34.解呪の時、障りがあると旦那様は辛そうでした
「奥様は‼ご自身のお身体を顧みず‼領主様の呪いを吸い出しました‼
毒血を吸い出すように‼
浄化の祝福を持っているからと‼ご自身が倒れても‼何度も何度も‼」
あの、僕は酔っぱらった感じになっただけです。新米魔王なので、何回も呪いを食べただけです。まだ半人前何です。
旦那様も解呪がお辛いのか、物凄く緊張させましたし。
解呪の後は、障りがあるからとバスルームに入っちゃいました。
僕が治しますよ、と声を掛けたのですけど…。
旦那様、ザッパンザッパン音を立てて入浴していました。
…そういえば、いつお湯を沸かしたのでしょう?そんな気配はありませんでした。
心配なのでダリアに相談してみたのですが…。
僕が旦那様の障りを治すのは、ダリアから3年後と言われました。後、旦那様から障りを治してと言われても、3年は断って下さいと真剣に言われましたね。
僕には順序だててお勉強することがあるそうです。
まあ、魔障と直接関係が無いので大丈夫でしょうけど…。
僕が上手じゃないから不調にさせちゃいましたし。
それを聞いたミュゲは爆笑でしたね。旦那様がお辛いのに、ミュゲはちょっと酷いです。
取り敢えずミュゲの両頬をつねっておきました。
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「ひっぐ…う~ッ」
カレンの嗚咽で現実に引き戻されました。
「カレン、大丈夫ですよ。泣かないで」
「奥様は…呪いを吸い出すと…食事が出来なくなって……。お身体が華奢なのに、スープも少ししか取れなくて、いつ倒れるんじゃないかって不安で…」
カレンは呼吸が荒いです。ボロボロ泣いています。
「カレン、心配かけました。ごめんなさい」
「何で奥様が謝るんですか…っ」
泣いているカレンの背中をさすって落ち着かせました。
「――祈りならば、私どもも…どれだけ捧げたことか」
司教様の言葉に、護衛騎士さんもその場にいた皆さんも静かに頷きます。
「それでも領主様は苦しみ続けた。神の加護を受けし聖女が逃げ、その後我々がどれだけ祈ろうとも変わらず、恐ろしい死の淵にあった。
――だが、夫人が嫁がれてすぐに回復なさった。
領主様の回復は、奥様の命を賭した献身に他なりません」
「そもそも、聖女でありながら、何故神力の欠片ほどしか持っていないのですか?」
「どういうことよ‼」
「――夫人は我々のような神力が及ばぬ者でも…我々に救いを求める方たちの為、魔障の浄化を指南してくれました。先人の神官が、後進の我らへ遺した治療法を探してくださいました。
貴様は何をした?図々しくも領主にすり寄る紛い物が。立ち去りなさい」
司教様や神官さんたちはこぞって聖女を締め出しに掛かります。
「聖女の訪問の日程は随分先だと、ベルンシュタインは認識しています。
あなたの祈りを待つ民は多くおります。元の巡礼のルートにお戻りください」
オロオロしましたが、何とか奥様の務めとして闖入者を排除しましょう。
丁寧に言って、カーテシーをした瞬間。
僕に襲い掛かるガニマタ様をディルが地面に組み伏せました。
ヴィオラさんは塩の袋ごとガニマタ様の頭に叩きつけています。
「何するのよ!?私は聖女よ!?お前たち‼早く助けなさい‼」
ですが、聖女の護衛達は放心状態です。
うーん。こんなに早く祝福が消えるとは思いませんでした。
精霊さん曰く、見目の良い彼らを魅了の祝福で好意を持たせたそうです。
祝福は神様が精霊さんを通じて授けるものです。
僕がその辺の偽りの加護を切り離したので、祝福も残滓が残っているくらいです。
残りカスの力では無理矢理上げていた好意や愛着を操作できません。なので、実質祝福は消え失せていまして、聖女の護衛は呆然としています。
聖女が乱心した事件は、司教様が聖女の保護を拒否したので、辺境伯夫人への暴行で衛兵に牢屋に入れられることになりました。
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僕が突き飛ばされた件が一報で届いたのか、戻ったら旦那様が血相を変えて飛び出してきました。
抱きしめようとして、手を止めてオロオロとしています。
「その、怪我は?痛むか?苦しい所は無いか?」
「平気です。僕よりも、僕を庇って怪我をしたヴィオラさんや僕の為に沢山怒ったカレンが心配です」
司教様達がヴィオラさんの治療をしてくれましたが、お顔に怪我をしていましたし。
自分のお怪我よりも、僕の事でずっと怒っていた優しい人です。
カレンも明るい子ですが、心の奥では僕の事で色々不安にさせてしまって申し訳ないです。
「貴女はどうしてそう…。今日は大事を取って休んで、君を庇ってくれたご婦人にはまたお礼をしよう」
あ、これは言っておきましょう。
僕は屈む旦那様に耳打ちしました。
「……精霊さんを保護しています。聖女ガニマタに無理矢理働かされて可哀そうなので」
ブバッフォンッ!と、旦那様は噴き出していました。
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アヌシュカの部屋で精霊を紹介してもらった。
「えっと、こちら僕の旦那様です。旦那様、こちら精霊さんです」
『お花がいっぱいだー』
『いい匂いー』
『ねえねえ、このお菓子食べて良いー?』
「…本当に精霊……」
妻が、教会で聖女に暴言を受けた結果、聖女を守護する精霊を連れて帰って来た。
「その…聖女の元に居なくていいの……ですか……?」
『ヤダ』
『男の人と変なことしているもん』
『無理矢理繋がれて痛かったし』
(王家に力を誇示するために精霊を無理矢理従わせるなど…愚かな……)
この辺境領だけでなく、他の領でも神官の神力減少は報告されていた。
シルヴィナ殿が神の意志に反した神の遣いを殺した後も、それは収まらない。
神の山脈を我欲で穢し、多くの無辜な信者を贄にしたからか。
神の使いたる精霊を、人間が隷属した罪なのか。
果ては、全てか。
聖女と言えば……。
「アヌシュカ」
「はい」
「俺の妻は君だけだ。それと、愛人を作る気も無い」
「旦那様は魔王を殺した英雄です。魔物から人々を守る辺境伯に惹かれる女性もいます」
「……」
貴族が愛人を持つことは多い。
アヌシュカは自身の想いに鈍い。ただ、一般的な貴族というものを把握しているので、聖女へあのように発言をしたのだろう。
「アヌシュカ、君ほど我が領を想う妻を軽んじて愛人など作れば、俺はとんだ愚か者になる。何より、君を侮辱する女を俺は全く好まない。
今度からは辺境伯夫人として、愛人も寄せ付けない気持ちでそういう女へ接して欲しい」
「分かりました。今度から愛人も不要と伝えます」
アヌシュカは相変わらず無表情だが、少し表情が柔らかくなった気がした。
「領に迷惑を掛ける愛人だった場合、仲人の…バーンベルク女侯爵様か小侯爵に話をしようと思っていました」
「絶対愛人は作りません」
魔王故、世界の秩序を重んじる性質だからか、その辺の容赦は一切ないアヌシュカの一面を見たオルトスだった。
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さて、精霊についてだが、どうしたものか。
「君が面倒を見るのか?」
「駄目でしょうか」
「いや…精霊の助けを無視はできまい。だが、君に負担ではないか?」
「うーん。神様の使いの精霊さんには負担でしょうか……、でも」
このまま自然に放ってしまうと、再び人為的な呪縛に巻き込まれるだろうとアヌシュカは告げる。
「せめて、精霊さんが気に入る人の傍が良いです」
「聖女を拒絶した教会をあたってみようか」
本部の腐敗は兎も角、あの司教様は敬虔な方だ。
『僕、あの人が気になるー』
『優しい人ー』
『スカッとしたよー』
「精霊さんのお気に召した人なら、もしかしたら聖女…聖人?に、なれる素質のある人かもですね」
ノックがして、ミュゲが入室する。
「主。……聖女の回収人が挨拶をしたいと遣いが……」
「この迅速な対応は…彼、か」
「はい、…エヴァンス・バーンベルク小侯爵です」
「「魔王が来た」」
(同感です、主)




