太陽の下で、君と
窓から爽やかな風が吹き込んできて、エヴァンは目を細めた。
まだ夜明け前だが、外からは既に人の声がしている。たぶん、漁から帰ってきた人達だろう。朝市に向けて、これから魚を加工したり、店に並べたりするのだ。
「んー……エヴァン?」
もごもごと呟いてぽすぽすとベッドを叩くクリストハルト―クラウスに、苦笑してベッドに戻る。手を握ってやれば、ぐっと引き寄せられて、安心したように眠りにつくのがまるで幼い子供のようで、癖のない淡い金の髪をそっと撫でてやった。
「クリス、まだ寝てる?」
「んー……」
むにゃむにゃと何事かを呟いて、すうすうと寝息を立て始めたクラウスにふっと笑みをこぼして、エヴァンも二度寝するべく体を横たえた。
この家に引っ越してきてから、一年半が過ぎた。
ウィ-トンズから陸路と海路を合わせて半年以上かかる距離にあるこの町は、美しい青い海が有名な土地だった。芸術家には特に人気で、そのせいか、男性同士の恋人たちも比較的多い場所なのだという。
実際、手を繋いで歩く男性同士の恋人たちをよく見かけるし、ときどき情熱的に口づけしている現場を目撃することもあって、エヴァンにはなかなか衝撃的だった。ウィ-トンズでは考えられない光景だ。住民たちも特に気にしていない様子で、見るたびに顔を真っ赤にするエヴァンは、「うぶだねえ」とからかわれたりもする。クラウスにもやってみるか、と実に楽しそうな笑顔で言われたりもしたけれど、ついぞできたためしはない。
(今はさすがに勇気が出ないけど……いつか、人前でするのにも抵抗がなくなるのかな)
そう思ってあまりの羞恥に呻いたエヴァンにクラウスが小さく唸り声を上げる。腰を掴まれて引き寄せられたかと思うと抱え込まれ、クラウスの胸に顔を押しつける格好となって、気がついたら吸い込まれるように眠ってしまった。
エヴァンはこの町で、代筆屋を行っている。手紙や書類を書けない人の代わりに書いたり読んだりするのが主な仕事だが、子どもたちに簡単な読み書きや計算を教えたりもしていて、まあまあ繁盛していると思う。クラウスの仕事は、モートンの補佐だというけれど、実際に何をしているのかはよくわからない。
よく何かを調べたり、手紙を送ったり、ときどき出張に行ったりもする。数日や数週間はざらで、場合によっては数カ月帰ってこない場合もあるようだ。数カ月も家を空けられるのは寂しいけれど、そのぶんクラウスが帰ってきたときにいろいろことを話せたらいい。
アイリスやジェイソンからも、ときどき手紙が届く。アイリスには婚約者ができて、来年結婚するそうだ。婚約者はエヴァンも知っている、穏やかな性格の好青年だ。彼とならアイリスも幸せに過ごせるだろう。ジェイソンはといえば、会社を興したいと考えているようで、結婚にはとんと興味がないようだ。彼らしいと言えば、彼らしい。
エヴァンはウィ-トンズでは、外国の女性のところに婿に行ったことになっているという。エヴァン達が国を出たあとに、母は父にだけ真相を話し、父がそのように手配してくれたそうだ。余談だが、その話を聞いても父は意外に冷静だったと手紙に書かれていた。父なりに、なんとなく察していたのだろうか。絶対に父は分かってくれないと決めつけていたことが申し訳なくて、これなら父にも直接言っていれば良かったかもしれないと少しだけ思った。
次に目を覚ましたのは、だいぶ日が高くなってからだ。
そろそろ店を開ける準備をしないといけない。この町は非常にのんびりしているので、遅い時間に開店しても怒る人は誰もいないけれど、このあたりに代筆屋は一件しかないので、早めに開けてしまうようにしているのだ。
支度の合間にクラウスを起こす。のそりと起きたクラウスはあくびをしてから、ふらふらと一階に下りていった。今日は彼が朝食をつくってくれる日だ。
クラウスのつくるご飯は、丁寧に作ってあるからかとても美味しい。エヴァンはわりと大雑把なので、クラウスのような繊細な味にはならないのだ。ときどき手伝いに来てくれるライナさんの料理は素朴な優しい味で、どちらもエヴァンは大好きだった。
(僕ももっと、美味しく料理ができるようになりたいなあ)
そう思いながら大きく伸びをすると、窓の外が視界いっぱいに広がった。
燦々と降り注ぐ日差しに目を細める。きっと今日も、いい一日になるだろう。
ifルートは、これで完結となります!
二人の長い道のりを見守ってくださり、ありがとうございました。




