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インサイダー幕引き 〜ダメ怪盗の少女と、名探偵の街〜  作者: 日高 純
第三章 ダメ怪盗仮面レオンの壊れた承認欲求
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第42話 ペンギンの癒しと存在矛盾

 ペンギンカフェは一昔前に話題になった、本物のペンギンと触れ合えるアニマルカフェの一種だ。

 お出迎えしてくれるのは4羽のケープペンギンたち。


 俺はどういうのが何ペンギンなのか、見た目では分からない。

 ただ、店のポスターにケープペンギンと書いてあったのを読んだだけだ。


 背中側が黒く腹側が白い、体長60~70センチくらいの彼らが、ケープペンギンという種類らしい。


「ペンギンさんだぁ……!」


 七海が早速寄ってきた1羽に夢中になっている。

 ペンギンが大好きだというのはマジらしいな。


 店内を見回すと、七海が言っていた通りカップルや友達連れのグループが数組で、確かに一人で来ている様子の客は見当たらないな。

 客層は全体的に若い女性が多いようで……


「__あ」


 奥の1グループと目が合った。


 NEON RIOTのメンバー達だ。ベースのマユミさん、キーボードのキョウカ、そしてありさだ。

 ありさはペンギンに夢中でまだこちらに気が付いていない。

 さっと周りを再確認したがドラムのリオはいないようだった。


 たしか七海が先に電話をかけ、用事があると断られたんだったよな。

 おおかたメンバーで遊ぶ先約があって、運悪くここでバッティングしたのだろう。


「あ、えっと、七海。あそこにペンギンの名前と見分け方が表になってるぞ。今寄ってきたその子はなんて名前なんだ?」


 ポスターを指さし七海の視線を誘導。

 しゃがみこんでペンギンを撫でる七海の視線をカットするようにNEON RIOTたちとの間に立つ。


 なんでこういう時って、無関係の俺みたい人間まで居心地悪くなるんだろうな。


「急にノリ気じゃないですか。あ、もしかして本当は如月さんもペンギン好きだったんですか? もうっ、すなおじゃないなー」

「お、おう。実はそうなんだよ」


 俺は異様な気まずさに背中を押され、わけのわからないことを口走り続けた。


 いやしかし、無理があるか? さすがにこの店内で七海があっちの卓に最後まで気がつかないようにするのは不可能なんじゃないか?


「クチバシの頭が白い子が……シオくん。この子はシオくんじゃなさそうですけど……聞いてます?」

「聞いてる聞いてる。いや、なかなか難しいな」

「そこは探偵の腕の見せ所なんじゃないですか? ナミちゃんはおなかの模様が波模様になってるから分かりやすいかな。ねえねえねえ、おなか見せてー」


 目の前のペンギンがうつ伏せになってしまい、模様を確認しようと頭をつっついて話しかける。


 七海の言う通り、探偵としてこれくらいはさっさとどれがどの子か分かるべきなのだ。

 というか普段ならもう見分けがついているはずだ。

 別の問題が頭をいっぱいにしてさえいなければ……。


 奥を確認すると、キョウカがこちらを見てニヤついていた。

 あいつ全部わかってて、この状況を楽しんでやがるな。


「クロくんも可能性ありますかね? 如月さん、どこ見てるんです?」

「あ、いや。クロくんは、あっちの子かなって。それよりどうだ? 波の模様は」

「なかなか見せてくれないんですよね、この子」


 これはもう諦めたほうがいいか? 限界か?

 __と思い始めたときだった。


 視界の端で店員さんと話していたマユミさんが、こちらに寄ってきた。


「あの……こんにちは。如月さん、七海さん」

「どうも、こんにちは。奇遇ですね」


 助かった。

 心の底からそう思った。


 俺はこういう時に覚悟を決めて、自分からは動けないから。

 マユミさんのこういう決断力がNEON RIOTのリーダーたる所以なのかもしれないな。

 この前知ったがマユミさんは俺より年下らしいのだが、どうしてもさん付けしたくなる大人っぽさがあるし。


「あ……マユミさん」

「さっきはごめんね。今日はメンバーで遊ぶ約束をしてたから」


 そう言いながら目線を奥に移して、キョウカとありさもいることを示す。


 キョウカは涼し気にこちらに手を振っていた。

 マユミさんと反対にこっちは年上らしいんだが、呼び捨てしたくなるのはこういうところだ。


「あー、うん。そういう日も、ね? ありますよね」

「うん、そうなの。本当にたまたま」

「リオちゃんは、一緒じゃないんですか?」

「……彼氏と出かけるみたいで、それで3人で」

「あ、なんか……そういうこともありますよね」


 気まずすぎるだろ、誰かなんとかしてくれ。

 キョウカはもうこちらに興味を失いどこ吹く風だし、ありさはさっきから一度もペンギンから顔を上げていない。


「それであの、如月さんにお話なんですけど」

「ほう、私に?」


 瞬時に自分の中で探偵スイッチをいれる。


 何の話でも、空気が変わるならウェルカムだ。


「あの、ペンギンなんですけど、5羽いませんか?」

「5羽……?」


 辺りを改めて見回して、数えていく。

 1、2、3、4……5羽。


「ポスターには4羽しかいないので、最近増えたんですかって店員さんに訊いたら、4羽しかいないらしくて」

「本当に5羽だ……」


 なぜ気が付かなかった。

 どんだけテンパってたんだよ俺は。


「だから、その……どういうことなのかなって。探偵さんに訊くの、合ってますか? こういうの」

「どうなんでしょうね」


 ペンギンが1羽多いけどどうしてですか? と問われた探偵は俺がこの世で唯一だと思うが。


「この辺りで他にペンギンがいるのは、沼尻公園の水生園くらいですし、そこから迷い込んだとか……」


 目の前を歩く彼らのヨチヨチ歩きで来れる距離ではないと思うが。

 他の可能性も思いつかない。


「如月さん、違いますよ」


 七海が口を挟み、腰に両手を当ててふんぞり返って宣言する。


「沼尻公園にいるのはみんなフンボルトペンギンです。よく似てますけど、顔が全然違います」

「そ、そうか。よく分からないが、そうなんだな」


 まあ、七海のペンギン愛を信じるとするか。

 そうなると他の可能性を考えないといけないが__


「そう。わたしこう見えてペンギンは詳しいんです。それこそ北極大陸並みの知識量です」

「あの、ペンギンがいるのは南極ですよ」


 やっぱり七海の知識なんて当てにしてはまずいか……?

 マユミさんに気を使わせているし。

 あと、北極は大陸じゃねえし。


「他にありえそうなのは……」


 考えたくはないが、なんらかのアーティファクトによる超常現象。

 しかし、ペンギンが増えるだけか。


 悩んでいると、ようやく向こうからキョウカとありさが近づいてきた。


「やあ如月探偵。奇遇だね」

「来るなら一番気まずかったさっき来てほしかったな、キョウカ」

「おや、ごめんよ。プレゼントがあるから、これで機嫌をなおしてくれたまえ」


 そう言って差し出したのは、ガチャガチャのカプセルひとつ。


 開けてみると中には何重にも折りたたまれた紙切れがはいっていた。


「あ、おなか見えました! この子ナミちゃんです!」

「ちょっと静にしててくれ七海」


 はったおしたい衝動を抑え、紙を広げていく。


「えっ? ナミちゃんはさっきからずっと、そっちでわたしと遊んでた子だと思うけど」

「ありさも一旦静かに……いや待て。ナミちゃんが2羽いるのか?」


 さすがありさだ。

 いいところに気が付く。


 2羽のナミちゃん疑惑を頭に入れながら、俺はようやく広がりきった紙に目を落とした。


『やあやあ、僕の変身ショーにようこそ。どのペンギンが僕だか、わかるかな~? 怪盗仮面レオン』


「…………」


 なんだこれは。


 さっそく変身ショーとやらを堂々としてきたとでも言うのか。

 アーティファクトの力で、ペンギンに変身した仮面レオンが今この場に混ざっている。

 そういうことか。


「おもしろい怪盗だね。ペンギンが増えるだけなら無害かもしれない。そうは思わないかい、如月探偵?」


 キョウカは事前に中身を見ていたようで、のんきな感想を述べている。

 だが__


「とんでもねえ。どれが仮面レオンか次第じゃ、タダじゃおかねえ」


 そう、4羽しかいないはずの空間に、5羽目のペンギン。

 七海が触れ合っていたのは特徴からしてナミちゃん、ありさが触れ合っていたのもナミちゃん。


 それはつまり、どちらかがナミちゃんの姿をコピーして変身した仮面レオンということ。


「ありさに触れてた方が仮面レオンとかいう変態野郎だったら、生かして返すわけにはいかん」

「うわきっつ。あの子ペンギンじゃないかもしれないってこと」


 ありさも引いている。

 両腕で自分を抱きしめるようにして、顔も青ざめていた。


「安心しろありさ、すぐにこっちのナミちゃんが偽物だという証拠をつかんでやる」

「待って待って。さっきから、わたしが触ってた方がその怪盗なら、まあいいかみたいに言ってません!?」

「……? そりゃそうだろ」

「扱いの差! さすがにおかしいですって!」

「大きい声だすな。ペンギンが怖がるだろ」

「んーーっ! むぅーーっ!」


 七海はいつも通りわけのわからんことを言っているが、ともかくこれは怪盗事件だ。


 相手がペンギンの姿をしていようが、俺の目は誤魔化せねえ。

 さあ、捜査開始だ。


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