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「お前を愛するつもりはない」そう言った呪われた英雄辺境伯に、売られた令嬢は咄嗟に蝉ドンしてみた~魔王殺しの英雄と魔王令嬢の物語~  作者: 桃緑茶


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33.尊敬できませんので聖女ガニマタ様でいいですね

「……神様は完全に見限った訳じゃなさそうです。教会に自生している薬草やハーブはちょっと澄んで来ていますね。人間の祈りが通じているのでしょうか?」


僕がハーブを剪定していると、後ろでお洗濯している領民さん達が何やら話しています。


「ていうか、何で奥サマが聖女じゃないのさ?アタシみたいな酷いケガを、嫌な顔一つせず触って浄化して、優しい言葉を掛けてくれてさ。果ては仕事まで斡旋してくれてんのに」

「うちのチビがゲロって顔にぶちまけても、『スッキリしましたか?吐いた分、白湯を飲んで下さいね』って平然としていたよ…天使か?」

「都会の教会はどうなっているんだ?奥様といい、王女様といい、聖女候補はいるのに『アレ』って…」


うーん。僕は魔王なので、聖女になれないと思います。

でも秘密なので黙っておきます。


「おい貴様‼聖女様に何たる暴言を‼」

物凄い怒声が聞こえました。


怒るのは良いんですけど、人がいる事の確認くらいして下さい。


お洗濯している人たちに突っかかった騎士のいで立ちの人。僕が間に入ったのですが、イイ感じに聖女の護衛の膝が僕の鳩尾に入って、僕は吹っ飛んでいました。


「奥サマ!?」

お洗濯をしていた、錆色の髪の女の人――ヴィオラさんが僕を抱き止めてくれましたが、反動で二人とも転んでいました。


僕の護衛騎士のディルが狼狽えていますが仕方ないです。

反射的に動いたのは僕ですから。


+++++


何か、聖女と護衛がゼフェスゾーム辺境領の教会にやって来ました。

全然知りません。先触れも無いです。国内巡礼の道程的に、うちに来るのは当分先です。

というか、王家を介して謝罪をするので最後の筈です。


「奥サマ!?大丈夫かい!?怪我は!?」

「ヴィオラさんこそ、お顔が擦り切れています。ごめんなさい」

「いいんだよそんなことは‼」


「申し訳ございません奥様‼」

「僕が勝手に動きました。ディルの所為じゃないです。その、えっと、僕を吹き飛ばした人に怒って下さい」


「はっ!…辺境伯夫人を突き飛ばすとは何事だ‼」

「え?え?」

……見えていませんでしたか。


一番穏便に済むと思いました。


聖女の護衛ってことは爵位持ちの可能性もあるので、平民のヴィオラさんたちが罰せられると思いました。

一応、辺境伯夫人なので、僕が間に入るのが良いと思いました。


……間に入るにはちょっと、背丈が足りませんでしたね。立ち上がり切れなかったからか、屈んだ状態だったので、止まってくれませんでした。


(いけません。ちゃんと仲裁せねば)

でも、口を切ったらしくて、口を開くと血が出てきました。駆け付けたカレンがハンカチで口元を押さえてくれます。



「奥様?え?このちんちくりんがオルトス様の奥方?無いわね、クスッ」

護衛騎士が僕の身元を告げると、聖女に鼻で笑われました。


「アンタの護衛が蹴ったんだろうが‼奥サマに謝れ‼」

「醜い傷…聖女の心が穢れるので、教会に入らないでくれません?」

「アタシの事はどうでもいいだろ‼奥サマに謝れよ‼」


ヴィオラさんの左目を失明する程のやけど痕は、魔王の眷属から家族や子供たちを庇った時のものです。勇気の証です。

誇れるものであって、貶めるものではありません。

カッコイイし、とっても綺麗な人です。


と、いうか。聖女の顔が僕には見えません。


色欲に塗れた黒い感情が濃すぎて聖女の顔にモヤが掛かっています。

他にも色々歪みが出ていて、そこだけ黒い霧のようです。

金髪なのは分かりました。それだけです。


ハッキリ言います。――何でこんなの選んだのですか?


多分、聖女…って言える人は別にいます。

それをガン無視して、無理矢理に聖女の能力を詰め込んだ偽物です。

神力を無理矢理に不適合者にねじ込んだので、精霊が嫌がって泣いています。

例外…干ばつや洪水などの天災で神様の加護を必要とする時。どうしても必要で作り物の聖女を人間が作った場合。そういう時は本人が献身的なら、神様も精霊も加護を与えたりします。

緊急事態じゃあ無いのに、無理に聖女を作るのは良くないのです。


こういうのを何回も選出していたら、もう神様が聖女を選ぶ気は無くなりそうです。


歩き方は、僕が父と母と暮らしていた頃、良くしてくれた師匠の豪快な歩き方です。

名前は上手く聞き取れなかったので、取り敢えず聖女ガニマタとしておきましょう、語呂がそれっぽいので。


+++++


本当に聖女ガニマタ様の話は聞いていませんでした。

後で聞くに、相当僕を馬鹿にしたみたいです。

怒ったヴィオラさんやカレン、お掃除担当の人たちが応酬していたそうです。


僕は聖女の祝福に関わる精霊たちが助けてと僕に泣きついてきたので、そちらを優先していました。

『助けて‼助けて‼』

『こんな奴の傍に居たくない‼ヤダ‼』

『苦しい…イヤー‼』


…少しでも素養があるなら、彼らの心の底から泣く声が聞こえると思います。


酷いことをします。聖女ガニマタ様と鎖でつながれて、無理矢理力を使わされています。

鎖を切っても頑丈な仮宿が無いと引っ張り戻されますね。


『僕は諸侯王・序列『侯爵』アヌシュカです。僕でよければ仮宿になりますか?』

『なる!お願い‼もういっしょは嫌‼』

『助けて!』

『怖いよぉ!』


取り敢えず、鎖を切ると精霊は僕に入ってきました。

精霊の穢れを取り除くのも魔王の務めですし。


『繋がりの鎖が消えるまでは僕の中にいてくださいね』

『うん!』

まあ、精霊が歪んだ輪廻にいるのは良くないのでいいでしょう。


+++++


「聞いてるの!?」

「はあ」

色々言っていますけど、旦那様が好みなので奥さんになりたいそうです。

カレンとヴィオラさんが聖女ガニマタと口論しまくっていますが、僕も加勢しましょう。


……僕、ちょっと怒っています。


「わかりました。僕が奥さんなので、貴女は愛人になって下さい。でも本番はダメです」

「そう、オルトス様を癒せるのは聖女のこの私……、ハアッ!?」

「奥様!?」「ちょっと奥サマ!?」


「この国で側室が認められているのは、種の繁栄が必須の王家だけです。

離縁は手続きが複雑です。白い結婚なら三年掛かります。

なので、すぐに空きがあるなら愛人ですね。愛人なので、奥さんと同じ家には基本入れません。旦那様が甲斐性あるならお屋敷貰って下さい、聖女ガニマタ様」


何か、カレンもヴィオラさんも。出て来た神官さんも何か、プルプルしていますね?

旦那様が聖女ガニマタ様を受け入れるか分かりません。

ただ、次の辺境伯夫人にするには良くない人です。

もしもの時、ダリアたちが困るのは良くありません。ちょっと時間を稼いで、仲人――ご存命か分かりませんので、次期魔王…じゃなくて、次期侯爵に旦那様を説得してもらいましょう。


神やその遣いの精霊が嫌う聖女様でも、これは一応言っておかないと。

「あと、聖女で居たいなら、純潔を守って下さい」


精霊さん曰く、守ってないそうです。

聖女の敬虔さによっては、その辺はあんまり関係ないんですけどね。

色々違反しているので言っておきましょう。


「次の聖女が見つかったら本番は大丈夫ですよ。…で、次の聖女は見つかっていますか?」


僕はさっきぶつかった騎士へ尋ねました。何だか顔面蒼白ですね、他の人も。

「い…いえ」

「じゃあ、探しているんですね。それなら、聖女の候補を無闇に攻撃するのは良くないです。辺境伯の愛人になりたい聖女ガニマタ様の御意思に沿うなら、ちゃんと誠意をもって探さないと」

「誰がガニ股ですって!?」

「あなたです」


「キィィイイイイイイイーーーー‼」


僕に掴みかかるガニマタ様。

引き剝がすディルと、ガニマタ様の髪の毛を後ろから鷲掴みにして蹴りも入れているヴィオラさん。

「奥サマから離れろ!色ボケ聖女‼」

あ、ヴィオラさん、待って。一応聖女なので蹴ったら不敬になります。

物凄いですヴィオラさん。聖女に関節技極めているのはちょっとカッコイイです。

鼻フック?も極めてフゴフゴさせています。

何でかカレンはヴィオラさんに向かった親指を立てています。ディルはヴィオラさんの猛攻に、どっちの加勢をすべきか悩んで僕の盾になっています。


「いい加減にしなさい‼」

そこに司教様の怒声が飛びました。

「まあ、司教様ッ。このちんちくりんと醜女が酷いのですよ。聖女の私に暴言を…」

「マリエラ殿、貴様を聖女と認めません‼直ちに教会から出ていきなさい‼」


僕やヴィオラさんたちを庇うように前に出る、おじいさん司教様は聖女ガニマタを拒絶します。

ちょっと驚きました。アレな聖女でもこんなに拒絶する何て。

「魔王と戦い、傷を負った領主様の怪我を放置して‼逃げ帰っておいて‼

領民を献身的に支える奥方に‼子供たちをその身を挺して救った女性に‼何たる無礼な言葉の数々‼

ゼフェスゾーム辺境領教会支部は、貴様を聖女と認めない‼」

「何よ‼私の祈りでオルトス様は回復したのよ!?」


「領主様の‼魔王の呪いを‼吸い出して‼治したのは‼アヌシュカ奥様です‼‼」

あ、カレン。良いんですか?その辺言っちゃって。


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