曲解し神の腹心が封じる魔王を蘇らせた様。

その召喚の過程で、敬虔な巡礼者に魔王召喚の魔方陣を刻み、彼らを犠牲にして向かわせた様。

(…やめて)


そして、過去の記憶まで『視えた』。

王都セレイムの惨劇。その当事者たる邪視の魔女の魂の慟哭。

そして。

――神は、大切な者を失った魔女の叫びを汲み取り、二度と聖女を送らない事。


神は、もう、聖女を要してなどいない。


それでも、自分の権力の為に聖女を作り出し、汚してきたのだ。大司教は。

ヒルベルテの死の原因も。

魔王復活に関わっているのも。

聖女マリエラを聖女として祭り上げて、腐敗の限りを尽くしたのも。


(やめて、やめて…)

ゼフェスゾームの山脈で、ゼフェスゾーム辺境領で、バーンベルク侯爵領で、王都で。この国で起きた記憶の濁流。

一瞬の事とはいえ、凄惨すぎる光景を目の当たりにした。

愛する者を失った深い心の傷は、エルルの『心眼』の制御を暴走させる。


祝福を制御する魔道具に亀裂が走った。

エルルは耐えきれず、目をつむるが無意味。

(見たくない、やめて、ヒルベルテ…助けて…)

無意識にヒルベルテの耳飾りを握りしめていた。

それでも流れ込んでくる記憶。

愛する人の領で交流のあった、多くの見知った騎士たちの亡骸。蹂躙する悪王側の諸侯王・序列『君主』。

血に塗れたヒルベルテはシルヴィナを庇い、その身体は。塵になっていく。

愛する人の何もかもが、消えていく。

(やめてーーーーーーーッ!!!!!)


「そんな穢れた魔族の十字架など、捨てなさい。貴女に神の加護がありますように…」

大司教は豪奢な十字架をエルルの首に掛けようと歩み寄る。

エルルは過呼吸を起こしていた。

王妃は、扇子でその手を打ち据え、それを叩き落とした。


「……ッ。巫山戯るな‼よくも娘婿(ヒルベルテ)を冒涜し、私の娘にそのような妄言を吐けたな‼

私の娘に近付くな、下がれ‼」

王妃はガタガタと震えるエルルを自身へ引き寄せ、扇子を投げつけて叫んだ。

「王妃殿下ッ‼大司教様に対して無礼ですよ‼」

「大司教と呼ばれているが、大司教の席に座っているだけで、聖職者の資格など皆無であろうが、貴様ら‼」

「……ッ、何処まで私を愚弄すれば――」

『神の代行者たる私自ら、王女殿下の『禊』をすれば黙るだろう』

「先に我が未来の息子を愚弄したのは、貴様らだろう‼」

大司教が吐き出す映像は、エルルの心をおぞましさで埋め尽くす。

「エルル、こんな所に居なくて良い‼」

王妃は亡き婚約者の十字架を手が白くなるまで握りしめ、硬直する娘を抱き上げる。

此処で過呼吸の処置をしようにも娘の負担になると判断し、王妃はエルルを抱えたまま国王を置いて馬車へと向かった。



王城へ戻った後、王妃は激高した。

「国王陛下も、何を考えているのです‼あのような者を排除もせず‼婚約者を失って間もない姫の傷を抉るなど‼」

「まあ待ってくれよ、妻よ。所詮は政略結婚。王女は泣きもしないではないか」

『さて、ここいらでエルルを切れば教会の恨みもないだろう。そうすれば、王家は教会への影響力を得られる』


「――ッッ」

叫びたかった。でも。

視たくないのに、身体が動かない。


教会はエルルを聖女と呼び、手籠めにする気だ。

王は娘のエルルを、バーンベルク侯爵家の後ろ盾は見込めぬと教会にすり寄るために捨てるつもりだ。


――最早、何も信じられない。


口論する二人の隙を付いて。

硬直する手をどうにか動かし、…王の書斎から、こっそり『それ』を持ち去った。

もう、見たくないから。


気付けば自室に鍵をかけ、――拳銃と、ヒルベルテの耳飾りをテーブルに置いた。

暫くはぼんやりとそれを眺めていた。


贈られた腕輪――亀裂の入ったそれを付けていることを確認し、黒い十字架を握りしめ、呟く。

「…ヒルベルテ。貴方の耳飾りを目印に、…顔が無くても、わたくしを見つけてくれる?」

もし生き残っても、奴らは傷物を聖女にしないだろう。

「もう、貴方のいない未来…『視たくないの』」


拳銃を手に取ったその時。

強烈な打撃が、自室のドアを貫通した。

(…?)


「すまないね、エルル王女殿下。ノックをしようとしたが、躓いてドアを壊してしまった。……腕を外すのを手伝ってくれませんか?」

シルヴィナの声だった。


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