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トランプタワー

 トランプ、それは世界の娯楽史に残る名発明品だ。


 通常、デジタルゲームを遊ぶのであれば数万円はするゲーム機本体の購入に加えて数千円のゲームソフト、さらにオンラインに加入するためサブスクリプションで月数百円の金額を取られることになる。小さい頃何気なく遊んでいたゲームも、この年になると親が必死に働いて稼いだ収入で賄われていたことを知り感謝が止まらなくなる。


 だが、トランプはそんな金銭的に負担がかかるデジタルゲームとは大きく異なる。安ければ100円もかからない。高くても500円で購入することができ、ソフトやサブスクを要求されることもない。1セット購入さえしてしまえば様々なルールのゲームが遊び放題。しかもデジタルゲームと違い故障の心配なく、半永久的に遊ぶことができる最上の娯楽だ。なぜデジタルゲームばかり流行しているのか疑問に感じるほどだろう。


 そんな無敵に見えるトランプにも1つ、致命的な弱点がある。それは、1人で遊ぶことが難しいという点だ。

 

 大富豪やババ抜き、ブラックジャックといったトランプの中でもメジャーなルールのゲームは駆け引きが要求される対人ゲームだ。最低でも二人いないとゲームになりようもない。

 七並べであれば一人でできなくもないが単純につまらない。そのため、私はどれだけ暇でもトランプに手をつけることはなかった。しかし今、トランプを一人で遊べる方法を思いついてしまった。


 「トランプタワー」だ。


 これなら人相手に駆け引きをする必要もなく、1人でトランプを楽しむことができる。早速私は物が散乱している引き出しを開け、トランプを取り出し、テーブルの上に並べた。ここからが本番、さて、大切な土台はどのカードにしようか。


 一番下のカードが重要だということはジェンガを通して学んでいる。上のものを支える強靭な肉体と重さに耐える屈強な精神が必要な最重要役職。ここはこのカードに任せよう。


「キング!キミに決めた!」


 スペードのキングとクローバーのキング。黒を司る二枚の王様を手に、私は一つ目の土台を完成させようとした。


 そう、完成させようとしたのだ。

 

 トランプタワーを始めて10分、私は猛烈な苛立ちを感じていた。


 「全くできねぇーーーーー!!!!!!!!!!!」


 一番下のタワーを作ることすら適わない。薄いペラペラの紙をテーブルの上に立てることなど、大工でも職人でもないただの引きこもりの私には不可能なのだ。


 根気よく続けていると一番下の土台、そして上に乗せる屋根までは作れる。しかし、二段目からは至難の業。かろうじて立ち続けているカードの上にさらなる試練を与えることなど聖母のごとき優しい心をもつ私のような小市民には不可能なのだ。たとえるなら貧血で気絶寸前の学生に重いリュックサックを持たせるようなものだ。


 気づけば私は目から大粒の涙を流していた。


 「こんなもの、私には無理だ……」


 26歳高田達治、人生何回目かも分からない涙を流し、トランプタワーを棄権しようとしていた。手先が器用ではない私、真面目に受講し続けた図工もC判定より上になったことはない。どうせ私には無理なのだ。こんなにも薄いトランプのカードでピラミッドを建築することなど。


 醜い自分をあざけ笑いカードを箱に入れようとしたその時、頭の中に女の声が鳴り響いた。


「また、諦めるの?」


「キミは……まじない先生ヤマダの萌えキャラ、リリス!?」


「あきらめちゃダメだよ達治くん。キミの人生はまだこれから。ニートが何?そんなの関係ない!リリスは、達治を信じてるから!!!」


 そうだ、挫けちゃダメだ。リリスもこう言ってる。まじない先生ヤマダ第二章18話、敵の魔物シュリンフの攻撃で絶体絶命のピンチになった主人公ロイに復活の息吹を放ち、撃退を手助けしたリリスのエネルギーを思い出せ。このまま折れてたまるか。やってやるよ、俺が今この瞬間、最大最高超火力で、今まで味わった屈辱の過去全て晴らしてやる。


「これがニート、高田達治だぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


「できる訳ねぇだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 30分格闘した末、私はトランプを手放すことを決めた。これは人間がやることじゃない。人にはそれぞれできること、できないことがある。俺にはこれができなかっただけ。もともと手先が不器用で苦労してきたんだ。こういう緻密な作業はどこぞの職人や研究者にでも任せておこう。

 

 私は、幾度となく挑戦した末ボロボロでしわくちゃになったトランプを乱暴に箱の中に詰め込み、引き出しの中に入れた。トランプはやはり友達と一緒に遊んだ方が楽しいね。

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