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天使のかけら

 北海道京極町の魔物災害は、自衛隊の魔物討伐作戦として最大の殉職者を出してしまった。


 死者十四名。重軽症者十八名。

 作戦参加人数は四十四名だったため、部隊としてはほぼ壊滅だ。

 百里からの魔法使いの救援が間に合わなければ、魔法使いを含む全ての人員を失っていた可能性が高い。

 この時、作戦に参加していた魔法使い二人と、後から合流した聖女のケアも重要事項とされた。


        ♦︎


「響ちゃん、もういいの?」

 百里の対策室に出てきた響に、美智子が声をかけた。

「まぁ、殉職されてしまった方々には申し訳ないですけど、あれ以上速く辿り着くことは無理でした。わたしが間に合わなくて人が亡くなることには……もう、慣れちゃいました」

 響の表情が抜けている。正直良くない状態だ。

 このまま帰らせてカウンセリングの先生を呼ぶか……そんなことを考えているところに、スクランブルが出る。

『ビー、ビー、ビー。スクランブル。スクランブル。北海道、石狩湾にて大量の飛行する魔物が確認された……』

 大量の飛行する魔物……若狭湾のワイバーンを思い出す。

「わたし、行けますよ? わたしは大丈夫ですから。F-3飛ばしてください」


 こんな状態の響を出動させたくなかった。しかし、もしも若狭湾の再現ならば、響以外に対応できる存在は、無い。


「それにしても、また北海道だなんて……」

 美智子は天を恨みながら出動手順を進めていく。

 理沙は今日はお休みだ。指揮には美智子が飛び、基地側の管制は通いの担当官が担当する。


 ふと気がついた時にはもう響は室内にいなかった。アラートハンガーへと向かったのだろう。

 すぐに、F-3戦闘機のエンジン音が響いてきた。


        ♦︎


 桜井小梅(さくらいこうめ)はスライドドアを開放したUH-2(ユーツー)に乗り、石狩湾へと向かっていた。

 航空自衛隊千歳基地からのスクランブルで上がった戦闘機四機は、もう攻撃を開始している頃だろう。

 ただ、魔物の数は限りなく多いと連絡が来ている。戦闘機一機が落とせる魔物なんて、どんなに頑張っても十頭かそこらだ。四機で全て落としても四十頭。まだまだ足りない。

 ワイバーンであれば小梅のファイヤーボールの威力を落としても撃墜できる。魔力無くなるまで撃てば二十頭やそこらは落とせるだろう。

 しかし、それでも間に合わない。

 つい数日前のホワイトランドベアと言い、想定外の魔物出現が急に多くなってきている気がした。


「間も無く見えてくると思います!」

 操縦士の言葉に目を凝らす。

 小梅の超センス(ハイパーセンス)では、まだこの距離だと何もわからない。

 遥か彼方に、薄い雲のような何かが見えてきた気がした。


        ♦︎


 今日の行き先は日本海側だ。離陸したF-3はサクッと本州を横断し、日本海上空を音速で駆け抜けてゆく。

『今日も減速なしで構いません。高度30,000ftで放り出してください』

『でも、響ちゃん、規則では……』

『また間に合わなくなるかもしれないから、だから……急いで……』


 しかし、どんなに急いでも800kmという距離が近くなるわけでは無い。

 到着まで、どんなに急いでもあと二十分はかかる……


        ♦︎


「石狩の魔は……ヨゥっ!」

 ワイバーンが翅を焼かれて落ちてゆく。

 翅にダメージを与えれば良いので、ファイヤーボールの威力は相当抑えたまま攻撃ができた。


 しかし、四頭目を落としたところでUH-2(ユーツー)へとワイバーンの敵意が向いた。

 と言っても、速度は圧倒的にヘリコプターの方が速い。まっすぐ逃げれば魔物は全くついてこられない。

 ただし、これだと攻撃もできない。

 追いつかれないよう逃げる速度を調節しながら、着いてくるワイバーンを狙えないか試してみる。

「うー、テールローター壊しそうで無理か……」

 空自の戦闘機はもう、ミサイルを撃ち尽くして帰っていった。

 陸自のヘリコプターも飛んできて機銃掃射をしているが、なかなか落とせないでいるようだ。

 そんな時に、天使がやってきた。


 白く輝く流れ星。そんな星から、さらにいくつもの星が飛び出し、魔物がバタバタと落ち始めた。


『千歳対策UH-2(ユーツー)、百里沢井です。そちらに桜井さんは乗ってますか?』

『百里沢井さんっ! 桜井です! ここにいます!』

『良かった、無事だった! 後ろについてるの片付けます。お待ちをっ!』


 空を舞う天使から、また白い光が伸びてゆき、小梅の乗ったヘリコプターを追いかけるワイバーンがバラバラと落ちていった。


『おそらくこれで追いかけてきてるのはいなくなったと思います。ではわたしは大きい方の群れ、叩いてきます。また後ほど。エンド』


 一瞬UH-2(ユーツー)の真横、大きく開いたドアの隣を飛んでいた天使が、くるりとロールしながら一気に下降して行った。


        ♦︎

「良かった……間に合った……今日は誰も傷ついてない……」

 響は自分でも気がつかないうちに涙を流していた。

 しかし意識はしっかりとワイバーンの群れに焦点を当てている。

 かなり減らしたつもりだが、まだ四百頭以上のワイバーンが飛んでいた。これだと、総数は前回の若狭湾を超える数だっただろう。

 出来れば前回のように一網打尽にしたいところだが、石狩湾には大量の風力発電装置が設置されている。Non-Mass魔法を使えば大きな被害が出てしまうだろう。

 前回と違い原発を狙われたりする心配はないので、地道に一頭ずつ落としていくか……。

 どうすれば効率よく叩けるか……同時に多数を狙えないか……同時に弾丸を発射出来ないか……何か手段は……


 響の超センスは飛んでいる全ての敵性体をマーク。自らの周りに電子雲の銃身(バレル)を多数展開、それぞれ別々の目標の未来位置に向け、弾体を保持、そして……


        ♦︎


 天使が爆発したのかと思った。

 天使から飛び出した白い光の奔流。それはそのまま魔物の群れへと伸びていた。

 その光は次々と向きを変えながら魔物の群れを舐めてゆく。


 わずか十秒ほどで光の本流は消え、魔物の群れも消えていた。

 今、最後のワイバーンが海面に激突して行った。


 くるっと振り返った天使が、すーっと小梅の乗ったヘリコプターに近づき、スライドドアから入ってきた。

「桜井さん、ご無事ですか?」

「天s……沢井さん……助かりました」

「他のメンバーの方も被害はなかったでしょうか?」

「ええ、天使さm……沢井さんの救援が早かったおかげで一機も欠けることなく」

「良かった……これからも、最速で駆けつけますから、だから絶対に無理せずに……」

 くてっ……と響が座り込んだ。


        ♦︎

 

 この日、石狩湾に湧いたワイバーンは、七百頭を超えていた。

 うち六百二十頭は響のレールガンにより撃墜されている。


 前回のホワイトランドベアの惨劇とも合わせて、各魔法使いの戦力向上、および安全性向上のために、実働魔法使いへのコミコミパックインストールが承認され、最優先での配備が進められることになった。

 だからネーミングセンスっ!


 響の姉達のネーミングセンスは基本絶望的です。

 ただ、響たちも人のこと言えないので、きっと魔法使いってのはそーゆー生き物なんでしょう。

 だから、小梅さんもたぶん……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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