49.便所の聖女シャルロットと鏡の聖女デイジー①
※次回から変態が加速します。
「貴女は聖女の素養があります」
シャルロット・リッツは聖女候補となり有頂天となった。
しかし、その高揚は一気に下落した。
「そして、便所の精霊の加護を持っています」
「ハアアアアァァァァァッ!!??」
神官に告げられ、周囲の聖女候補の見物人から、クスクスと嘲笑の的となった。
便所の精霊は、糞便による感染の浄化や家畜の糞を肥料などに役立てるという。
「畜産業にも活用できますよ」
(要らない‥‥‥)
「あの…精霊の加護を交換って…‥‥」
「出来ません」
そして、次へと声を掛ける神官。
「はーい、次の方~、デイジー様ですね。貴女は…鏡の精霊の加護を持っています。そして聖女判定が出ています」
聖女判定とは、こうもポンポン出るものなのだろうか。
他の神官が聖女判定を告げた。相手はヨボヨボの爺で、光の精霊の加護だという。
「あなたは‼ひ!か!り!の!精霊!の!加護持ち!の!聖女です!!」
「は~?家の戸締りか~?盗られるもんなど無いわい」
治癒能力に特化していると神官が大声で伝えている。耳が遠いらしい。
「えっと…どういう加護ですか?」
デイジーとかいう、平民の癖に金髪と青い瞳を持つ女が神官に尋ねている。
「行った場所の水や鏡などを介して遠方を観察できるものです」
「へー、面白い加護ですね。よろしくお願いしますね、鏡の精霊さん。
…ちなみに、私写真を撮影するのですが、精霊さん。撮影した場所を見えたりしますか?…ふむふむ、じゃあ…すみませーん!」
未だに大声で聖女判定の出た爺に難儀している神官に駆け寄る平民女。
そして写真を撮ると、魔道具のカメラから一枚の写真が出てくる。
「あっ、やっぱり!神官さん、お爺さんの耳の悪さッ、これですよ‼」
「うひぃ!?」
「ピンセットと保湿用のオイルで取れるかと」
どうやら、長年の耳糞が詰まって耳が遠かったらしい。
「お?耳が聞こえるようになったわい」
「ひいぃっ!?」
除去した耳糞に神官はドン引きしていた。
爺は朗らかな表情をしている。
(何であんなお母様の耳飾り位の耳糞サイズのジジイが光の精霊の加護持ち聖女な訳?)
「そのような便利な加護の使い方があるとは…。是非、教会で働きませんかデイジー様!?」
「いや~私、ヴァイオレット商会広報部門の新聞記者なので。編集長と商会長に確認しないといけませんし」
「ああ、あそこの…。気が変わりましたら是非」
「何であんな平民女があんなに称賛されるのよ…‼」
「それは……聖女の才能としか言いようがないでしょう。あんな応用があるとは、さすが聖女候補様ですね。貴女の便所の加護も応用次第で民に庇護を与えますよ」
(全然大丈夫じゃないわ!この女さえ居なければ……)
そもそも、何で平民女が金髪なのだ。
居候の落ちこぼれの叔父の娘アヌシュカですら銀髪だった。
どうして自分は栗色の髪なのだ、本物の貴族なのに。
ジジイに手を振って帰路に着こうとする平民女の髪を掴んで引っ張る。
「痛っ‼何ですか!?やめて下さい!」
「うるさい‼その精霊と交換しなさいよ平民女が‼」
「何しているんですか‼」
「黙れ‼交換しろって、言ってるのよぉぉおおお‼」
神官の足をヒールで踏みつけ、平民女の頭を思いっきり床に目掛けて引き倒そうとした時だった。
突如顕現した幾重もの巨大な氷柱に身体を拘束され、追尾効果で氷結されて阻まれる。
「…クロさん?」
「デイジー、無事?」
平民女を、見惚れる程の美貌の黒髪の青年が支えていた。
「アハハ…何か、怒らせちゃったみたいです。ご心配ありがとうございます」
「一緒に行くべきだった…ごめんね」
「クロさんの所為じゃないですよ」
「何するのよ平民風情が‼私は聖女よ!?その女が私の加護を奪ったのよ!?」
「リッツ伯爵令嬢やめてください、その方は…!」
「君に乱暴した令嬢…、リッツ伯爵家の令嬢だね。…ノア」
クロと呼ばれた青年が教会内に魔法陣を展開させると、一人の魔術師がドサリと落ちた。
「痛たた…ってクロヌス師匠!?何ですか、急に」
「各地で増加する聖女。教会からの判定用の水晶の検査要請、全部白紙にして」
「ありゃあ、良いんですか?」
「いいでしょ。神官の神力減少もあって要請しておいて、各地でこれだけ魔術師の陰口叩いているし」
近くにいた神官に紙の束をドサッと渡すクロという美青年。
「あらー。魔術師の『眼』が無いとでも思ったんですかねー」
「あの、待ってください魔塔主様!」
「僕は先代。魔法を楽しむために研究しているだけで、誰かの命令は聞かない。
よりにもよって僕の恋人に乱暴する何てね」
「ほわっ!?」
「師匠に春が!?」
「ノア、教会の要請も無くなったし、ゼフェスゾーム山脈の調査を優先できるよ。
教会としても、そちらの方がいいでしょう」
「おお、それはありがたい。神官どのも、我等『魔女の手先』な魔術師の力を借りなくて済んだ!良い事ですねぇ」
「じゃあ、デイジー。行こうか」
顔が真っ赤の平民女を連れて、二人の魔術師は移送方陣で消えていった。
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それから、シャルロットにとって苦難の日々だった。
『暴力便所令嬢』と揶揄され、貴族令嬢や夫人のお茶会など一切から締め出された。
――そもそも、忠臣の男爵令嬢に詫びの一言も無いので当然の対応だ。
教会の司教から直接、『聖女候補であるが、民を害する者は選定できない。生涯便所の聖女見習いとして慎ましく過ごすように』と告げられてしまった。
そもそも、そんな加護を外してくれと言っても、シャルロットは便所の精霊と親和性が高い故無理だと言われた。
お父様やお母様に癇癪を起こすも、父は悪夢を見るとかで出来損ないの叔父にずっと詫びているし、母は投薬のし過ぎで寝込んでいる。
日々、使用人に当たり散らすシャルロットだったが、奇跡が起きた。
以前、シャルロットに魔王に呪われた血まみれ辺境伯との婚姻を持ってきたバーンベルク女侯爵。
「ベルンシュタインに嫁いだ令嬢…アヌシュカ現辺境伯夫人の生家が衰退するのはよろしくない。
伯爵、そして夫人。シャルロット・リッツ伯爵令嬢を…、
ウンフェンコ・フェカーリエン伯爵に嫁がせないかい?
彼は令嬢が聖女候補と知って、是非当家の繁栄の加護を頂きたいと言っている。
…リッツ家が抱えた負債も多額の持参金で補填できるし、君たちはここ最近社交界に出られぬ程具合が良くない。保養地で静養する費用も負担するそうだよ」
盗み聞きしていたシャルロットは、伯爵の名前に引っ掛かったものの。
彼が、教会に現れた美貌の魔術師に劣るとはいえ、相当の美形の青年であることに好印象を抱いた。
釣り書きと一緒に描かれた彼の肖像画が、教会に現れた美貌の魔術師に劣るとはいえ、相当の美形の青年であることに好印象を抱いた。
(お父様の事業の失敗でドレスもアクセサリーも新調できなかったけれど、また出来るわ!)
(綺麗なドレスにアクセサリー、綺麗なお屋敷に綺麗な旦那様…!何て充実した生活!)
(ああ、ウザ晴らしのアヌシュカが居ないのは残念。どうせ呪われた辺境伯に喰い殺されたんでしょ…プッ)
(加護も隠しておけば問題無いわね)
実際に会ったウンフェンコ伯爵は非常に紳士的で、シャルロットの我が儘を何でも聞いた。
そしてその美貌と甘い口説き文句にシャルロットは陥落した。
シャルロットは心の中で狂喜乱舞しながら頷いた。
(やったわ!あの地味なアヌシュカにも金髪の平民女にも負けないわ!)
魔塔の魔術師だか知らないけれど、どれだけ美形でもお金があってなんぼ。
冨と名声を持つ美しい夫、そして聖女の自分。
シャルロットは全てを手に入れた。
――筈だった。




