愛しい君よ、死の先で一緒になろう(4)-sideクラウス-
生活基盤を整え、モ-トンの補佐としての仕事のやり方を身に着けるのに、およそ一年。
ときどきモ-トンからエヴァンやジェイソン、アイリスの近況を聞きながら、必要なことを学び、人脈を築き、ようやく自分の足で立てるようになってきたように思う。
モ-トンからエヴァンを迎えに行く許可が出てすぐに、エヴァンと接触する機会を得るために、各家で開催されるパーティ-の招待客を調べ上げる。ウィートンズに到着してから数日後に開催される夜会の招待客リストにジェイソンとアイリスの名前を見つけて、モートンの従者のふりをして潜入した。一年前より大人びて、凛とした雰囲気をまとうようになった彼女は眩しかったけれど、モ-トンに暗がりに誘導されて怯えを隠せない様子は昔と変わらなくて、知らず、笑みが漏れる。
クラウスがクリストハルトだと気づいたアイリスには大泣きされたが、事情を説明すると、今度は烈火のごとく怒られた。当然な自覚はあったので、大人しく平手打ちも受ける。
『どれだけわたくしたちが悲しんだと思ってますの!見損ないましたわ、クリスにいさまの馬鹿!大馬鹿者!エヴァンにいさまをあれだけ悲しませておいて、自作自演ですって!?冗談も大概になさいまし!』
『ふざけるな、この野郎!あのな、お前の母君は今も悲しんでらっしゃるんだよ。もちろんエヴァンもだ。俺やアイリスだって、お前が死んだって聞いた時は本当……どれだけ衝撃を受けたと思ってるんだよ!それだけ振り回しておいて、エヴァンとの駆け落ちに協力してくれって、何様のつもりだくそったれ』
ジェイソンにはまず顔を合わせた時点で一発、事情を説明してさらにもう一発殴られた。同じ場所を三発叩かれたせいで頬は腫れあがったが、それも甘んじて受けた。むしろそれくらいで済めば御の字だ。
二人にはものすごく怒られたが、翌日にはアイリスが家を訪ねて来て、ジェイソンがエヴァンを連れてここに向かっていると言ったので、驚いた。
『クリスにいさまにはまだ怒っておりますし、正直もっと反省して欲しい気持ちもありますわ。でも、エヴァンにいさまに一刻も早く安心してもらいたいですもの。……ですが、覚えておいてくださいませ。わたくしたちはエヴァンにいさまを支持しますからね。エヴァンにいさまがあなたとは行けないとおっしゃったときは、みっともなく縋るような真似はなさいませんよう』
そう冷ややかに言い放ったアイリスに、頷く。さすがにそんなことはしないし、望みがないと分かった時点で、ここからも去るつもりだった。
事情を説明していくうちに、エヴァンの眉間にどんどん皺が寄っていく。
それでも口を挟まずにいてくれたエヴァンに、クラウスは知らず、微笑んだ。
(不思議だ。……それだけで、こんなに満たされるなんて)
一緒に来てくれなくても、いい。
ただこうして話すだけで—最後まで聞いてもらえただけで、あれだけエヴァンを渇望していた心が、すうっと安らいでいくのが分かった。
ゆっくりと手を伸ばして、眉間の皺を伸ばす。それを振り払われないことが無性に嬉しくて、何度も彼の眉をなぞった。
「愛している、エヴァン。……たぶん、この命が尽きるまで」
だけど君は、そうじゃなくても構わない。
「君には、ご家族がいるし、アイリスもジェイソンもいる。……それに、君は優しくて、魅力的な男だから、いつか素敵なお嫁さんも見つかるだろう」
そもそも彼は、クリストハルトという男に巻き込まれただけなのだ。今ならまだ、やり直せる。ずっと昔、エヴァンが憧れていた優しい家庭を、彼ならきっとつくれるに違いない。
そんなことを思って錐で突かれたように痛んだ胸を、深呼吸することで誤魔化した。
「俺は君がどんな答えを出そうと、それを受け入れよう。……だから、素直な気持ちを聞かせてくれないか」
一時の衝動で、全てを手放してしまった愚かな男よと、笑ってくれていい。
もう二度と会えないのだとしても、エヴァンを幸福に導けるのなら、喜んでこの手を離そう。
クリストハルトは―クラウスはただ、自分のしでかしたことの責任を取っただけで、エヴァンまでもがそれに巻き込まれる必要など、どこにもありはしないのだ。




