天使のかけら
北海道京極町の魔物災害は、自衛隊の魔物討伐作戦として最大の殉職者を出してしまった。
死者十四名。重軽症者十八名。
作戦参加人数は四十四名だったため、部隊としてはほぼ壊滅だ。
百里からの魔法使いの救援が間に合わなければ、魔法使いを含む全ての人員を失っていた可能性が高い。
この時、作戦に参加していた魔法使い二人と、後から合流した聖女のケアも重要事項とされた。
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「響ちゃん、もういいの?」
百里の対策室に出てきた響に、美智子が声をかけた。
「まぁ、殉職されてしまった方々には申し訳ないですけど、あれ以上速く辿り着くことは無理でした。わたしが間に合わなくて人が亡くなることには……もう、慣れちゃいました」
響の表情が抜けている。正直良くない状態だ。
このまま帰らせてカウンセリングの先生を呼ぶか……そんなことを考えているところに、スクランブルが出る。
『ビー、ビー、ビー。スクランブル。スクランブル。北海道、石狩湾にて大量の飛行する魔物が確認された……』
大量の飛行する魔物……若狭湾のワイバーンを思い出す。
「わたし、行けますよ? わたしは大丈夫ですから。F-3飛ばしてください」
こんな状態の響を出動させたくなかった。しかし、もしも若狭湾の再現ならば、響以外に対応できる存在は、無い。
「それにしても、また北海道だなんて……」
美智子は天を恨みながら出動手順を進めていく。
理沙は今日はお休みだ。指揮には美智子が飛び、基地側の管制は通いの担当官が担当する。
ふと気がついた時にはもう響は室内にいなかった。アラートハンガーへと向かったのだろう。
すぐに、F-3戦闘機のエンジン音が響いてきた。
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桜井小梅はスライドドアを開放したUH-2に乗り、石狩湾へと向かっていた。
航空自衛隊千歳基地からのスクランブルで上がった戦闘機四機は、もう攻撃を開始している頃だろう。
ただ、魔物の数は限りなく多いと連絡が来ている。戦闘機一機が落とせる魔物なんて、どんなに頑張っても十頭かそこらだ。四機で全て落としても四十頭。まだまだ足りない。
ワイバーンであれば小梅のファイヤーボールの威力を落としても撃墜できる。魔力無くなるまで撃てば二十頭やそこらは落とせるだろう。
しかし、それでも間に合わない。
つい数日前のホワイトランドベアと言い、想定外の魔物出現が急に多くなってきている気がした。
「間も無く見えてくると思います!」
操縦士の言葉に目を凝らす。
小梅の超センスでは、まだこの距離だと何もわからない。
遥か彼方に、薄い雲のような何かが見えてきた気がした。
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今日の行き先は日本海側だ。離陸したF-3はサクッと本州を横断し、日本海上空を音速で駆け抜けてゆく。
『今日も減速なしで構いません。高度30,000ftで放り出してください』
『でも、響ちゃん、規則では……』
『また間に合わなくなるかもしれないから、だから……急いで……』
しかし、どんなに急いでも800kmという距離が近くなるわけでは無い。
到着まで、どんなに急いでもあと二十分はかかる……
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「石狩の魔は……ヨゥっ!」
ワイバーンが翅を焼かれて落ちてゆく。
翅にダメージを与えれば良いので、ファイヤーボールの威力は相当抑えたまま攻撃ができた。
しかし、四頭目を落としたところでUH-2へとワイバーンの敵意が向いた。
と言っても、速度は圧倒的にヘリコプターの方が速い。まっすぐ逃げれば魔物は全くついてこられない。
ただし、これだと攻撃もできない。
追いつかれないよう逃げる速度を調節しながら、着いてくるワイバーンを狙えないか試してみる。
「うー、テールローター壊しそうで無理か……」
空自の戦闘機はもう、ミサイルを撃ち尽くして帰っていった。
陸自のヘリコプターも飛んできて機銃掃射をしているが、なかなか落とせないでいるようだ。
そんな時に、天使がやってきた。
白く輝く流れ星。そんな星から、さらにいくつもの星が飛び出し、魔物がバタバタと落ち始めた。
『千歳対策UH-2、百里沢井です。そちらに桜井さんは乗ってますか?』
『百里沢井さんっ! 桜井です! ここにいます!』
『良かった、無事だった! 後ろについてるの片付けます。お待ちをっ!』
空を舞う天使から、また白い光が伸びてゆき、小梅の乗ったヘリコプターを追いかけるワイバーンがバラバラと落ちていった。
『おそらくこれで追いかけてきてるのはいなくなったと思います。ではわたしは大きい方の群れ、叩いてきます。また後ほど。エンド』
一瞬UH-2の真横、大きく開いたドアの隣を飛んでいた天使が、くるりとロールしながら一気に下降して行った。
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「良かった……間に合った……今日は誰も傷ついてない……」
響は自分でも気がつかないうちに涙を流していた。
しかし意識はしっかりとワイバーンの群れに焦点を当てている。
かなり減らしたつもりだが、まだ四百頭以上のワイバーンが飛んでいた。これだと、総数は前回の若狭湾を超える数だっただろう。
出来れば前回のように一網打尽にしたいところだが、石狩湾には大量の風力発電装置が設置されている。Non-Mass魔法を使えば大きな被害が出てしまうだろう。
前回と違い原発を狙われたりする心配はないので、地道に一頭ずつ落としていくか……。
どうすれば効率よく叩けるか……同時に多数を狙えないか……同時に弾丸を発射出来ないか……何か手段は……
響の超センスは飛んでいる全ての敵性体をマーク。自らの周りに電子雲の銃身を多数展開、それぞれ別々の目標の未来位置に向け、弾体を保持、そして……
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天使が爆発したのかと思った。
天使から飛び出した白い光の奔流。それはそのまま魔物の群れへと伸びていた。
その光は次々と向きを変えながら魔物の群れを舐めてゆく。
わずか十秒ほどで光の本流は消え、魔物の群れも消えていた。
今、最後のワイバーンが海面に激突して行った。
くるっと振り返った天使が、すーっと小梅の乗ったヘリコプターに近づき、スライドドアから入ってきた。
「桜井さん、ご無事ですか?」
「天s……沢井さん……助かりました」
「他のメンバーの方も被害はなかったでしょうか?」
「ええ、天使さm……沢井さんの救援が早かったおかげで一機も欠けることなく」
「良かった……これからも、最速で駆けつけますから、だから絶対に無理せずに……」
くてっ……と響が座り込んだ。
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この日、石狩湾に湧いたワイバーンは、七百頭を超えていた。
うち六百二十頭は響のレールガンにより撃墜されている。
前回のホワイトランドベアの惨劇とも合わせて、各魔法使いの戦力向上、および安全性向上のために、実働魔法使いへのコミコミパックインストールが承認され、最優先での配備が進められることになった。
だからネーミングセンスっ!
響の姉達のネーミングセンスは基本絶望的です。
ただ、響たちも人のこと言えないので、きっと魔法使いってのはそーゆー生き物なんでしょう。
だから、小梅さんもたぶん……
それではまた、お会いいたしましょう。




