52.500人の聖女が発現した説明会①
最後の聖女候補たちが到着しました。
その頃には僕のお耳と尻尾も元に戻りましたね。
カレンもヴィオラさんもしょんぼりしていますが、僕は安心しています。
聖女候補500人。そのうち参加者262人。その護衛も倍近く。そして地方に居た神官さんたちも居ます。
デーヴァ領にある競技場なら皆さんを招集するに適しているそうです。
ちなみに、事情があって不参加の聖女候補や他の方にも魔道具で中継しているようです。
「ご高齢の方も多いですし、私のような好奇心旺盛なタイプの人ばかりじゃないんですよね」
写真という魔道具を持ったデイジーさんがそう教えてくれました。
「…魔女狩りの被害者遺族も多いという。拒否した者も多い」
「それは、そうですね」
「やあ、アヌシュカ。この度は君を随分と驚かせたね」
シルヴィナ様は笑顔で話し掛けてくれました。
「君が聖女となった事。何故、美醜も問わず老若男女の聖女が現れたか、これから説明するよ」
「辺境伯よ、あとで夫人をお借りできないか。サリナが夫人に会いたがっている。
無理にとは言わん。説明の後、返答を求む」
「は、はい。(魔王が選択権を与えた!?)
「はい(魔王が譲歩しています!?)」
お忙しいのか、エヴァンス様を連れて直ぐに行ってしまわれました。
ちなみに、少し気になったのでリッツ…いえ。現フェカーリエン伯爵夫人の姿を探しましたが居ません。
デイジーさんは困ったように笑いながら二人は競技場のおトイレに居ると話しました。そこから魔道具で中継して説明を聞くそうです。
「?体調が悪いのでしょうか?」
「いや、あの伯爵は便所が大好きでして」
「デイジー殿、妻に変な知識は入れないで下さい」
「すみません。ただ、変人ですけど農学や衛生管理に秀でた人材なんですよねー」
フェカーリエン伯爵が絡むと旦那様は僕の耳を塞ぎます。
何故でしょうか?
旦那様の耳を塞ぐ行動を強引に剥がすデイジーさんも、中々肝が据わっています。
「はいはーいっ、此処からは辺境伯夫人も聞いておいて損は無い話ですからっ。
…不作や疫病対策もお詳しいので、もしもお困りでしたら、知恵と方法を授けてくださいますので。ご心配しなくとも、伯爵は基本的に紳士ですから、奥様に危害はありません」
「素晴らしい方ですね」
「ご不安でしたら、ヴァイオレット商会を是非仲介してくださいませー」
デイジーさんは商売上手で気さくな方ですね。
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シルヴィナ様とローレル司教様が壇上に立ち、シルヴィナ様が魔道音声拡声器を持って皆さんに話します。
「さて、聖女候補諸君。前代未聞の500人の聖女判定に驚いただろう。
先ずは、これから私たちが虚偽を述べないことを神に宣誓しよう。『私シルヴィナは創造神ゼフェスの名の下に、真実を話し一切の虚偽は述べない事を誓う』」
ローレル司教様も、他の神官様も、聖女候補の数名の方――ベアトリス様も。
神の名の下に宣誓しました。
「君は宣誓を破ったものを見たことが無いかもしれないが…。
創造神の名の下に宣誓することは神との一時的な契約のようなもの。
過去の事例だと…嘘偽りがあった場合、力の全喪失された者もいる」
「そうなのですね」
「500人もの人類が何故、聖女に選ばれたか説明する。
…と、言っても。
歴史の講釈を話すのも退屈だろう。ザックリ話す。
ゼフェスゾームの山脈で開戦した魔王討伐。
我が息子ヒルベルテは戦死し、ベルンシュタイン辺境伯も魔王の呪いで死の淵に在った。
――あれはまだ、終わっていない。
先ずは、魔王の召喚を計画した愚か者がいる。
教会本部の大司教たちだね。
捕まえてはいるが、奴らは『また』神を召喚する気でいるようだ。
彼らは心から神の召喚と信じている。
‥‥‥半分正解で半分ハズレだ。
――ゼフェスゾームの山脈は、邪悪な真なる魔王を神の腹心が封じて出来たもの。
腹心も神の力は持っているから、曲解したのだろう。
そして、ゼフェスゾームの山脈だが…あれこそが邪悪な魔王を封じる神の腹心そのものなのだよ。
あの広大な山脈が直立した『ソレ』が真なる魔王になるね。
全長は…約1373万2250㎞と云ったところだ。山脈の範囲とほぼ同じ。
神の腹心も真なる魔王もその位のサイズなので、空を突き抜けるから腰元すら見えない。
その規模の善と悪が直接対決しようものなら、まあ文明一つ終わる」
会場がどよめきました。
ゼフェスゾーム辺境領を魔獣の類は襲ってくることはあります。
ですが、彼らは魔獣の渓谷から大陸の4分の1を占めるゼフェスゾームの山脈を迂回して辺境領を襲うのです。最短ルートである山越えはしない。
それどころか近付くこともしません。
潜在的に恐れているからです。
シルヴィナ様がおっしゃる神の腹心――真なる善の魔王と、それが封じる悪王を。
僕たち魔王からすると、真なる善の魔王そのものと認識するので本能的に敬う存在です。
「今、魔塔の魔術師たちが結界の綻びを修繕しているが…時間稼ぎにしかならない。
一度、結界を解除して封印を張り直す必要がある。
封印が解き放たれれば、私やベルンシュタイン辺境伯が戦った魔王以上の災厄が湧き出てくる」
デーヴァ領の会場に集まった聖女候補や神官たちは動揺し、ざわめきが波のように広がりました。
多くが、シルヴィナ様の欠損した左腕を見て、その次の戦いが絶望的だと不安に感じています。
「故に、お互い再封印で眠ってもらう。
封印しようにも大陸の四分の一を占める魔王相手だと、範囲が広すぎてね。
我々だけでは結界の修復のみ可能で、民の守りは不可能。ゼフェスゾームの山脈に面する地帯は軒並み滅亡するよ。
故に神の力を借りなければならない。そこで必要になったのが聖女と神官の力なのだ。
が――
神の恩恵を受けるべき教会が腐敗していて、碌でもない聖女ばかり選定するものだからどうにもならない。神力減少も相まって人の守りが圧倒的に不足している。
私は魔王討伐の折、神から恩恵を得たのでその特権を駆使して、聖女をこちらで選定した。
と言うわけだ。わかったかな?」
ザックリ過ぎるシルヴィナ様の言葉を聞きながら、僕は考えこんでしまいました。
悪王の呪いを食べれば、少しは負担が減るでしょうか。
…しかし、何千年も封印された鬱憤と悪意です。
相応の代償は覚悟しなければなりません。
「君たちは不思議だと思ったのではないか? 前聖女の評判を知っていれば尚更だ。何故、美醜も年齢も男女の性別も関係ないのか疑問に思うだろう」
シルヴィナ様が言葉を続けます。
「――君たちの先祖を。血縁者を。魔女と決めつけ拷問の末処刑した連中に証明しなさい。
そうでなくとも、君たちのその魂の高潔さを君たちの子孫に証明しなさい。
君たちが正当な聖女であり、悪しき魔女などではないことを」




