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実戦形式訓練

 夏休み。特訓の夏。


 その頃、セトルリ以外の四人は、実戦を視野に入れた訓練を始めていた。

 セトルリは流石にまだ基礎を……基礎…ふ、ファーイト、ファイト!

「も、もう、無理……はし、走れない……だぁ、ぜはっ、はぁっ、はぁっ」

 基礎訓練を受けていた。

 

 実戦訓練と言っても、みんながみんな、響の様な戦い方をできるわけがない。そもそも、マジコンとか響にしか使えないし。


「用意! 始めっ!」

 だんっ!

 うさやが床を蹴り、姿勢を低くして市街地を模した建築物群に飛び込む。

 飛び出してきた魔物型の的に、低速に抑えたレールガンの弾を撃ち込みながら周囲を確認。脳内に浮かび上がる要救助者人形と魔物ターゲットをマーク。

 要救助者人形を避ける経路での弾道を計算、最短でその位置へと駆け込みながら、弾をばら撒いて行く。

 二つ目の交差点を制圧し、三っつ目に飛び込んだところにペイント弾が飛んできた。反射的にリフレクトマジックを展開したものの、一瞬遅く被弾。胸元に綺麗に黄色いマークが咲いた。


「ああっ! 間に合いませんでした……残念です……」

「今のは突入前には見えなかったか?」

 小波(さなみ)師匠から声がかかる。

「何か居るのはわかってたのですが……飛び道具は想定しておりませんでしたわ」

「想定の甘さで戦死したパターンだな。これは訓練で何とかなるから悲観するなよ。反応は悪くなかった」


 一人ずつ、少しずつ設定を変えた近接戦闘訓練棟での制圧訓練を続けていく。

 上手かったのは直美だ。下手すると壁越しにターゲットを撃ち抜いて行く。

 

「んー、魚探すのと一緒?」

「魚?」

「そ。何も見えない霞ヶ浦で、魚探してたらわかる様になった」

 さすが漁師!

 

『違います。釣り師です』

 いや、だって見えない魚探してた獲るんだよね? 漁師じゃね?

『釣り師です。漁師では無いです』

 何が違うのかわかんないよ……

『釣り師なんです』


 よく判らないこだわりが有るらしいが、とにかく優秀な成績を収めたのは確かだ。

 何度試しても一度のミスもなく、全ての魔物を倒し、要救助者を救出していた。

 そして、成績が微妙だったのはたぬきだった。


「あ……」

 また、人間を撃ち抜いた……

 正面から当ててしまうことは少ないのだが、角の向こうを狙う時等に、魔物と一緒にワンショットツーキルしてしまうパターンが多い。

「トリッキーに狙い過ぎだな。視えてるのに殺っちゃうのはちょっと考えものだが、自分の身をまず守ることに繋がっているからな。それは推奨したい。ただし、訓練が圧倒的に足りてない。もう一度だ」

「はいっ!」


「出町っ! お前はなぁ、手加減覚えような。そのまま行くと、響みたいになっちゃうぞ? いいのか?」

 尚子は火力制限をついつい忘れ、周辺に張られたリフレクトマジックを叩き割り続けていた。


 リフレクトマジックはある程度以下の物理衝撃なら、そのまま耐える。9mm拳銃の弾ぐらいなら、何発撃たれようが普通に弾き返す。

 ということは、訓練中だと言うのに、実弾以上の威力の弾をばら撒き続けているとか、ただの危険物じゃねーか!

「んー……出町は屋内射撃訓練所行きだな。誰かこの娘連れてって、ひたすら同じ威力で弾撃ち続ける訓練やられてきてくれ」

 尚子はアシスタントでついてくれていた女性自衛官(W A C)に連行されていった。


 ピチュンっ。ブワっ! バシンっ、タターン!


 やたらと音が賑やかなのが、先ほど上手かった直美だ。

「さっきより更にうまいな森河……悪くないぞ。もう少し反応上げていけば、今すぐにでも出せるレベルに仕上がってきてる。何よりも的確に手の内を変えて丁寧に敵を排除し、人を躱しているのが素晴らしい。次はバヨネットも持ってみろ。選択肢が増えてよりやりやすくなるかも知れんぞ」

 皆がレールガンだけで戦っていたのに対し、直美はウインドショットと呼ばれる風魔法の一種も使っていた。

 邪魔になる要救助者を魔法で強制移動させ、魔物と一対一の位置へと回り込む。


 このように、小波師匠に一人ずつ指導されながら徐々に戦闘能力を向上していく。

 上手く育てば、二学期からは本当に実戦に出る可能性もあるのだ。


「みんなお疲れー」

 響が演習場までやってきた。

「おー、教習終わったの?」

 たぬきが汗を拭きながら響に声をかける。

「今日のところはね。結構厳しかったよぉ」

 今は、屋内射撃場から戻ってきた尚子が訓練中だ。あとの三人はスポドリ飲みながら見学をしていた。

「響の教習は、どんなだったの?」

「こう、えいっえいっとかは怒られないんだけど」

 いや、オートバイ乗ってて『えいっえいっ』ってシーンは思いつかないんだが……

「すーっと走ってるとすっごい怒られるっ!」

 いいから『周りの人にもわかる安全確認』を徹底しろって言ってるだけだわ。

 自己完結で走るなっ!


「こっちはどう? 見た感じ、尚子が苦戦してるっぽいけど……」

「尚子とわたしが苦戦中。直美はすっごいうまい」

 言ってるところに尚子が戻ってくる。

 汗かいた尚子はいつもの香りが五割り増しだ。ここにセトルリがいたらきっと昇天してる。

「はぁ、はぁ、ムズイ……こう、最初は良いんだけど、段々勝手に威力上がってっちゃうのは何だろう……」

「あー、判るっ! わたしもそれ散々言われたっ、師匠にっ!」

 響も威力制限苦手な人だった。


「よーし、響、じゃ、手本な。威力制限、もうできるよな?」

 小波師匠が笑いながら目が笑ってない奴で指示してきた。


「は……はい……」


        ♦︎


 響は、街を模した建物の手前のガードレール裏で、準備する。

「用意、ぴっ!」

 小波師匠の合図で飛び出した。

 三歩で交差点に飛び込むと、左右に同時にレールガンを発砲、二つの的に穴が開く。

 同時に一瞬足をついて左へと跳ぶ。空中でベリーロールの様な機動をしながら三発の弾を射出。二階の窓や屋上に有るターゲットまで破壊した。

 続いて建物に張り付き、壁の向こう側に発生させた電子雲とレールガンの弾により、姿をさらさないまま室内の敵を全滅させた。

 室内に踏み込むと同時に、真上に手を向ける。今度は天井越しに二階の敵が駆除されて行った。


「うん、ありゃチートだわ」

「だね、あれはチートだね」

「そうだよね。チートだよね」

「まぁね。響がチートなのは今に始まったことじゃないし」

「わたし、ひどい言われようっ!」


「ははは、まぁ、これが日本一の魔法使いの戦い方だ。これを真似しろとは言わないし、わたしだってこんな真似はできない。けどな、自分の安全を確保し、要救助者の完全を確保し、皆の資産を守るって事に関しては十分参考になるかと思う。明日以降もびしびしやっていくからそのつもりでいてくれ」

 小波師匠が締めの一言を言い、今日の訓練が終わった……あれ?

「ねぇ、セトルリは一緒じゃなかったっけ?」

「お、いかん。忘れてた」


 この日、朝からひたすら走り続けさせられたセトルリの胎内では、マイクロマシンが全力で身体を作り替え始めていた。


 そう、マイクロマシンにとってセトルリは同志なのだ。

 出町尚子を崇める同志として、セトルリを新世代の魔法使いに……って、マイクロマシンってそーゆーもんなん? そんなに私情で人のこと改造してるん? って言うかマイクロマシンの意思ってなんなん?

 まぁいいや。


 この夜、セトルリは身体中がひたすら痛くてたまらなかった。本人は筋肉痛だと思っていた様だが、彼女の身体は確実に人外レベルの性能へと書き換えられて行っていた。

 わずか一晩で、クラスのみんなに並ぶぐらいの化け物へと……

 魔物が人質を人質として使うことは、まぁないでしょう。

 でも、魔物と人が、適当に点在する状況はありそうですよね。早く助けないと食べられちゃうっ!


 それではまた、お会いいたしましょう。

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