エヴァンの新たな日々(2)-sideエリカ-
自室に戻る道のりを、エリカはとぼとぼと歩いていた。
子どもができたと報告したときの、夫の強張った顔を思い出しては、胸が重く沈んだ。
領地の視察に同行したとき、エヴァンは幼い子どもを見てはにこにこしていたから、てっきり子ども好きなのだろうと思っていた。だから、子どもができたかもしれない、と思ったとき、エヴァンの喜ぶ顔がまっさきに浮かんだのだ。
けれど、現実は違っていた。
(まさか、子どもができたことで、こじれるなんて……)
小さくため息をつく。おしゃべりな侍女のロザリーが屋敷の者に言って回ったせいで、明日にはすっかりエリカの懐妊が広まっていることだろう。本来ならばめでたいことだから、それで構わないのだけれど、エヴァンとの関係がこじれた今は、いたたまれない。
「奥様……旦那様には、お話できましたか?」
部屋に戻ると、ロザリーが心配そうに訊ねてきた。
「ええ。……でも、あまり嬉しそうではなくて」
「えっ、旦那様が!?」
思わず声を上げた彼女の反応は、無理もないことだと思う。視察に行った際、幼い子どものためにと、小さなお菓子を持ち歩いているのは、屋敷の誰もが知っていることだからだ。
「嬉し過ぎて、言葉が出なかった、とかでもないのでしょうか……?」
「……そうだったら、どんなに良かったかしらね」
おそるおそる訊ねてくるロザリーから、そっと目を逸らす。子どもができたと伝えたときのエヴァンの表情からは、喜びや感動といった正の感情は、一切伝わってこなかった。
「そんな……そんなの、あんまりです。奥様はずっと、子どもができるのを楽しみにしてらしたのに。もちろん、私達だって。それなのに、旦那様が喜ばれないなんて……」
手を取られ、ぎゅっと握りしめられて、エリカは自分の手が冷えきっていたことに気づいた。ロザリーの手の柔らかさと温もりに、じわりと目元が熱くなる。
「……っ」
「奥様……」
失礼します、という声とともに、そっと抱きしめられた。優しく背中を撫でさすられて、堰を切ったように涙があふれ出す。
「奥様。悲しいときは我慢なさらないで、思い切り泣いていいんです」
ロザリーの肩口に顔をうずめ、声もなく嗚咽するエリカに、優しい声が耳に注がれる。
そのまま、泣き疲れて眠るまで、ロザリーはずっとエリカを抱きしめてくれていた。




