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愛のカタチ  作者: 夕崎まほろ
<番外編>
32/56

エヴァンの新たな日々(4)-sideエヴァン-

 —懐かしい、夢を見た。


『エヴァンにいさま。お花のかんむり、作ったのよ!』

 小さな手が掲げた、ちょっと歪な花冠に、エヴァンは笑み崩れる。

『すごいな、アイリス。とっても上手だよ。頭に乗せてあげるから、ちょっと屈んで』

 素直に屈みこんだ少女の小さな頭に花冠を乗せてやりながら、エヴァンはふと違和感を覚える。

 自分の手は、こんなに大きかっただろうか?

 そう思ったとき、ふっと頭上に影が差す。見上げると、そこにはほんの数か月前に別れたばかりの、かつての恋人の姿があった。

『クリストハルト……!?』

 信じられない思いで、彼の名を呼ぶ。

『エヴァン。……会いたかった』

 懐かしい声。長い指が頬に触れたかと思うと、引き寄せられて、そっと頬に口づけられた。

 艶めいた表情で、クリストハルトがふっと笑ったとき。


『汚らわしい』


 少女の幼い声が、甘やかな空気を切り裂いた。

『男の人同士でなんて、変よ。気持ち悪いわ』

 少女の翡翠の瞳が、侮蔑と嫌悪の目でエヴァンを射抜く。一番恐れていた事態に、全身の血が凍っていく気がした。

 気がつけば、クリストハルトは消えていて、エヴァンは少女と向かい合うような形で立っていた。少女は手にしていた花冠を投げ捨てて、エヴァンを睨みつける。

『あなたがそんな人だったなんて、思わなかった。最低』

 吐き捨てるように言って、少女はくるりと背を向けた。

『二度と、わたくしに近づかないで』

 最後に、そんな言葉を残して。


「——っ!」

 はっと目を覚ます。

 激しく暴れる心臓のあたりをぎゅっと掴んで、エヴァンは必死に呼吸を落ち着けた。隣で眠る妻を、起こしたくはない。

『汚らわしい』

 幼いアイリスの声で紡がれたその言葉を思い出すと、心臓が凍りつきそうな気分になる。

 無意識に動かした手が柔らかなものに触れ、はっとしてそちらを見ると、指先に妻の亜麻色の髪が引っかかっていた。

「エリカ……」

 数日前からよそよそしくなった妻の名を、そっと呟く。指先に絡みついた髪の毛を丁寧に外し、梳いてやった。

 妻がよそよそしくなった原因は分かっている。彼女の妊娠を、喜ぶことができなかったからだ。それでも、彼女の目には、不満や怒りの感情はなかった。むしろ、どう接するべきかはかりかねているように見えた。

「……ごめん。ごめんね、エリカ」

 あのときは、自分の感情を整理することで手一杯だったけれど、一番混乱していたのはエリカだったはずだ。子どもができたというのに、喜ぶ様子も見せない夫に、さぞや傷ついたに違いない。

 子どもができたの、と言ったエリカの表情は嬉しそうだったし、エヴァンも当然喜ぶだろうという、無邪気な信頼と期待で満ちていた。エヴァン自身、本当に子どもができたと聞かされるまでは、そのときが来たら、きっと自分は嬉しいだろうと思っていたのだ。

 子どもは好きだ。小さくて可愛いし、無邪気な言動も微笑ましいと思う。

 けれど、実際に子どもができたと報告されたとき。

 —自分は、この子に自分の生き方を誇ることができるのか?

 そう考えて、愕然とした。

 誇ることなどできはしない。十五歳のときから九年も、同性であるクリストハルトと関係を持っていたのだ。奇跡的に、アイリスもエリカも自分達の関係を否定はしなかったけれど、本来はそんな考え方自体が異端だ。子どもが成長して、もし自分がやってきたことを知ったとしたら—そう考えただけで、ぞっとする。夢で見た幼い頃のアイリスは、エヴァンが想像した、彼の子どもの具現化だ。

(……これが、僕の罪)

 あまりの重さに、眩暈がした。


 二度と会わないと決意してから、まださほど時間は経っていないのに、無性にクリストハルトに会いたくなった。

 きっともう、彼の子どもは産まれているだろう。

 彼は、どんな思いで「父親」になることを受け入れたのだろう。

 どれほどの覚悟で、自分達の抱える罪を、背負ったのだろう。

 クリストハルトと、もっとそういう話をしておけば良かったと、今更ながらに後悔した。


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