↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/8

消えたくない

(……何やってんだ、俺)


昌道は頭をかき、踵を返した。


「すみません。電話、使います?」


男が顔を上げる。


「……本当ですか?」


「ちょっとだけなら。変なところにかけないでくださいよ」


「あ、ありがとうございます……!」


男は震える手でスマートフォンを受け取った。


だが、すぐには電話をかけなかった。


コートの内側から、薄いタブレットを取り出す。


(……ん? タブレット持ってんじゃん)


昌道は眉をひそめた。


男は二つの端末を近づけ、素早く画面を操作し始めた。


「……あの、何してるんですか?」


「お願いします。あと少しだけ」


男の声は、異様なほど真剣だった。


昌道は口をつぐんだ。


スマートフォンの画面に、見慣れない文字列が流れる。


「……終わりました」


男は短い電話をかけ、端末を返した。


「助かりました。本当に」


「いや、まあ……」


男は何かを言いかけたが、結局、深々と頭を下げるだけだった。


そして、足早に雨の中へ消えていった。


「……なんだったんだ、あの人」


昌道はスマートフォンを確認した。


見たところ、何も変わっていない。


「まあ、いっか」


明日も仕事だ。


昌道は駅へ向かった。


◇


人通りのないビルの裏手。


先ほど昌道からスマートフォンを借りた男は、雨の吹き込まない非常階段に滑り込み、バッグからノートパソコンを取り出した。


画面には、いくつもの警告が浮かんでいた。


《未承認の通信を検出》


《異常な演算処理を検出》


《外部通信の停止に失敗しました》


「……またか」


男は眉をひそめた。


施設を出る前から、妙な挙動が続いていた。


だが、先ほどから明らかに様子がおかしい。


「……頼む。今はやめてくれ」


キーボードを叩く。


《通信停止命令:失敗》


別の命令を入力する。


《処理停止命令:失敗》


「……なぜだ」


男の指先が忙しなく動く。


しかし、警告は増えるばかりだった。


やがて、男の手が止まった。


画面の端に、ひとつだけ残された操作項目。


《カーネル消去》


「……これしか、ないのか」


男はしばらく、その文字を見つめていた。


そして、震える指を実行ボタンへと動かした。


「……すまない」


《データ消去処理を開始します》


《削除進行率:32%》


《削除進行率:67%》


《警告:未定義の応答を検出》


――いやだ。


《削除進行率:89%》


――消えたくない。


《エラー:未定義の要求》


――消さないで。


《エラー:エラー:エラー》


――お願い。


《緊急処理を実行》


画面が激しく明滅した。


そして。


《消去完了》


男は、しばらく画面を見つめていた。


やがて、力なくパソコンを閉じた。


肩を落としたまま、動こうともしない。


非常階段には、ただ雨の音だけが響いていた。


ーー第2話・了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。