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愛のカタチ  作者: 夕崎まほろ
<IFル-ト>
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愛しい君よ、死の先で一緒になろう(2)-sideクラウス-

 煙草の匂いが漂う店内に入ると、見知った顔を見つけて、クリストハルトは目を瞬かせた。

「お、ヘインズ!久しぶりだな」

「ああ。君がここにいるのは、珍しい気がするな」

 明るい顔で手を振ったのは、ラッセル・モ-トン。

 出自が平民である彼は、高級店よりも安い店のほうが馴染むのだと言って、あまりこういった場所には近づかない。どうしたのか訊ねると、取引をしにね、と含みのある笑みが返ってきたので、なるほど、と頷いておいた。内容は聞かないほうが賢明だ。

「ところでお前、婚約するんだって?」

 まだ決まってすらいない話なのに、なぜ知っているのかという質問は、この男の前では無意味だ。そりゃ顧客の情報だから、といい笑顔を向けられて終わることを、経験上知っていた。

ノーランド(あいつ)とはどうするんだ?まだ関係切れてないんだろ」

 この前もいろいろ買っていったしなあ、とにやにや笑われて、苦笑する。学生時代からずっとその手のことは彼に頼りっきりになっているから、いまだに筒抜けなのだ。だから、正直に話すしかない。

「関係を切るつもりは、正直ないが……どちらかが結婚すればただの友人に戻ると約束している」

「だから、結婚したくないって?」

「その通りだ」

 しかし、方法が見つからない。そう言うと、モ-トンは煙草をふかしながら黙り込んだ。

「いっそ何もかも捨てて、二人で逃げてしまおうか……」

 ため息とともに吐き出す。何度も考えてきたことだが、さすがに男二人が同時に消えると怪しまれる。幼馴染な上に、学生時代からの友人となれば、絶好の噂のタネになるに違いない。

 やっぱり無理か、呟けば、意外なことに、いいや、と返事が返ってきた。


「あんたの一生と引き換えでいいんなら、手伝いくらいはしてやるぜ」


 煙管を灰皿に押し付けて、モ-トンはこつこつとテーブルを指で叩く。

「二人一緒にってわけにはいかないがな。クリストハルト・ヘインズは死んだことにして、あんたは名前を変えて俺の補佐として働く。住む場所と給料は保障するぜ?」

 そうして、環境が整ったらノ-ランドを迎えに行けばいい、とモ-トンは片目をつぶった。

「名案じゃないか?」

「……」

 即答を避けて、クリストハルトは冷めかけたお茶に手を伸ばす。

 確かに、悪くない話であるとは思う。モ-トンは彼の父から一部の事業を引き継いだと以前聞いたことがあるから、彼の助手として働けるなら待遇もひどくはないはずだ。

「補佐、か。具体的には、何をすればいい?」

「いろいろあるさ。商談の交渉だとか、部下からの情報をまとめて俺に寄越すとか……まあ、綺麗なだけの仕事でないことは確かだがな」

 後ろ暗いやり取りもあるということだろう。健全な仕事内容であることを期待していたわけではないから、そこは別に構わない。

「……魅力的な提案であることは認めよう。だが、どうやって死んだことにするんだ」

 死の偽装なんて、簡単にできるものではない。ヘインズ家の跡取りという良く悪くも重要な立場だからこそ、人々に疑念を持たれるようなやり方は避けたかった。

「そんなの、いくらでも方法はある。あんたも知っての通り、俺にはいろいろと伝手があるからな。高位貴族だろうが、一人くらいなら、どうにでもできるさ」

 煙草の箱をポケットにしまって、モ-トンは皮肉気に口角を上げた。

「そろそろ決めてくれないか、ヘインズ?俺はけっこう誠実にあんたの質問に答えたつもりだぜ。待遇も破格と言っていい。この話に乗る乗らないは自由だが、乗るつもりなら俺の気が変わらないうちに答えを出した方が賢明だと思うぞ」

「……そうだな」

 きっと、このまま悩んでいても、救いの手が下りてくることはないだろう。

 それならば、たとえこの所業が悪魔に魂を差し出すようなものだとしても。

(……俺には、この手を取らないという選択肢はない)

「契約完了だな」

 手袋を外して右手を差し出すと、にんまりと目を細めたモ-トンは、実に満足そうに頷いた。固く握手を交わすと、彼は左手でポケットから硬貨を取り出し、立ち上がる。

「俺は仕事ができたからこれで。じゃあな」

 身辺整理しとけよ、言い残して去って行ったモ-トンの後ろ姿を見送って、こっそりため息をこぼす。

(一応味方、なんだろうが……何を考えているのか、本当によく分からないな)

 どうにもあの男は苦手な人種だと、再確認したのだった。


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