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愛のカタチ  作者: 夕崎まほろ
<IFル-ト>
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再会

 紅や橙、黄色の葉をつけた街路樹が立ち並ぶ通りを、見るともなしに眺めていた。

 木々の向こうに見える、小洒落た煉瓦造りの家々は、紅葉と合わせるとまるで一幅の絵画のようだ。

 貴族の多く住む中央市街からは少し外れているが、こんな場所もあったのかと感嘆した。


 家々からは少し離れた場所にある、一件の民家の前で、馬車は停まった。

 古めかしい石造りで、橙色に葉を染めた大きな木が印象的だった。楓だろうか。

 外装は控えめだが、伝統的な趣のある、美しい家だった。

「……ここ?」

「ああ」

 エヴァンが訊ねると、ジェイソンが御者に料金を払いながら短く答えた。

「いい場所だよな。景観も綺麗だし、大きい公園が近いらしい」

 老後はここに住んでもいいな、と辺りを見回したジェイソンを、エヴァンはじっとりと睨む。

「……それで?どうして僕をここに連れてきたのか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

 珍しくジェイソンが一人で会いに来たと思えば突然外に連れ出され、馬車に乗せられてこんなところまで来てしまった。理由を聞いてもはぐらかされるか沈黙されるばかりで、彼がエヴァンをどうしたいのか、さっぱり分からない。理由を言ってくれなければ動かない、とジェイソンを睨み上げると、御者が嫌そうに顔を顰める。申し訳ないが、無視した。


「……お前に会わせたい奴がいるんだよ」


 睨み合いの末、エヴァンの強硬な態度に根負けしたジェイソンの言質を取って、ようやく馬車を降りる。それからしばらく沈黙したのち、ため息交じりにジェイソンがそう白状した。

「嫌いな人なの?」

 なぜか眉間に皺を寄せているので聞いてみると、ゆるゆると彼は首を振る。

「そうじゃない。……けど、なんか、ものすごく複雑だ」

 やっぱりもう一発殴っておけばよかった、という物騒な発言に、エヴァンは眉を跳ね上げた。どうしてこの男はこうも喧嘩っ早いのだろう。仮にも貴族に生まれたのなら、もう少し穏便に対処すべきではないのか。

「ジェイソン、昔から僕もクリストハルトも言ってるだろう。君は短慮すぎる。何があったのかは知らないけど、殴るのは最終手段にするべきだ」

「……いや、今回は絶対に俺は悪くない。アイリスだって平手打ちしてたし、お前だって事情を聞いたら殴りたくなるはずだ」

 子どものように拗ねた顔で言い張るジェイソンに、やれやれと肩を落とす。もちろん彼が理由もなしに相手を殴るような男だとは思っていないけれど—……。

「……って、え?アイリスが平手打ち?」

 昔は嫌なことをされても怒るどころか泣いていたような子だったし、今だって怒ったとしても暴力に訴えるような真似は絶対にしないと言える。そんな彼女が、まさか。

 思わずジェイソンを凝視したエヴァンに、ジェイソンは心なしか胸を張って頷いた。

「ああ。ものすごく怒ってた。あんなアイリスは初めて見たな」

「それは……」

 ジェイソンを責めることはできないかもしれないな、と考えをあらためる。その男がどれだけひどいことをしたのかは分からないけれど、内容によっては会ったら拳の一発でもお見舞いしておくべきかもしれない。

「そんな奴が、僕に何の用だ?仲裁でも期待してるんなら、お門違いだぞ。君ほどじゃないけど、僕だって割と短絡的な自覚はあるからな」

 そう言うと、ジェイソンは喉の奥で笑った。実に愉快そうな笑みだ。

「今に分かるさ。—着いたぞ」

 そう言って、彼は玄関にかかっていた呼び鈴を鳴らしたのだった。


 ガチャ、とドアが開いて、優しそうな雰囲気の女性使用人が顔をのぞかせる。

「やあ。奴に会いたいんだが、今どこに?」

「旦那様なら、書斎で妹君とお話されていますよ」

「昨日と同じところだな?なら、案内はいい—行こう、エヴァン」

 頭を下げる使用人の横を通り抜けて、ジェイソンはずんずんと奥へ進んでいく。話し声がかすかに聞こえてくる部屋の前で立ち止まると、ドアをノックした。

「あ、いらしたのね!」

 ぴたりと話し声が止んだと思うと、靴音に次いでドアがやや勢いよく開き、アイリスが顔をのぞかせた。中にいるのであろう部屋の主は、壁に阻まれて見えない。

「でしたら、わたくしたちは公園に行って参りますわ。……二時間あれば大丈夫かしら?」

「いや、大事をとって三時間にしようか、アイリス。話し合いはこいつらの場合、長くなるかもしれないからな」

「ちょっと待ってくれ。なんで僕一人で相手をすることになってるんだ」

 こくんと頷いたアイリスの手を取ったジェイソンに、慌てて声をかける。

「アイリスが何かされたんだろう?それなら、せめてアイリスがいないといけないんじゃないか?」

「……お兄さま、エヴァン様になんておっしゃいましたの?」

 怪訝そうな顔をしたアイリスが、ジェイソンを見やる。

「ただ単に、平手打ちしたくなるほどアイリスを怒らせたって言っただけだ。別にアイリスが何かされたとは言ってないぞ?」

 もしそうなら川に沈めてやる、と酷薄な笑みを浮かべたジェイソンに、眉を寄せる。

「じゃあ、どうして僕を」

「それは本人から直接聞いてくれ。せいぜい穏便に話し合いが済むことを祈ってるよ」

 くるりと体の位置を入れ替えられ、半ば突き飛ばされるように室内に入る。

 バタン、とドアが閉まる音が、やけに大きく響いたのだった。


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