登校日
今日は夏休み中、一日だけある登校日だ。
と言っても、六組のみんなはほぼ毎日顔を合わせているわけで、なんの感慨もないのだが。
あ、今日は訓練は無いらしいので、むしろご褒美日説すらあったりする。
ただ、六組以外の生徒にとっては、数少ないチャンス日かもしれない。
そう、五組の吉野くんとか!
ほら、朝、登校した後、一般生徒はほとんど用がない正面玄関側の柱の影に立ち、たぬきの登校を待ってるこの少年のことだ……いやもう、いよいよ危ないやつじゃねーかっ!
って、一学期中も朝練終わったあと、いつもやってたの? お、おぅ……たぬきも知ってるのか、そうか……
習志野での訓練を共にするようになってから、たぬきとの行動も増えた筈なんだが、基礎的な動きがストーカーじみてんだよなぁ。カッコいいけど。
今日は習志野訓練も無いので、ここで待ち伏せしておかないと一日会えない可能性? って、思いっきり待ち伏せとか言っちゃってんじゃねーかっ!
あ、相手は魔法使いだから、隠れてても無駄なのね。たぬきは玄関に入る前から、吉野くんの存在に気がついている。
そして、ニヨニヨと嬉しそうな表情を見せた後、いつもの日本人形っぽい表情に戻り、お澄まし顔で玄関に入った。
アイテムボックスから上履きを出し、ローファーから履き替えて、今度はローファーをアイテムボックスへ。
上履きの色は入学年度によって違い、たぬきたちの年はブルーである。
ここのところ、吉野くんとの距離がすごく近づいてきているのは間違いない。
って言うか、吉野くんが意識不明の時、こっそり……あの……『ちゅっ』とか、しちゃったしね……
吉野くんが知ったら、多分心臓止まるね。やっちゃったたぬきさんも、思い出したら瞬間湯沸かし器並みに、顔から湯気が出そうだし。
まぁ、吉野くんの視線を感じながら新校舎に向かう。
吉野くんたちスポーツ科学は旧校舎なので、ここでしばらくお別れである。
吉野くんはチラチラと振り返りながらも、旧校舎の五組へと歩いて行った。
「今日も朝からご馳走さまっ!」
教室から顔だけ出して眺めていた響が、にこやかに声をかけてきた。
にこやか……ニヨニヨしながら声をかけてきた。
「べ、別に何にもしてないし」
「ハイハイ」
教室に入ると、うさや以外は全員来ていた。
うさやは多分、家の車で送ってきてもらうんだろう。
「今日も吉野くんはカッコよかったですか?」
セトルリが聞く。元吉野くん信者だが、今日も尚子にベッタリだわ。
「あー、なんか、吉野くんって感じだった」
「なんだそりゃ……」
吉野くんと出身校が同じ響、うさや、たぬきと、吉野くん信者だったセトルリと違い、ナオナオの二人は吉野くんのことをあまり良く知らない。
最近は一緒に訓練を繰り返しているため、
『すごく努力家のカッコいい男の子。あとたぬきへの愛を隠そうともしないダダ漏れ男』
ぐらいまでは理解しているが。
って、酷い理解だな。いや、一ミリも反論できないけどさ。本人あれでも、気を遣ってるつもりなんだぞ。
「あー、吉野くんってあんな見た目でしょ? だから割と誤解されやすいのよね。チャラ男とかさ」
響が解説を始めた。
「あたしも、入学してすぐの頃はチャラ男に違いないって思ってたよ。サッカー部のマネージャーになったら、すぐに誤解だってわかったけど」
セトルリが補足してくれた。
「でまぁ、たぬきにだけはそんな風に思われたくないのか、視線がね……恐ろしいほどにたぬきにロックオンするの」
まぁ、それを側から見ると妖艶な流し目に見えるあたりが、かっこいい吉野くんっぽいところなんだが。
あ、たぬきさんが恥ずかしがって、両手で顔隠してます。
「だから、たぬきから見ると大体いつも視線が真っ直ぐ飛んできて、怖いのと嬉しいのがごっちゃになって描いちゃうんだって」
いや、最後! 結論がなんか普通じゃねぇっ!
「うわぁ、吉野くん、不憫だねぇ」
男嫌いの尚子さんですら同情できるレベルで不憫な少年。
「おはようございますですわ」
そんなところにうさやさんが登校してきた。
「何話してらっしゃいましたの?」
「あのね、たぬきがいかに吉野くんを堕としたかって話」
「ぎゃぁ、違うのっ! 吉野くんとはただの幼馴染だし!」
「わたくしもずっと一緒なのですが……」
たぬきとうさやと吉野くんは、それこそ保育園から一緒である。
流石に保育園の頃の吉野くんは、こんなにたぬきズッキーではなかった……と思う。
となると、小学生時代? どこからたぬきのことを好きになったのか……
小学生中学年以下の話となると、響と出会う前の話だ。
響は小学生時代は、基地内に作られた小美玉市立小川南小学校橘分校と言う場所で教育を受けた。五年生になる時に、皆と同じ小川南小学校へと編入した。
響が転入した頃には、もう吉野くんのたぬきラブラブっぷりは皆の知るところであった。
「となると、小学校の低学年かしら? あ、二年生の遠足では、もうたぬきの荷物とか持って歩いてた気がしますわ」
「あの頃、何かあったかなぁ? 覚えてないなぁ……」
「そう言えば……吉野くんがやたら名前で呼ばれたがってたのって、その頃ではございません?」
「………………あっ! まさか、あれ?」
「なになに? 何があったの?」
直美も興味ありそうな顔で入ってきた。
校内事情通のセトルリさんは、何となく察したのか、遠い目をし始めた。
「あのね……あ、ここだけの話にして欲しいの。吉野くんがめっちゃ嫌がるから……」
たぬきが、観念したように語り出した。
「確か小学校入ってすぐぐらいの時かな? みんなでかくれんぼしてた時に、吉野くんと同じ場所に隠れたのね」
「「「うんうん」」」
「その時にね、吉野くんの名前、カッコいいねっ! って言ったら、めちゃくちゃ喜んで、それから事あるごとに、皆んなに名前で呼ぶようにって、言って回ってたの」
「そんなにかっこいいの? 吉野くんの名前って」
何も知らない尚子が聞いた。
「あ、えーとね……えーと……よ、読み方だけ教えるね。吉野くんのお名前は、吉野……ベガって言うの……」
「あ……あー、うん、聞かなかったことにしとくね。なんか吉野くんに悪そうな気がする」
「そうしてもらえると、助かるかも……」
吉野ベガ……うん、カッコいいと思えばかっこいいよ。うん。
吉野くんのたぬきラブ、スタート地点はたぬきにお名前褒められたから……だったらしい。
しかし、今ではもう、たぬきの全てを愛するたぬきマンとして、押しかける告白と戦っているのだ! がんばれ、たぬきマン!
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吉野くんの名前の秘密は、拙作短編
『吉野くんの秘密 -彼はクラスで一番……学校で一番カッコいい……筈なんだ!』
https://ncode.syosetu.com/n4366ju/ #narou #narouN4366JU
にて、語られております。
ぜひ併せてお読みいただけたらと思います。
それではまた、お会いいたしましょう。




