事件
「はぁ……」
武藤麻紀は頭を抱えていた。
「遅かれ早かれ、この問題は起きると思ってたけど……ここまで派手に起きちゃうと、どこから手をつけて良いのか……」
昨日の晩、全国を震撼させる魔法使い絡みの大事件が発生した。
『魔法使いによる大量殺人事件』
東京都の公認魔法使いがホストに狂った挙句、店で他の女性をもてなす推しに向けて、ファイヤーボールを撃ち込んだのだ。
このファイヤーボールに巻き込まれて亡くなった方が二十二人。怪我人も十人以上となる大惨事だ。
更に、店の前で放心していた犯人を、逮捕しようと近づいた警察官へも魔法を発動し、警察官四人を含む八人が死亡。
その後も逃走をしようとしたものの、三発目のファイヤーボールを撃とうとしたところで拳銃に撃たれて暴発、本人も意識不明の重体となっている。
現在のところ、魔法使いが魔法を行使しようとした場合、それを阻害することはできない。
魔法が使えなくなる拘束具なんて存在しない。魔法が使えなくなる魔法も存在しない。
本当に魔法使いの良心だけが支えの、非常に危うい状況が続いていたのだ。
海外では、とっくに魔法による犯罪はメジャーな犯罪となってきている。
海外ならば、呪文が唱えられないように猿轡でもしておけば、魔法の行使ができなくなる。
しかし、マジックオペレーティングシステムが普及を始めた日本では、呪文はもう必須ではなくなっているのだ。
魔法使いを縄で縛ったところで、猿轡をしたところで、目隠しをしたところで、魔法は行使できてしまう。
麻酔で眠らせる? マイクロマシンが麻酔を分解し、半日分突っ込んでも、ものの一時間で目を覚ましてしまう。
「こんな状況じゃ、魔法使いのための政党なんて作ったところで、敵が増えるだけよねぇ……」
沢井家のダイニングテーブルで、再び頭を抱える。
「むーとーまきまき、むーとーまきまき、ひーてひーて、トントントン……」
なんだか良くわからない歌を歌いながら、麻紀の嫁が降りてきた。
「麻紀さんおはようございますー……って、どうしたんですか? 頭痛い? お医者さん行きます? あうあう、き、救急車呼びましょうか?」
麻紀さん大好き響さん、めっちゃテンパってます。大事な大事な婿殿が大変なのですっ!
「大丈夫よ、響ちゃん。心配かけてごめんね。ちょっとね、気になることがあってさ。あ、ご飯作るよ。少し待ってもらえる?」
こんな状況でも嫁のご飯の事考えてくれる、とても素晴らしい婿殿なのです。
「あ、自分でやりますから麻紀さん休んでてください。えっと、麻紀さんは朝ごはん食べました?」
「んーん、ちょっとね、それどころじゃなかったのよ」
「じゃ、麻紀さんの分も作りますから、そのまま待っててくださいね。
麻紀は幸せだった。
こんな素晴らしい嫁が居るんだから、きっとなんとかなるなる。だってこの嫁、魔法に関してなら世界一な訳だし。
まぁ、暴走率も世界一かも知れないけど、世界に仇なすことはないだろう……多分。
「はーい、お待たせしました。と言っても、いつものラピュタトーストですけどね」
トーストの上に目玉焼きを乗せただけの簡単朝食だ。響はあまり料理が得意ではないので、作るものがワンパターンになりがちで有る。
「ありがとう響ちゃん。いただきます」
両手を合わせてから、愛妻の作った朝食をいただく。
「ん、美味しい……さすが私の嫁」
「麻紀さんほどお料理上手じゃ無いですけどね」
クスクスと笑いながら手を合わせ、いただきますをする響可愛い……
「魔法のことは響ちゃんに相談かな? やっぱり」
「どうしました?」
「魔法使いの犯罪対策なんだけどね……」
麻紀は今の悩みごとを、響へと伝えていった。
「うーん……お姉ちゃんに聞いてみましょうか」
「そうだねぇ。それしかないかなぁ。お姉さんの世界の方では、魔法使いの犯罪ってどうやって取り締まってるのかなぁ」
「その辺も含めて聞いてみますね」
「ん、お願い」
「おわっ! 麻紀さん、お姉ちゃんからお返事、きましたー」
「はっやっ! まだ五分と経ってないわよ?」
「メッセージアプリ並みですねぇ。で、あっちでもやっぱり結構困ってるみたいです。特に野良魔法使いには。相手が管理外の場合、洗脳レベルの更生手段をとってるみたいです」
「洗脳って……」
「ステータス・オープン魔法を使う冒険者たちには、ステータス・オープン魔法の機能で魔法を止めることが出来るって」
「そ、それを早く言って欲しかった! どうやるの? どうやるの?」
「ステータス・オープンって、固有番号ありますよね?」
「あ、うん。あのIPアドレスを二つ並べたみたいな奴よね?」
「それです。その番号をあっちの魔法管理サーバーに登録すると、いろいろと制限できるらしいです」
「って、何それ……まさにネットワークでのアカウント凍結じゃないの」
「そんな感じみたいです。ただ、あちら側でしかできない様なので……」
そういえば響の姉、奏はなんでもエンジニアだった筈だ。
ソフトウエア設計からハードウエアまで、重電から重工までなんでもござれのスーパーエンジニア。社内ではマッドエンジニアとか言われていたらしい。
その姉が作り上げた魔法システムなら、そうなるのも仕方がないのかも知れない。
「でも、魔法ってそうポンポンできるものなのかしら」
「うちだと、直美も尚子も自力で魔法生み出してるじゃないですか。わたしはいきなりスクロール魔法さん突っ込まれましたけどね」
クスクスと笑いながらトーストを齧る。
うん、うちの嫁さん、可愛い。
違う、今は魔法のお話だった。
「じゃ、その管理番号送れば、お姉さん達で対処してくれるかしら」
「それも聞いてみますね。なんならそのためのシステム構築してくれるかも知れないし」
魔法のシステムとか普通に構築しちゃうの、やっぱ響のお姉さん達は尋常じゃない方々なんだろうなぁ……とか思いつつ、最後の一口をパクリ。うん、美味しい。
「ご馳走様でした。美味しかったわ」
「えへへ。お粗末様でした。わたしもご馳走様でしたっと。お片付けもしときますね。麻紀さんはゆっくり頭使ってくださいな」
「ありがと響ちゃん」
嫁にお礼を言ってから、再び思考の海に沈む。
そのお姉さんのシステムでBANしてもらえれば、マジックオペレーティングを使ってる魔法使いに対しては対処が可能だろう。
野良の魔法使いには手出しが出来ないが、野良魔法使いは能力もそれほど高くないため、管理魔法使いがいれば制圧も難しくなさそうだ。
なんなら、覚えられる人には、みんなステータス・オープン魔法を覚えさせてしまうのも手かも知れない。
そして管理番号とマイナンバーを連携させれば、何かあったらすぐに魔法を止める事が可能に……
ヨシっ、その線で委員会へ提出してみよう。響ちゃんのお姉さんに協力をお願いしないとならないが、こればかりは響ちゃんに誠心誠意頼み込んでなんとか!
ちなみに、響ちゃんにお願いしたら
「最愛のお婿さんの願いですよ? もう最優先でお姉ちゃんに頼んであります」
とか言われた。
なんなの、うちの嫁は天使なの?
そんな感じの事件でした。
封魔の指輪とか封印魔法とかあれば便利なんですけどねぇ。
OSから縛れたとしても、そのOSを作れる様な魔法使いがいたらどうにもなりませんし……
それではまた、お会いいたしましょう。




