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赤い瞳

 目立つツインテールに、赤銀メッシュ。

 赤いシャドウと赤いカラコン。

 トップスは黒レースの付いた、薄ピンクブラウス。リボン付き。

 ボトムスはハイウェストの、フリルショート。お色は黒で。

 白ハイソックス、黒ブーツ。

 耳にはピアスっぽいけど、これ貼り付けだ。


 六組が誇るファッション地雷、瀬戸瑠璃である。

『ファッション言うなしっ!』

 だってあれじゃん、いい子じゃん。瀬戸さん。

『はぅー』

 今赤くなったの、メイクのせいだけじゃないよね?

『ナレーションうっさい! あっち行って!』


 とまぁ、歩くホーミング地雷のセトルリさんが、身体中の痛みに耐えた翌日のことだった。

「あれ? コンタクトすると……見えない?」


 元々、目は良くなかった。

 近視で乱視。日本人なら良くある奴だ。視力検査では0.2とか0.3とかをフラフラしてる感じだったのだが

「コンタクトなしで……見えてる?……あっ!」


『魔法使いになると、どんどん健康になる』

 確かそんなことを習った気がする。

 にしても、突然すぎるだろ? 昨日までは見えてなかったのに、今日になっていきなりとか。


「だめだわ。コンタクトすると、やっぱり見えない……えー、困った……」

 地雷メイクに赤いカラコン。もうセトルリと言えばこれってぐらい、決まったイメージだ。

 しかしコンタクト出来ない。


「まいったなぁ。度なし買ってくるかぁ。今日明日は習志野連れてかれちゃうから、明後日水戸まで出ようかなぁ」


 お着替え、メイク、ヘアメイク。いつも通りに決めたつもりでも、やっぱり目の色が黒だとイマイチ自分っぽくない。


「なんか普通だわ。あたし。もう少しこう、怖さを出したいのに、怖さを」

 いや、方向性わかんないからっ!

 可愛くしたいんじゃないの? 元々は男好きを自認してたんでしょ? なら男に媚びた感じを目指してたんじゃないの?

『男に媚びるんじゃなくて、吉野くんに媚びたかったんだけどねぇ。仕方ないよ。今やあたしはみんなの嫁なんだから、みんなに愛されたいのさっ』

 みんなに愛されるのと、カラコンには相関関係はあるのだろうか?

『なんか良くわかんないけど、あたしらしさの追求!』

 うん、良くわかんないや。


 ぐだぐだしていても仕方がない。バスの時間もあることだし、そろそろ家を出なければならない。

 夏休みだからスクールバスは出ていない。路線バスを乗り継いで行くため、百里までは割と時間がかかる。


 荷物は全部アイテムボックスの中だ。もう、これがないと生きていけない。着替えやらなんやら、全部突っ込んでも余裕だし。

 更にハート型のリングが付いたショルダーバッグを斜めがけして、チャーム付きの厚底ブーツを履く。


「行ってきまーす」

「お、おう、気をつけてな」

 兄が微妙にきょどりながら送り出してくれた。

 両親は仕事に出ているので、この時間は一つ上の兄しかいない。

 多分、ちょっとシスコン入ってるんだろうな? なんて気もするが、兄に媚びるつもりはない。少しアニオタっぽいし。

 アニヲタというと思い出すのが、学校のヲタ三銃士だ。正直勘弁してほしい。できれば視界に入って欲しくない。

 というわけで、セットで兄もお断りしますごめんなさい。


 玄関を出たらすぐに灼熱の夏である。だんだん上手くなってきたエアコン魔法をかけつつ、バス停まで歩き始めた。


 明後日水戸まで行くとしても、いつもの眼科さんで検査するで良いのかな? 確か、響とかはいつも東京の方の病院に連れて行かれてるって、言ってた様な?


 うーんうーんと悩んでいると、バスがプシュプシュ言いながらやってきた。

 近距離の路線バスは、かなりの区間が無人化されてきている。道沿いにつけられている赤外線ビーコンと、車体に取り付けられた何十台ものカメラによって自動制御される無人バス。

 おかげで、一時は廃止されてしまったようなローカル路線も、運行が復活してきている。


 バスに乗って非接触型ICカードを接触させて読み込ませる。

 もう何十年も使われている技術だが、完全にぺったりとくっつけちゃえば、今の電波状況でもきちんと読み取れるので、いまだに使われ続けていた。


 バスでは中扉のすぐ後ろ、段になった上の左側の席に座る。他の乗客は、四、五人かな。夏休み、かつ通勤時間帯から外れた朝のうち。これだけ乗ってれば御の字だろう。

 バスはすぐに住宅街から外れ、一面の田んぼの中を走り始めた。


 カラコンかぁ。

 今までは視力矯正も兼ねてたから、そこそこ良いお値段していた。

 もしかして度なしは安いのかな? と、携帯端末で検索を始める。

 バス車内の赤外線通信と、路線に仕込まれた赤外線ビーコンを経由して、ネットで検索も可能なのだ。


 色々と調べてみた結果……

 カラーコンタクトが安全になり、医療品として保険診療で使える様になったため、度入りならば三割負担で購入できる。

 しかし度無しは全額自己負担ということで、金額的にはむしろ高くなることが判明した。

 

「たまには赤以外も試してみようかなぁ。尚子喜んでくれるかなぁ……」

 いや、それはどうなんだろ。そもそもカラコン喜んでくれてるの? というか、地雷ファッションの需要って、女の子向けには存在するのか?


「こう……色を自由に変えられるカラコンとか、開発されてないのかなぁ。アラカルトで沢山入ってるやつはあるけど、これ高いなぁ」

 セトルリたち魔法使い見習いには、実戦見学などで飛ぶ時にはバイト料が入る。

 ただ、それ以外にアルバイトをしているわけでもないので、所詮は高校生のお小遣いレベルしか持っていない。

 度付きの頃は両親が出してくれていたが、ただのファッションカラコンとなると、自分で出さないとだめな気がする。


「赤もさ、ピンクっぽいのとかオレンジっぽいのとか微妙に雰囲気変わるしね。あと、暗闇で光るのとかないかな? カッコ良さそうじゃない?」

 だんだん煮詰まってきてるな。これ。

 流石に目の中まじまじと眺めないと、わからなくないかな? 赤の色調の違いとか。


「尚子に並んでる時はピンクとか、うさやと並んでる時はグリーンとか、隣にいる人によって色変わったら面白そう? やばい、想像してたらドキドキしてきちゃうわ。となるとアレだわ。響の隣ではヘテロクロミア一択でしょ!」

 いや、一体何色買うつもりなん? お金ないよね? 今持ってるバッグ買うのに、先月まで貯めてたお小遣いはたいちゃったでしょ?


「でもまぁ、まずはお医者さんで診てもらってからだよねぇ……」

 独り言を呟きながらバスを乗り換える。

 あとは茨城空港まで行って、もう一回乗り換えれば百里だ。


「やっぱ遠いなぁ。かといって直美みたいに官舎入るのも違う気がするし。お金はかからないみたいだけど……」

 直美の部屋は国が用意してくれている。使っているのは航空自衛隊の官舎だが。


「あー、それなら朝晩のご飯も国持ちになるのかな? そしたらお小遣い沢山もらえるかな? でも一人暮らしは反対されるよね、パパとおにぃに……ママは多分大丈夫だろうけど」

 やはりカラコン代金が厳しい。しかし、目の色を変えないという選択肢は、選びたくない……

 

「もうね、人の目の色とか自由に変われば良いのよ。そしたらみんな自由に変えるから、あたしだって変な目で見られなくなるだろうし……」

 いや、あなたが変な目で見られるのは、カラコンのせいじゃないと思いますが?


 なんやかんやで百里基地。正門で警備のお兄さんに挨拶して、場内へ入る。

 行き交う隊員さんは、だいたいみんな見慣れた人々だ。

「おはようございますっ」

 地雷なナリをしていても、セトルリの可愛らしさはスポイルされない。そして、学校にいるときよりも、更にきちんと挨拶できるファッション地雷だ。そりゃ人気にもなるさ。

 つーても、ここに出入りしている女の娘たちで、人気の無い娘なんて一人もいないが。


 基地建物を抜けて、駐機場(エプロン)へ出る。

 ここから更に、百里名物『くの字型のタクシーウェイ』沿いに歩いていって、対策室へ。

「はぁ、なんで飛行場ってこんなに大きいのかなぁ。遠いのよ、ほんとに」

 コンクリートの照り返しがエアコン魔法を突き抜け、セトルリの顔に汗が浮かび始める。

「着いたら響にもう少し冷やしてもらおう……あたしの魔法じゃ限界だわ」


 とことこと十分近く歩いたところで、やっと到着対策室。

「おはようございます」

 ガラッと扉を開けて、中に入る。

 室内はエアコンも効いていて、外よりは随分マシである。

「おはようセトルリ。今日も気合い入ってるね」

 尚子がセトルリの顔を見て挨拶してくれた。

 これだけでも、来た甲斐があるってもんだ。

 セトルリは尚子の香りの空気を胸いっぱい吸い込むと、恍惚としながら微笑む。

「珍しいね。今日はカラコン、ピンクなんだ。すっごく可愛いよ」

「…………へ?」

「いや、いつもと色が違うなって……」

「……へ? ……え?」


 セトルリさん、無意識に目の色を変える魔法を開発してしまいました。


 後の調査で、認識阻害魔法の一種を使っている事が判明。魔法使いの諜報活動のためにめっちゃ研究されまくることになりました。

 ちなみに響はこれと良く似た魔法を使っています。

 空を飛ぶ時に、スカートの中が認識できづらくなる、認識阻害魔法ですね。


 物理的には、角膜の直前に、位相をずらした虹色膜を張ってるような状態らしいです。


 それではまた、お会いいたしましょう。

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