22.善の魔王①
途方もない話だった。
魔国では2人の真なる魔王と72の諸侯王が統治していること。
真なる魔王は善と悪で対立していること。
諸侯王には君主、公爵、侯爵、伯爵、騎士、総裁が序列であり、オルトスが倒したのは伯爵クラスだということ。
アヌシュカの母が善王側の諸侯王・序列侯爵であり、アヌシュカの父であるリッツ家当主の弟と恋に落ちてアヌシュカが生まれたということ。
アヌシュカの父を追って死の世界に母も行ったこと。その際、アヌシュカに魔王の特権を継承したこと。
善の魔王は土地や生き物に巣くう呪いを喰らい、世界の秩序を保つこと。
「魔塔の記録と遜色ないですね。善王側の魔王は、呪いを食べて世界の秩序を保つ性質上、無駄な争いを好まない性質なのもね。
大昔は魔女狩りで、多くの善側の魔王が混乱を鎮めるために公開処刑される事態が続いて、暗黒時代に突入したこともあります」
「僕が死んでも大丈夫ですよ。ちょっと時間かかりますけど、また別の形で生まれ変わって世界に干渉出来ますし」
「奥様はアヌシュカ様おひとりです‼」
カレンはアヌシュカを抱きしめて泣いている。
(俺たちとアヌシュカは価値観が違い過ぎる……)
こちらが判断を誤れば、アヌシュカは理不尽な罪すら受け入れて、処刑も辞さないだろう。
「新米なので、旦那様の呪いを一回では食べきれませんでした。すみません」
「い…いや、気にするな」
これが、善王側の魔王なのだろうか。
他者を慈しむことを優先し、自身の事は気にも留めていない。
オルトスの知る魔王とは残虐な存在だ。忌むべき敵だ。だが。
(友を殺した魔王の軍勢も魔王自体も、我々が倒した)
――報いを受けるべきものからは、罪を清算させた。
人間の暴虐な王が居たとして、隣国の王まで暴虐な王になる訳ではない。同じ王だからと無差別に裁けば国が混乱する。
目の前に居るのは、ひたすらに真っ直ぐな娘。
己の力を誇示することなく、魔障の苦しみを人々の力で解決できるように導く知恵の娘。
――全くもって、違い過ぎる。




