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秋のうららの隅田川

「せいやっ、せいやっ、せいやっ、せいやっ、せいやっ……」

 威勢の良い掛け声と共に御神輿が街角を進んでいく。

 ここは隅田川のほとり。東京向島。

 見上げるとすぐそこにスカイツリーが顔を出している。


『うちの地元のお祭り、みんなで来てよ』

 理沙さん、美智子さんの地元のお祭りに、六組のみんなと、麻紀さんと、吉野くんっ! まで遊びに来ていた。

 この辺りのお祭りとしては、浅草の三社祭が有名だ。

 しかし、今日来ているのは向島の小さな神社の大祭である。

 言問橋と桜橋の間に挟まれた小さな一角にある、言われだけは古い神社。

 実は某財閥の守り神として、そこそこ名が知れていたりする。

 なんなら、全国に有る系列デパートの屋上には、ここの分社が必ず有る。


「わっしょいわっしょい……とかじゃないんですねぇ」

 神社の前の狭い道で御神輿を追いかけながら、響が感心したように言った。

「御神輿担ぐのも楽しそうです」

「楽しいわよお」

 理沙さんが応えた。

 理沙はまぁ、好きだろうな。御神輿担ぐの。

 で、美智子はイヤイヤ付き合わされていたりするところが目に浮かぶわ。だって理沙だし。

『家の隣の神社の神輿とか、担ぐの当たり前だし! 美智子はセットでっ!』

 いや、セットにすんなよ……かわいそうに。


 あ、うさやさんが金魚掬いを見つけてしまいました。腕まくりしてます。これはやる気ですね。

 隣でセトルリが同じく腕まくりしてますが、結果は見えてますな。

 ……ほら、二秒で破いたセトルリと、そろそろ三十匹越えそうなうさやさんの対比が……って、セトルリさん、俯いちゃダメぇっ……あーあ、髪の毛がお水に浸かってしまいましたよ……


「えぐぅ、尚子ぉ……」

「はいはい、世話のかかる嫁だわ。まったく」

 とかニコニコしながら言っても説得力ありません。とりあえずハンカチで髪の毛ゴシゴシしてますが、やっぱり毛先だけちょっとばらついちゃいました。


 御神輿が隅田川沿い道路へ出たところで、今度は直美さんが川を覗き込んでソワソワし始めてます。

 ん? 橋脚がどうかした? って、こんな場所で釣竿出すなぁっ! いきなりアイテムボックスから何取り出してんのっ!

『だって、そこ、スズキ(シーバス)いるのよ。それは釣らないとダメでしょ』

 いや、ダメでしょ……じゃないわっ!


 たぬきさんは……あー、吉野くんと並んで歩いてるわ。とても恋人同士とは言えない距離感だけど、でもお祭りで並んで歩くのはポイント高いよ?


「響ちゃん、はい、これ食べよ?」

 麻紀さんがじゃがバタ買ってきてくれた。

 業務用マーガリンたっぷりのじゃがバタ……首相令嬢もこんなジャンキーなもの食べるの?

『響ちゃんと一緒に食べるのは、最高の調味料なのよ』

 はいはい。

 みんなそれぞれ楽しんでくれているようで、連れてきた理沙美智子も嬉しかった。


「実はね、わたしも美智子もこの神社の幼稚園出身なのよ」

 あ、神社に幼稚園があったのね。

「ちっちゃい頃からずっとここが遊び場だったからねぇ。狐の尻尾折ったりして」

 いや、まてぇぃっ!

 ここの阿吽の狐のしっぽに、修理跡があるのはお前のせいかぁっ!

 なんて罰当たりな奴……


「セイヤっセイヤっセイヤっセイヤっ」

 御神輿は進んでいく。

 みんな笑顔でお祭りを楽しんでる。


「これ……この反応……理沙さんっ! 近くに鏡が出ますっ! 次元断層の反応っ!」

 響が叫んだ。

「え? え? どこ?」

 声をかけられた理沙が辺りを見回す。

 他の面々も一気に警戒感を高めていく。

「上です。スカイツリー、上空っ」


 上を見上げるとスカイツリーが見える。ここからスカイツリーまでは700mもないぐらいの位置だ。

 そして、その上空に、滲みが出来た。

 響はアイテムボックスからヘルメットを取り出す。

「行ってきます。確認してきます」

 ヘルメットを被りながら離陸していく。


 残された皆も魔法使いだ。すぐさま感覚の網を広げていった。


「わたくしが中継いたしますわね。ビルの上に上がりますわ」

「彩香ちゃんお願い。わたしらがスカイツリーの影に入りそうなら中継してもらえる?」

 うさやが飛び上がった。響と違い、離陸と共に辺りの落ち葉が舞い上がる。


 内閣府に有る本部とのレーザー通信回路を確保するためには、スカイツリーを経由させる必要がある。

 この辺りなら大体ツリーは見えているが、ビル影などに入りこむ場所もそれなりにはあるため、中継してもらえるのはとても助かる。


『対策室本部、こちら百里小川。ただいまスカイツリー上空に次元断層が発生しています。響ちゃんが警戒に上がりました。繰り返します。対策室本部、こちら百里小川。ただいまスカイツリー上空に……』

『百里小川さん、対策室本部です。了解しました。都内の魔法使いにもスタンバイかけますか?』

『このあと魔物が出てくるようならまた相談します』

『本部、理沙さん、マジカル響です……来ますっ!』


 スカイツリー上空500m付近、地上からだと1,000mを超える場所から、魔物が出てきた。


 オーガと呼ばれる、とても凶暴な人型の魔物がゾロゾロと出てきた。

 『オーガ』は、一匹一匹の強さが、同じような人型の魔物『オーク』と比べても段違いに強い魔物だ。

 ……ただし、飛ぶことは出来ない。


 次元断層の鏡を越え、オーガがこちらの世界へと足を踏み込む……ポトリ

 足を踏み込む……ポトリ

 足を踏み込む……ポトリ

 足を踏み込む……ポトリ


 高度1,000mから大型の生物を落とすとどうなるか。

 服を着た人間が、両手両足を広げて目一杯空気抵抗を大きくしても、その落下終端速度は180km/hにも達する。

 人よりも表面積/質量の大きな物体が、裸で無制御で落ちてくるとなると、300km/h近くまで加速して地面に叩きつけられる。


 足を踏み込む……ポトリ

 足を踏み込む……ポトリ

 足を踏み込む……ポトリ


『理沙さん、響です……どうしましょうか。下、ひどいことになってるっぽいです……』

『響ちゃん、理沙よ……うん、こちらでも見えたわ。とりあえず近くに人はいないかしら?』

『人のそばにも落ちてますね。避難を呼びかけてみます』

 響は拡声魔法で周辺の人々に、スカイツリーから離れるように勧告していった。

「うわっ、途中でツリーに当たった奴が赤い煙になってったわ……」

 地面を走りながら皆で観察をしていると、世にも恐ろしい状況が続いていることが判る。

「あ、また落ちてきた……これ以上近づくのは危険ね……」

『対策室本部、こちら小川です。魔物出現しました。スカイツリー周辺に多数の大型魔物が出現を続けています。魔法使いの出動は必要ありませんが、施設科と化学科の出動を要請します。周辺に魔物の体液が飛び散ってます。今の所怪我人等の報告はなさそうですが、救急車(アンビ)も回していただけたらと思います』

『小川さん、対策本部です。出動要請了解しました』


 それにしても、見れば見るほど大惨事だ。

 あ、また一匹落ちた。もう総数で三十匹は赤い霧になっている気がする。

 アスファルトの上に落ちた奴とか、骨が舗装に突き刺さっているのが見えている。

 スプラッタ過ぎて現実味が薄れるぐらいだが、濃密な血の匂いが現実世界へと、気持ちを引き戻していく。


『理沙さん、響です。鏡の気配が薄くなり始めました。そろそろ消えると思います』

『響ちゃん、了解。消えたら降りてきて貰えるかな?』

『了解しました』


 永遠に続くかと思われた魔物のレミングス現象は、鏡の消失と共に終了した。

 最終的に落下してきたオーガの数は五十四頭。オーガの出現数としては世界記録になったが、誰一人として死者を出さずに済んだ。

 もっとも、誰かが何かをした訳ではなく、オーガが勝手に全滅しただけなのだが……


「でも、今までにこんな現象って報告ありませんでしたよね?」

「うん、聞いたこと無いね」

 響が聞いて、理沙が答えて、美智子と麻紀も左右に首を振った。

「何が起こったのかしらね、今回のこれ」


 やっと今になって、魔物警報のサイレンが鳴り始めた。

 流石にもう、お祭りの継続は難しいだろう。


 さあ、これから周辺地域の閉鎖とクリーニングだ。

 お役目を果たした子どもたちは百里(いばらき)まで送らなければならないため、響ちゃん以外の六人、たぬうさナオナオセトルリベガは、美智子が引率して帰ることになった。

 響と理沙は本部へ。麻紀さんは官邸行き。帰りは一緒に帰れればいいな。


 また、みんなで楽しむイベントが魔物に潰された。

 なんでこう思い切り楽しもうとすると、魔物が出現するんだろう……


 響の堪忍袋の尾が切れるまで、あと僅かであった。

 舞台になった神社は、今はもう幼稚園は無くなってしまいました。

 ただ、全国の三越の屋上にはこの神社がありますので、もし三越をご利用になる様でしたら、ぜひ足を運んでみてください。


 あ、狐の尾っぽを折ったのは、理沙さんではなくて先代神主の末の弟でした(笑)


 それではまた、お会いいたしましょう。

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