59.聖女たちの情報交換③
「と、言ってもなあ。…強気に言ったが、封印が一時解除されて魔王がどう動くか分からんぞ」
「巨大すぎて敵の想定が難しいですよね…」
どう手を打つか。ヴィルヘルム様もフォクス様も悩んでいます。
「ヴィルヘルム様は、起きる時に何処を一番に動かします?」
その時、デイジーさんが不思議な質問をしました。
「あぁ?んー、ベッドから降りて、目覚めの紅茶…?」
「床で寝ていると想定してください。
大抵あくびをして、腕を伸ばすんじゃないでしょうか?」
「まあ、確かに。…おい、魔王を一緒にするなよ」
「多分、あくびされたら疫病が蔓延します。そして、腕を伸ばせば破滅の嵐になるでしょう。危険です」
僕も思わぬデイジーさんの推測に突っ込んでいました。
「だって、神の腹心がしがみつくように覆って封印しているのでしょう?シルヴィナ様曰く、人型で封印されているそうなので。まあ巨大ですけどね。
なら、自由になりたくて腕を伸ばして背伸びしたくなるじゃないですか。
ですので、目覚めの際は頭に近い部位から動くでしょうね。その部分を優先的に封じる――妨害すればよいのではと。
シルヴィナ様には我が一族のトンデモ研究は見せましたし、共有して良いそうなので」
そして、デイジーさんは古びた手記をドサドサと取り出しました。
「これは、大昔に『ゼフェスゾームの山脈=大魔王説』を公表して処刑された、私の先祖の手記です。…半分だけですが」
「何故、半分なのですか?」
「それがですねー、サリナ様。ご先祖は拷問されようが意地でも主張を変えなかったので。処刑寸前まで研究結果をクソデカボイスで叫んでいたそうなのですが。
処刑前日に研究資料だけは後世に繋げると言った我が子に…。
『私が人生全てを捧げた研究を半端者に託せるか‼』と言って、半分に引き裂いたんですよ。ついでにその場で飲み込んだ徹底っぷりだそうです」
「そこは我が子に全てを託す流れではないのですか!?」
「……マジか」
サリナ様も思わず突っ込み、ヴィルヘルム様が愕然とした声色で呟きました。
「何分、うちの家系は研究馬鹿か熱中馬鹿ですので。死の間際だろうと、半人前にはこれで十分だとのたまったそうです。
……そのおかげか、ブチ切れたお子さんはゼフェスゾームの山脈の真なる魔王の座標と核のおおよそを当てました」
「まあ、凄いではありませんか」
「――で、お父上の墓に完成した研究資料を叩きつけて、シャンパン振って罵倒して祝宴している所を警備隊に捕まって、処刑されたんですよね」
「仲悪いのか良いのかどっちなんだッ!」
「運も悪いというか…」
……ヴィルヘルム様とフォクス様に同意です。
デイジーさんのご先祖、行動力と発想力が強すぎます。
「デイジー殿が持っているそれは、未完成品なのか?そうではあるまい」
エヴァンス様が冷静に問いかけます。
「ええ。一番のお得意さんに半端なものは出しません。
その更にお子さんの方がどうせ処刑されるなら…半端ものって断罪した方が、やった連中を後世で笑いものに出来て面白そうだね~って、隠したみたいで」
「お前の先祖どうなっているんだよ」
…何と言っていいのでしょう。…ぶっ飛んでいる?
「最近になって、お子さんの伝記と共に墓から出てきました。残りの研究資料を手元に置いておくと、自分たちも処刑されるだろうからって。
ちなみに、半分は春画でしたよ。暗号解いて、先祖の『嫁たんとのらぶらぶちゅっちゅ日記』の中に残りの半分の半分を隠していたのをやっと見つけたんですよー」
「……親と、あまりにも似すぎだろう。てか、何だその日記は」
「絵日記です。よければ見ます?」
「嫌ですよ!?‥‥‥あー、そういうことですか。隠すのに丁度いいわけですね」
「ヒィッ!?生々しい!?」
「何見ているんですか、えっちっ!」
「おい貴様それを直ぐに閉じろサリナに欠片も見せるな」
「あの、他に大事なことが隠されているかも…ほわっ!?」
「アヌシュカ殿も見てはいけない。いいね」
「アッハイ」
+++++
エヴァンス様の指示でデイジーさんはご先祖の資料を一部、鞄に戻しました。
「更に残りの資料は、ゼフェスゾームの山脈の山岳民族に預けていました。…あの冬登山はキツイですよー」
山岳民族と友好を深めるため、冬のゼフェスゾームの山脈の登山を敢行したそうです。
「ちなみに、ゼフェスゾームの山脈の冬の登山は屈強な騎士でも死ぬ危険なものだ」
「そうそう。とある方が遭難してまして、凍死寸前だったので到着が遅れたんですよねー」
「…何でデイジーさんは大丈夫なんですか?」
「そりゃあ、冬山登山を仕事の合間に体験してきましたし。いやー、ガッチガチに凍ったその人を人肌で温めたらキャーッって悲鳴上げられましたよ。
悲鳴上げる前に回復しろって、スープ口にねじ込んで怒りましたね流石に」
「お義母様の話では、デイジーさんは第六感というか、直感が優れているそうです。…その分トラブルに遭いやすいのですが…」
お陰で資料を受け取り、山頂の写真を撮れたし出会いもあったとデイジーさんは笑います。…トラブルとか気にしていませんね。
ご先祖に負けず劣らず、デイジーさんも行動力の化身です。
「それで、封印の場所――頭部の位置に予想はあるのだろうか?」
「おおよそですよ。何百年も経っていて地脈の変動もあるだろうからと、私も実地調査してきました。その上でざっと…この辺かと」
「‥‥‥ゼフェスゾームの山脈の神殿の真下、だな」
エヴァンス様の低い声に頷いて、デイジーさんは答えました。
「はい。そう考えています」
「私もだ。先の魔王召喚の地点が心臓――核に近い部分だったことも考えて、位置はそれで在っているだろう」
沈黙が流れました。
「……どうしましょうか?」
サリナ様が言葉を選んで発言しました。
「封印は核の中心で行うが、真なる魔王の行動阻害に頭部の破壊は有効だ」
「神の神殿を破壊するのは…」
サリナ様は神の教えに敬虔な方なので、抵抗感があるようです。
「…こう考えましょう。真なる魔王の復活に神は備え、神殿はその標である、と」
「アヌシュカ様…。そうですね。これも、神の御意思なのかもしれませんね」
「目覚めて起き上がる前に組み伏せるようなものか…。卑怯とは言わせん。
巨大すぎて対処できないならば、眠った状態で叩きのめすしかない」
「デイジー様の先祖の仮説が正しければ、グリンホルン共和国の側にも……。
山脈を迂回した魔獣の渓谷方面にも影響が出ます」
「不測の事態の高位魔族と、既存の魔獣たちの暴走…ですね」
フォクス様が考え込むように呟きました。
「グリンホルン共和国側に関しては、こちらで対処する」
ヴィルヘルム様は即断します。
「……ただ、その間にゼフェスゾーム辺境領も魔獣の群れに襲われる危険性があります。
バルバス二重王国としては今後の魔獣被害を鑑みて、全勢力を投入する事が出来ません。…強大な力に怯えた魔獣たちの動向に注視せねば。
ある程度、辺境領で引き受ける事になります。――ご協力頂けますでしょうか?」
「勿論です」
真なる魔王が…あくびをする位に眠たかったならば…。
微睡む瞬間だけは、『無防備』かもしれません。
湧き出る呪いを食み、魔障の被害を引き受けることは可能でしょう。
――……。




