表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/129

生徒会長は大変だ

「陸上自衛隊の榊原小波(さかきばらさなみ)だ。よろしくな、西川少年」

「よ、よろしくお願いします」

 やたら目つきが恐ろしいおばさんが出てきた。いや、おばさんと言うほどの年でもなさそうか? 見た感じ二十代半ばくらい?


 なんてことを考えている生徒会長、西川ジョウだった。

 この小波さんがアラフィフだと知ったら、どう思うんだろうか。


「西川少年と瀬戸は初めての戦闘訓練と言うことなので、講師として特戦群から二人呼んである。きっちり基礎から鍛えてもらおう。他のみんなはいつも通りわたしが鍛える。よし、こいっ!」


 いや、脳筋過ぎるだろっ!

 いきなり『こいっ!』じゃねーよっ!

 しかも響、いきなり突っ込んでいって、で弾き飛ばされてんじゃないよっ。しかも攻防が早すぎて一切見えないし。

 お、ナオナオがコンビで左右から飛び込んでいくところを、うさやとたぬきが下から攻撃することで意識を外させて……って、全員その場で崩れ落ちてるし!


「響は動きが単調過ぎるっ、身体能力に頼りすぎっ。宇佐美、樽木、陽動なら陽動じゃないようにしなけりゃ陽動にならんぞ。それはただの自殺しにきただけの動きだ。出町、森河。狙いは悪くないが遅過ぎる。全部対処終わってから、ゆっくり後始末できるとか陽動の二人が犬死だぞ」


 ジョウには何も見えてなかった。

『こいっ!』

 の直後に、五人がコロリンっとひっくり返った様にしか見えない。

 ただ、それまでいた場所と、コロリンっとひっくり返っている場所がずれているのが違和感といえば違和感だ。


「あー、瀬戸さんと西川くん? こっちきてもらえるかな。じゃ、基礎からやっていくけど、受け身の練習はまた今度にしようか。今日は楽しい攻撃訓練からやろう。じゃ、まずはこのバヨネットを握ってもらえるかな?」


 バヨネットってなんだろう……と思っていたら、全長30cm近い、巨大なナイフを渡された。いや、これはダメな刃物じゃないのか? 銃刀法違反とかにならないの?

 そのナイフを持って、巻藁の敵にひたすら突き刺す訓練をさせられる。

 ただ巻藁にナイフを突き刺すだけでも、技術は必要だ。

 ただ突き立ても、なかなか刺さっていかないのだ。

 って、これ、高校生の訓練なのっ⁉︎


 左の方では、ひたすら女の子たちが転がされているし、ジョウと瀬戸さんはひたすらザックザックと巻藁を切り付けているし、何このシュールな展開。


 小一時間ナイフを振り回したところで休憩となる。

 ペットボトルの水を飲み、息を整えるだけで次の訓練。

 今度は見学してれば良いと言われ、瀬戸さんと並んで他の五人の訓練を見学し……


 って、いきなり三階の窓くらいの場所から飛び降りて、壁の向こうの的に魔法炸裂させるのっ⁉︎

 で、さらに魔法を撃ちながら飛んだり跳ねたり……うっわ、的が燃え上がって……って、今度は弾け飛んだ⁉︎

 見ていて恐ろしくなってくる。

 中でも一人、めちゃくちゃ背の高い女子の訓練が、本当に恐ろしかった。

 まず、動きがほとんど見えない。地点移動は全て一瞬。移動したのが見えた時にはターゲットは消えている。

 時々、明らかに、移動する前にターゲットが消えていく。

 他の女生徒の様に、移動して攻撃、移動して攻撃というルーチンが、バグっている様だ。


「西川くん、見てくれてるかな?」

 後ろから声をかけられた。あの六組のめっちゃちっちゃいけど、一部おっきな先生だ。視線が下がっちゃうのは許してほしい。

「これが魔法使いの勉強よ。彼女達はあなた方普通科の人と同じカリキュラムを勉強しつつ、毎日これだけの訓練を積み重ねているの。今日はね、あなたが来るから楽な訓練を回してもらってる。それでも、普通の人なら絶対無理なレベルのことをやってもらってる。だからね、生徒会のお仕事とか、難しいと思うわ」

「は、はい……」

「他にもね、体力作りのための駆け足とか筋トレは、自衛隊の隊員さんと同等レベルのことを続けてるわ。響ちゃん……沢井さんあたりだと、自衛隊員よりも激しいのを毎日やってたりする」

 もっとも、速度が三倍だから時間は三分の一だけどな。

「あなたには明日も、明後日も彼女達と同じ訓練を受けてもらうわよ」

「は、はい……」


 翌日、再び習志野に来た西川ジョウ。まずは経験として小波師匠との手合わせを行った。

 と言っても、普通にやっても意味は無い。というわけで、彼我の距離1mから、小波師匠に触る訓練と、彼我の距離10mから、小波師匠から逃げ切る訓練の二つだ。


「用意……パァンっ」

 響の『スターター魔法』の音でスタートするものの、全く触れることができない。

 距離を50cmに縮めても触れない。

 とうとう、師匠は場所を移動しないルールにしたが、それでも触ることができなかった。


 続いて逃げる訓練。

「用意……パァンっ」

 捕まった。

 音を聞いた瞬間にはもう目の前にいる。10mの距離なんて、まるで存在しないかのように近づいてくる。これが自衛隊の精鋭……


 って、違うからっ! その人、自衛隊の中でも異端だからっ!

 だって、響ですらイーブンの状況だと逃げきれないし捕まえられないのよ? そのおば……お姉さん。

 とまぁ、軽く体を温めた後は……空挺名物コロリン訓練〜ぱぱらぱっぱらー。


 いつもの五点接地の訓練を行う。と言ってもガチでやったら何日も何日もころりんころりんしなければならないのだが、今日は入門編。怪我しない程度のマットの上で、せいぜい50cmの台からころりんするまで、軽く二時間ほど……

 さぁ、飛び出し塔訓練〜ぱぱらぱっぱらー。


「樽木詠美、行きます。いち、に、さん、よん、ぴょんっ!」

「宇佐美彩香、飛びます。いち、に、さん、よん、ぴょんっ!」

 みんなもう、何も怖がらずに飛ぶ。そりゃそうだ。本当にポンポン飛ばされてるんだから、慣れる。

「瀬戸瑠璃、いっきまーす。いち、に、さん、よん、ぴょーんっ」

 むしろ楽しそうだ。


「に、西川ジョウ……これ、飛ぶんすか?」

「飛ぶんだよ」

 飛び出し塔の高さは11m。なんでこんな中途半端な数字なのか。

 色々と実験した上で、人間が最も恐怖を感じる高さに設定したからだ。

 これよりも高くなると現実味が薄くなり、これより低いとどんどん恐怖感が小さくなる。これがベストと判断された高さが11mなのだ。

 って、ベストとか言うなし! 怖いわっ。


「に、西川ジョウ……いち、に、さん、よん……」

「ぴょーいっ」

 響が飛んできて、手を引いた。

「おぎゃーーーーーーっ」

 がこんっ、ぷらーんぷらーん。

 数メートル落下したところでハーネスが張り、そこからガイドワイヤーに沿って下に下ってくる。

 怖かった……覚悟完了する前に引きずり下ろされるのはめちゃくちゃ怖かった。


「試したかったらあっちも用意してやるぞ?」

 隊員さんが、80mの降下訓練塔を指差して言った。

「い、いえ……ま、まだ体験学習なので……」

「まぁまぁ、そう言わんと……」

「え、遠慮させてくださいーーーー」


 午後からは少し走った。

 と言っても、女の子達は一瞬で見えなくなる。

 スポーツも得意な筈の西川くん、空挺隊員についていくのは無理でも、割ときちんと走ってる。しかし、女の子達はみんな桁が違った。

 と言うか、響には一周抜かされた。


 さらに翌日、訓練中に、響に出動がかかる。山梨の山中だったので、V-280(バーロー)に同乗して見学もすることになった。


 実戦見学訓練になるため、通信もモニターに流す。


『響ちゃん、理沙よ。魔物は十頭程度。レッドバッファローらしいわ』

『理沙さん、響です。それ、美味しいやつって、お姉ちゃんが言ってました!』

『安全確認してないから食べちゃダメだからね』

『ちぇーっ』


 あう、これは流さない方が良かった奴かも知れん……


 しかし、実際の戦闘はなかなか見応えがあった。

 開幕レールガンからの、ライトなサーベル持っての切り込み。二頭の首を刎ねた所で振り向き様にファイヤーボール。

 燃え盛る一頭を目眩しに、次の目標へと回転アタック!


 って、これアレじゃん。完全に見学者に魅せるための戦いじゃんっ!

 見られる気満々でやってるやんっ!


 六組の女の子達は全員気がついてる様だが、西川ジョウはなかなか感動したらしい。


 流れるように戦う響と、それを見守る仲間達。

 そして、その全てを見守る先生 (大きい) と美人担当官。


 その日、学校に戻り、最後の体験授業のホームルームで、打ち明けた。


「僕は皆さんに謝らなければなりません。実は、もともと皆さんを勧誘したのは、一年の吉野くんに嫉妬心を抱いたためです。ならば僕が皆さんの心を奪おうなどと思い上がった挙句、あの様な暴挙に出てしまった次第です」

 一度区切り、皆を見回す。

「しかし、この三日間、皆さんと同じ訓練を受け、戦う沢井さんを見て、反省いたしました。これから生徒会の全能力を持って魔法学科の皆さんをサポートしていきたいと思います。これからも皆さん、よろしくお願いします」


 ぱちぱちぱちぱち。たった六人と少ない人数だが、拍手があがる。


「はい、西川くんありがとう。さぁ、皆さんもこれから一段と奮起して、訓練に、駆除に励んでください。ただ、安全を最優先にお願いしますね」

 文香先生のお言葉をいただく。

「それと、矢田先生。その、今度生徒会の顧問もお願いしても良いでしょうか?」

 西川くんが切り出した。

 ただ、目線が矢田先生の顔の下に行ってるあたりが、とってもアレだ。ダメだ。

 特に、低身長の先生のその辺を、上から覗き込む感じとかはもう許せないだろ。アレは六組の宝だよっ!

 矢田先生大好きな六組のみんなとしては、矢田先生を守るため、今日も一致団結して頑張るのだ。


 一度は払拭した筈の、クラスみんなのヘイトを稼ぎ直して、西川くんの体験学習は終了した。

 お読みいただきましてありがとうございます。


 引退間際の生徒会長に、何やらせてるんでしょうね。三年生の秋とか、もう受験目の前じゃないですか……


 まぁ、西川先輩は下半身で物事考える人みたいだし、良いのか?


 それではまた、お会いいたしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ