離島防衛
『響ちゃん、あと三分で現着。分離用意』
『ウォッシュ、響了解。いつでも行けます』
東京都青ヶ島。ここに魔物が出たとの通報があり緊急出動。今日は戦闘機にぶら下がっての出動で有る。
出現した魔物は大した数でも無ければ、大型でもない。
ただ、ここ青ヶ島には自衛隊は駐屯しておらず、警察組織も駐在さんが一人だけ。消防は消防団が有るだけと言う離島であり、尚且つ天候が……
『高度52,000ft、速度700ノット、正面が青ヶ島だ。響ちゃん、スタンバイ』
『スタンバイ……レディっ!』
ゴンっという音と共に、響の乗っているマジコン……マジックキャリアコンテナの扉が開く。
眼下に広がるは一面の雲海。渦巻く雲の流れが、いつもよりもはるかに高いこの高度からも見受けられる。
そう、青ヶ島付近は台風の影響下、真っ只中であった。
こんな天候ではV-22やV-280での低空進入は不可能だ。
となると、超高空から響を送り込むぐらいしか手がないのだ。
『3,2,1,イジェクト』
響は虹色膜で身体を包み、超高空から飛び降りる。
降下を始めて数秒で雲海に飛び込んだ。目指す青ヶ島までは残り30km。真っ直ぐ向かうと17度の坂道を転げ落ちる感じになる。
響は超音速を保ったまま、ぐんぐんと島に近づいて行った。
高度が落ちるに従って、どんどんと雲の密度が高くなる。
この高度では、雲は細かい氷でできた霧だ。
細かい氷は虹色膜にぶつかり、擦れていくが、虹色膜そのものが原子では無いために電子の受け渡しは発生しない。したがって響が静電気を溜め込むことはない。
高度15,000ft。この辺りから、風向きが急激に変わる現象が起こり始める。突風である。
現在の響の速度は600ノットぐらいまで落ちてきている。秒速300m。亜音速だ。この状態で、いきなり横から秒速30mの風を受けると、軽すぎる響の身体は、一気に風下へと流されていく。
濃密な雲のため、視界はほぼゼロ。超センスで周辺の風向きを読み取り、急な姿勢変化へも対応する準備を整えつつ、ひたすら青ヶ島へと向かう。
この強風のためか、超センスによる青ヶ島付近の精密センシングには失敗していた。
おそらく、空気中に存在するマイクロマシンが、吹き飛ばされまくっているのだろう。
その分次々と新しいマイクロマシンもやってくるが、細かい観測を終える前にまた入れ替わっていってしまっている様だ。
何となく魔物の気配はしているが、数や大きさはまだ判明していない。
高度3000ft、島直前である。
響は虹色膜の翼を完全に閉じ、風に対する面積を減らした。それと同時に前面に虹色ノズルを展開、蒸気ロケットにて一気に減速していく。
横風による影響は、細かく噴射する風魔法にて対処する。シュパシュパ、パシュパシュと姿勢維持のための噴射を行いながら、速度をゼロに近づけていく。
ここまで近くなっても、未だに詳細な情報は得られていない。魔物の数は七、八頭と思われるが、正確な数はわかっていない。
大きさも、人よりは小さそう……までしかわからず、当然種類も不明のままだ。
最初の目撃情報では、二足歩行の魔物と言われていたので、大きさと併せるとゴブリンじゃ無いかな? との予測はしているが、まだ決め打ちはできない。
『響ちゃん、理沙です。状況報告お願い』
理沙から魔法通信が飛んできた。
この天候ではレーザー通信が役立たずなため、魔法通信のありがたさが身に沁みる。
『理沙さん、響です。超センスの精度が上がらなくてまだわかってません。魔物は多分七、八匹です。ゴブリンじゃないかと思いますが、確認はできてません』
『響ちゃん、理沙です。了解、無理はしないでね。村では全員が家屋に閉じ籠ってくれているみたいです。ただ、天候はまだ更に崩れる可能性があります。わたしは今、救難隊のU-125Aで上まで来てるけど、これ以上荒れたら戻らないとならないです。降りる場所も百里は難しいかもしれないので、合流は遅くなるかもしれません』
『理沙さん、響了解です。状況判明次第連絡入れます。アウト』
通信を終わらせ辺りを見渡す。
雲の下へと飛び出したおかげで、島の全体像は何となく見えているが、雨も酷く視界そのものはとても悪い。
魔物の反応は島の中央火口丘付近にあり、周辺に人の気配は無さそうだ。
「むぅ、こんなに超センスの感度落ちるとか、まだまだ修行が足りてないのかなぁ」
文句を言いつつも高度を落とし、風のうずまく農道へと降り立った。
雨は土砂降りだ。ただ、体の周りを虹色膜でほぼほぼ覆っているため、響が雨に打たれることはほとんどない。
風の音、雨音が酷いうえに視界も悪く、超センスが無ければ歩き回るのも恐ろしい状態かもしれない。
「うーん……多分こっち?」
姿勢を低く保ち、小波師匠に教わった通りに駆け抜けていく。
魔物の気配は左手側の藪の中なのだが、風が強く直接飛んでいくのはなかなか難しそうだ。
農道と遊歩道が近くを通っているので、そちらに向けて進む。
人間相手の戦いの場合、こんな開けた道路を歩いてはいけないと教わった。しかし相手は魔物だ。知能の方は大したこと……
‼︎
左側の藪の中で、突然膨れ上がる魔力。
響は反射的に左側にバリアを展開し、全力の噴射で前方へと身体を投げ出した。
「ファイヤーボール⁉︎」
藪の中から炎の球が飛び出し、バリアに吸い込まれていく。
藪の中の魔力反応がおさまる前に、その付近へと向けてレールガンの銃身を複数展開、弾丸をばら撒きつつ他の反応を探っていく。
「んー……ふたっつみっつ倒したかな? 残りは……あと五匹かな……」
とりあえず道から外れ、姿勢を低くして身を隠してみる。
響ですら気配察知に手間取るのだ。相手から見えさえしなければ、そうそう場所は露呈しない。
「うー、失敗したなぁ。魔物相手でも、道路にいたら狙われるのかぁ。これは帰ったらきちんと報告いれないとなぁ」
反省しながら通信回線を開く。
『理沙さん、響です。遭遇戦で二匹か三匹倒しました。種類不明ですがファイヤーボールを撃ってきました。残りは多分五匹です』
『響ちゃん了解。引き続き気をつけて』
『はい!』
残りの気配もぼんやりはしているが、少しばらけてくれたために数はわかりやすくなった。
一匹、離れて道路の方へと寄ってきた。
「じゃ、まずあれを……パンっ!」
いつもの発動子でレールガンを撃っていく。
「おー、やっぱりゴブリンなのね。なんか少し大きめだけど。ってことはさっきのファイヤーボールはマジックゴブリン? 他のも上位種なのかな?」
残りは四匹。
誘き出すのは難しそうだ。仕方ない、こちらから出向く。
この土砂降りの中で藪漕ぎは難しいため、いつものビームなセイバーを起動して、薮ごと薙ぎ払っていく。
ザザザザ、ザザザザ、ザザザザ
刀身長は十メートル近いが、実質的な質量がないため、こんな長さでも苦も無く振り回すことができる。
ザザザザ、ザザザザ、ザザザザ
あ、一匹引っかかった。あと四匹だ。
響はたった今作った『道』へと足を踏み入れ、一気に奥へ向かって走った。
彼我の距離はもう20mも無い。この辺まで来れば、いくら超センスの感度が落ちていても問題なく観測出来る。
「やっと見つけた。パンっ、パンっ、パンっ、パンっ」
四回の発動子の発音と四発の銃声が重なり、響の勝利が確定した。
『理沙さん、響です。魔物の駆除完了しました。ゴブリン種の上位種を含めて八匹です。全数アイテムボックスに収納して撤収します』
『響ちゃんお疲れ様。ちょっと台風で近づけないので、一晩そちらで泊まってもらえるかしら? 明日朝までにはお迎え行けると思うんだけど、今日のところは……ね』
『理沙さん、響です。泊まるって、どこにですか?』
『駐在さんにお願いしてあるから、駐在さんのところまで行ってもらえるかしら? 島の北側、役場のそばよ』
『響了解しました。ちょっと行ってみます』
このパターンは始めてだ。
この天候でも響は飛ぼうと思えば飛べるだろうが、回収の飛行機が来てくれないとなると、ちょっと面倒だし、まぁいいか……と、八丈島警察青ヶ島駐在所に向かった。
ただ、まだ土砂降り中だ。駐在のお巡りさんは警戒のために出かけてしまっている可能性が高い気がする。
「ごめんくださいー」
駐在所に入り、声をかける。中には当然のように誰もいなかった。
机の上には『島内パトロール中』のふだが置いてあり、その隣に八丈島警察の電話番号と電話機が用意してあった。
「うーん……いきなり警察署に電話するのも違うよね? ごめんくださいー、異世界生物対策室百里分駐所の沢井ですー」
…………
………………パタパタパタ
スリッパで走る音とともに、女性が出てきた。
「あ、すみません、わたし異世界生物対策室の沢井と言います。先ほどご連絡をさせていただいていたかと思うのですが……」
「あー、はいはい。聞いてますよ。一晩お預かりするんですよね。お部屋作ってありますから、どうぞどうぞ」
うん、島っぽい。
それからしばらく、お話させていただいた。
旦那さんは警視庁の巡査長で、ここに配属になって二年目。お子さんはまだできていないため、二人で二十四時間三百六十五日、この島の平和を守っているらしい。
いや、その仕事めちゃくちゃ大変だろっ!
「まぁ、百世帯ぐらいしかありませんし、何とか……ただ、お年召した方が多いので、急病人が出たりすることも多くて……」
どうやら、急病人が出た時には東京消防庁からヘリコプターが飛んでくるのだが、ヘリでも一時間以上かかるらしく、救命率も伸び悩んでいるとか……
「交通事故が少ないだけが救いですけどねぇ」
なんせ車が少ない……しかも軽トラばっかりだ。
まぁ、それも紅葉マーク付きばっかりだが。
「じゃ、明日まで一日だけですけど、よろしくお願いしますね」
こうやって離島の平和も保たれている。
ただ、これが出来る魔法使いは一人しかいない。
空を飛ぶだけなら、何とかなる魔法使いが二桁の大台に乗った。しかし、響の様に自由自在にはまだまだ程遠い。
響に続く魔法使い達をどう育てるか……試行錯誤はまだまだ続く。
最後の秘境、青ヶ島。
良くまぁこの島に住もうと思いましたよね……取り付くだけでも大変な断崖絶壁の孤島……
最寄りの島がまた孤島な八丈島で、そこまで60kmあるとかハードモード過ぎます……
それではまた、お会いいたしましょう。




