15.ヒルベルテ・バーンベルク侯爵令息
魔王の呪いで長らく騎士団の鍛錬に不参加だったオルトス。
痛みも薄らぎ、久しぶりに辺境伯直々の指南を受ける騎士たち。
「領主様、お身体の方は…、と言っても剣を受けてほぼ全快なのは分かりますけどね」
騎士団長は苦笑交じりに告げる。
「ああ、不思議とあの焼けるような痛みは無い」
(動けるうちに騎士たちの士気を上げておかねば)
徹底的に扱かれた騎士たちは休憩時間の際、あるものを見つけた。
砦の通路からちょこんと顔をのぞかせる銀髪の少女。
「あれ、奥様か?」
辺境領にやってきた、人形のような少女。
だが、ゼフェスゾームの山脈の方角を眺めては、遠目でも分かるくらいにはしゃいでいる。
「大抵の令嬢は砦の生活に緊張するけど、そうでもないみたいだ」
「可愛らしい奥様だな」
「領主様を押し倒すだけあって豪気な幼な令嬢…」
要らんことを言った騎士はオルトスの鉄拳を喰らった。
遠目からアヌシュカの様子を見るオルトス。
(年頃の娘のように感情を出すとは…。ここの無骨な景色が気に入ったのだろうか?)
まあ、表情筋は動いていないが。それでも嬉しそうだ。
――あいつも、この辺境領に来てすぐに、ゼフェスゾームの山脈を気に入っていたな。
アヌシュカのように乗り出すだけにとどまらず、城壁をよじ登って砦の頂上に登ってしまったが。
5つ年下の悪友。ヒルベルテ・バーンベルク。
かの女侯爵の次男で、王家への婿入りが決まっていた。
父親似の燃えるような赤い髪と、女侯爵と同じ金色の瞳。
第一印象は軽薄、好奇心旺盛で御しやすい性質。
そう決めつけて懐に入れてしまうと、厄介な男だ。
「ほらよ、お前のところに攻め込むつもりでいる、お馬鹿さん共のリストだ。
おっさんにケツ揉まれてキレそうだったわー、俺の分もキッチリ締めとけよ、オルトス」
―― 一見軽薄そうだがそれは演技であり、すり寄った悪漢の重要な情報を仕入れてくる。
敢えて道化を演じ、相手の懐に潜り込んで情報を搔っ攫う。
その周到さは、女侯爵に負けず劣らずの才覚だった。
侯爵領の騎士団との合同演習で何度も剣を交えた。
互いに剣の実力も同等。性格は真逆だが、不思議と気が合いよくつるんでいた。
「エルルー‼好きだー‼結婚してくれー‼」
「いや、お前の婚約者だろう」
「可愛いエルルと今すぐ結婚したいー!そんでブーケトスでお前がキャッチ!」
「何でだ!」
「お前また振られたってミュゲに聞いたぞー?願掛けと俺の幸せおすそ分けだよ」
酔えば必ず婚約者の惚気を聞かされた。
「オルトス、お前みたいな朴念仁はなぁ、まずは未来の嫁さんになる令嬢と交流しろ。剣ばっか握って放って置くなよ?忙しいときは手紙書け、手紙。あと花。女の子の好きな色を聞いて、縁起の良い花言葉の花を選べ。…つっても、花に無頓着だろうし、ガーベラを勧める。怖い花言葉が無いから超無難」
ついでに酔うと説教臭くなった。主にオルトスがお見合いで連敗していることに関して。
というか酒豪なので、酔ったふりして言ってくることもある。
「交流はなぁ、食事だろ?散歩だろ?買い物でェ、相手の好きな色の贈り物選ぶだろ?あとはァ、領の祭りは外すなよ?未来の奥さんに自領を知ってもらうには一番いい。
愛とかで考えるとポンコツ何だから、奥さんの人とナリを、テメェの目で見極めて接していけよ。出身だとか血とか、そういうので差別すんな。ちゃんと嫁を見ろ」
この令嬢への交流は第二王女殿下とのデートが土台にある。
説教の後に百倍、王女との惚気を聞かされた。
オルトスは恋愛に疎いので、婚約者をひたむきに愛するヒルベルテが少し羨ましかった。
年の差など関係なく、頼れる友人だった。




