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ズル休み

 暇だ。今日も今日とて永遠に続く夏休みを謳歌している。学生時代は歩いても歩いても景色が変わらない砂漠の荒野の中で、休日は水に溢れたオアシスのように感じていた。しかし現在、何かイベントがあることが有閑に辟易した私の渇きを癒してくれる。人生とは分からないものだ。

 学生時代、毎年常に皆勤賞。理由がないのに学校を休むなんて余程のことがない限りしなかった。別に学校が楽しかった訳ではない。むしろ学校生活はあまりに苦しく、何の罪も犯していないのに刑務所に入れられていると思ったほどだ。そんな私も一度、ズル休みをしたことがある。あれは10月。まだ暑さが収まらないよく晴れた日だった。


 「お願いします。学校を休ませてください!」


 高校三年生、私は母にお願いをした。高校はズル休み対策のため、セルフで連絡をすることはできず、親からの電話でなければ学校を休むことができなかった。普段は母も私のためを想い、ズル休みを受け入れてはくれないが、私がどうしてもと頼むので渋々先生に電話をしてくれた。電話をするのが苦手な人だ。親に強要するのは気が引けたがやむを得ず協力してもらった。

 どうして私が休みたかったか。その原因は体育祭だ。運動が苦手な私だが、最低でも1種目は出場しなければならないため毎年玉入れを選んでいた。しかし当時、運悪く玉入れが人気だったためじゃんけんで負けた私はリレーを選ばざるを得ない状況となった。大人数とはいえ私が原因で負けたらどう思われるか。中学の頃の嫌な思い出が蘇る。恐怖に震え上がった私は体育祭の2週間前から恐怖で寝付けずノイローゼ気味になり不安に打ちひしがれていた。


 そして休んだ当日、私は形容しがたいほどの罪悪感に襲われた。母に電話をしてもらってから1時間ほど、嬉しさのあまり飛び跳ねたと同時に砂漠の中にオアシスを自力で作ることができた達成感に浸っていた私だったが、授業の開始時刻になると本来であれば教室の中にいた自分の姿を想像し、家でくつろいでいる自身の姿との乖離に違和感を覚え、もしかしたらこのまま社会から自分の居場所が消えるのではないかという不安に漬かっていた。

 こんな気持ちになるなら休まなければよかったのではないか。そんな考えも頭をよぎったが、リレーに出場した自分を想像すると寒気が走る。体育祭のため学力的に置いていかれる心配もないし元々クラスに友人はいないため、居場所がなくなる心配もない。客観的に考えてデメリットはなく、リレーを休めたという良い結果が残っただけなはずなのに何かがおかしい。得も言われぬ気持ちになっていた私は何もしないまま夕方まで眠っていた。


 いつもの休日なら、昼頃までだらだらと眠り、起きてアニメを見て、ゲームをして飯を食い、寝る前に宿題を片付ける自堕落でいて快適な生活を送れていたはずだ。だが、何故か人工的に作り出した休日はいつもと時間の流れが違う。普段より早く感じるのに、それでいて永遠と観測できるほど遅い。そんな不思議な状況に心だけでなく身体も気だるげな感覚を覚えた。


 アニメやゲームをすればいいのに、罪悪感を感じてできない。宿題や予習、復習はいつもより頭に入るが2時間もすればタスクを完了してしまい、特にやるべきことが何か分からない。自分はなぜ生きているんだろう。


 家と外を繋ぐ扉の内側から回転している社会を眺め、終業時刻が過ぎたことに安堵し、夜は早めに布団に入り、翌朝憂鬱な感情を抱えながら教室へと入り、1人本を読み授業開始時刻を待つ。そして初めて私は社会に復帰することができた。昨日休んだことは後悔していない。きっと自分の人生にとって意味があることなのだろう。


 

 26歳、高田達治。今日も私は昼起床する。会社に勤めている一般的な社会人が昼休みを求め必死にストレスと戦っている中、やるべきことが何もない狭い世界でゆっくりと顔を洗い、歯を磨き、椅子に鎮座しどう時間を潰すか考える。きっと、どちらにも正解はない。ただ会社をやめたから今こんな生活を送っているだけだ。あの頃感じた罪悪感は青春とともに消えてしまった。時間が違和感を消した状態で、私の人生はいつどうやって変わるんだろう。そんな思索にふけつつ、今日も変わらない1日を過ごした。

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