エヴァンの新たな日々(1)-sideエヴァン-
タイトル通り、エヴァンがメイベル国に渡ってからのスト-リ-になります。本編完結からほとんど時間は経っていません。
忙しい秋の収穫期も盛りを過ぎ、迫りくる冬に向けての支度が始まったころ。
陰鬱な空気を吹き飛ばすかのような明るい報せが、ランズバ-ト家に舞い込んだ。
パチパチと暖炉の火が爆ぜる音を聞きながら、ぱらりと古びた本のページをめくる。
十代前のランズバ-ト家当主が書き残した日誌で、ヴァ-ストン子爵領のことが一番良く分かると義父に渡されたものだった。エヴァンがヴァ-ストン子爵を継ぐわけではないが、跡継ぎが育つまではエヴァンも経営に関わることになるため、こうして暇を見つけてはこの本を読みこんでいる。
まだここに来たばかりで、ろくに領地のことも頭に入っていないエヴァンに、義父は呆れるでもなく様々なことを教えてくれる。視察に向かった折りに、教会の神父や村の老人たちから話を聞いたこともあった。本からだけではわからないことも多く、非常に勉強になっている。
(最近は川が氾濫しやすいって聞いたな。義父上に相談して、対策を考えないと)
そんなことを思っていると、不意に前方から視線を感じて、顔を上げた。
「エリカ、どうしたの?気分でも悪い?」
四カ月前に婚儀を挙げたばかりの妻に声をかける。先ほどから、何か言いたげにこちらを見ては、レ-ス編みに戻るという動作を繰り返している。声をかけられるまではと思っていたのだけれど、気づかないふりをするのもそろそろ限界だった。ちなみに、レース編みはほとんど進んでいないように見える。
「いえ……そういうわけではないの。ごめんなさい、読書の邪魔をしてはいけないと思って」
「大丈夫だよ。何かあった?」
ぱたりと本を閉じて、膝の上に置く。エリカはぎゅっと手を握りしめ、意を決したようにエヴァンを見た。
「その……子どもが、できたみたい。まだ確証はないけれど……。最近、それっぽい症状が出ているの。ロザリーが、可能性が高いって言ってたわ」
「——」
指先が、すうっと冷えていく。
声を失ったエヴァンに、エリカが不思議そうに瞬きをして、それから悲しげに眉を下げた。エヴァンが喜んでいないことが、わかってしまったのだろう。
「……ごめんなさい、先に休んでるわね」
数秒の沈黙ののち、エリカはそう言って部屋を出ていってしまった。引き留めようと伸ばしかけた手を、ぐっと握り込む。
「違うんだ……」
何に対して違うと言っているのかもわからないまま、エヴァンは呻く。
パチ、と炎が爆ぜた音が、やけにはっきりと部屋に響いた。
少ないので、夜にもう一話投稿します。




