期末試験
もうすぐ梅雨が明ける。
空梅雨だったため、地域によっては夏の水不足も予想されているが、茨城県はまぁ、大丈夫らしい。
利根川水系上流部は何度かまとまった雨が降ったため、貯水量にはかなり余裕が有ると報道されていた。
梅雨が明けた頃には期末試験がやってくる。高校に入ってから、初めての試験だ。
と言っても、魔法使いにとってペーパー試験とかイージーモードすぎてお話にならないが。
「いや、そんなこと言ってないで教えてください……」
セトルリさん、魔法使いになって日が浅いため、勉強の方向性で困ってるらしい。
「丸暗記も、慣れが必要だもんね。良いよ、一緒にやろ」
脳の性能が桁違いに向上しても、使い方がわからなければ宝の持ち腐れだ。
暗記するだけでもコツは必要なのだ。
ちなみに、たぬきとうさやが試験の時にスムーズに勉強出来たのは、普段から響に勉強習っていたのが、功を奏しただけだ。
理沙美智子は帝大院卒とか、元の出来が違いすぎる? のかな?
まぁ、多分優秀だったんでしょ。多分。
麻紀さんは本当に優秀な人ね。
めぐみさんもそこそこ出来るはず。お嬢様系大学出だけど、おバカに人気アナは務まらん。と思う。
というわけで、放課後の百里基地でみんなでお勉強。お前ら対策室のUH-2、完全に足代わりにしてやがるな。
対策室は狭すぎるので、基地食堂を借りて勉強始めた六人。良いのかそれ? とも思うが、まぁ基地のみんなに可愛がられてるから良いのかね。
食堂にはパートのおば様とかいらっしゃったりする。
となるともう、可愛がられ方も激しくなり、なんか色々おつまみとかもらったりしつつ……
「あ、あれ? わかる……読める、読めるぞぉ!」
なんかセトルリが覚醒したらしい。
英文法の勉強中に突然怪しい人になった。
「ハハッ! 見ろ、アルファベットがゴミの様だ、ハハハッ」
ああ、数分後に『目がぁ! 目がぁっ!』とかなりそうなフラグが見えてるんだけど。
ナオナオの二人は、黙々とシャーペンを走らせている。真面目だ。
尚子は三菱のお高いシャープペンシル、クルクル回って尖りながらもノックもしなくて良いやつだ。
直美はどこで売ってるんだかわからない、おさかな型の使いづらそうなシャープペンシル。
たぬきはステッドラー、うさやはモンブラン!
そして響は鉛筆使いだった。
「目がぁっ! 目がぁっ!」
いや、セトルリ何やった?
みんな何もアクションしてないのに、何で一人突然……響みたいに目からビームでも撃とうとした?
……マスカラ剥がれて目に入っただけだった。
セトルリの地雷ファッションは健在だ。
赤銀メッシュのツインテールも、まだ元気にぶら下がってる。小波師匠がメッチャ切りたそうにしていたが、響が必死に止めてくれたから。
響は小波さんに切られて以来、ずっと肩につかない程度のボブ。
うさやは肩甲骨半ばまでの茶髪を、だいたいクリップ一個で巻いてることが多い。
たぬきは肩甲骨下までのストレート黒髪。放置してるのにこの髪はチートだよね。
尚子もショート黒髪なんだけど、ボリューム感が響ほどは無い感じ。
直美ちゃんは黒髪の天パ系癖っ毛ショート。長いと釣りする時邪魔だから……らしい。突き抜けてるな。
試験勉強の時とか、ついつい他のことばっかり描写しちゃったり、あるあるだよね。
事細かにお部屋の片付けを実況しちゃったりさ。
そんなこんなで一時間ほど、セトルリをみんなで可愛がる。
『ビー、ビー、ビー、スクラクブル発令。スクランブル発令。対策室案件。鹿児島県奄美大島に大型魔物出現。マジックキャリアコンテナ出撃用意……』
放送が入る。
「あっちゃ、行ってくるね。マジコン出るから見学は無しかな」
「気をつけてね」
「行てらっ」
うさたぬに声をかけられ、ぶんぶん腕を振り回していってらっしゃいアピールをするセトルリに手を振りかえし、ナオナオに笑顔で答えて飛び出していく。
「ふえー、行っちゃったねぇ」
まだブンブン手を振っているセトルリがポツリと言った。
「すぐ上がると思うから、駐機場までお見送り行こっか」
職員登録されているうさやとたぬきは慣れたもんだ。食堂の皆さんに挨拶しながら表に出た。
コンクリート打ちっぱなしのエプロンは、灼熱地獄だ。全員、響に習ったエアコン魔法で体温を維持……維持……
「あっつっ! 何これあっつ! みんな良く平気だね」
セトルリさん、まだ習ってなかったのか……
滑走路にはスクランブルのサイレンが鳴り響いている。
珍しく茨城空港の民間旅客機が動こうとしているが、今しばらく出発を待たされるだろう。
「あ、出てきたよ」
エプロンのカゲロウの向こう、アラートハンガーからF-3戦闘機が出てきた。お腹が大きく膨れているのは、響の乗っているマジコンがぶら下がっているからだろう。
戦闘機はそのまま止まらずに、滑走路へと進入し、一気に空へと舞い上がっていった。
「いってらっしゃーい」
セトルリブンブンが始まったが、響の乗ってる場所からは多分見えてない。
「どうしよ。対策室行ったほうがいいかな?」
「だね、食堂撤収させてもらおう」
食堂に戻り、おばさまやら隊員さんやらにお礼を言った上で、荷物をまとめて対策室へと向かう。
そこそこ距離あるけど、慣れた道だ。えっちらおっちら歩きながら会話を続けた。
「奄美ってあの、奄美大島?」
「アマミノクロウサギの奄美でしょ」
「あの飛行機でどのぐらい時間かかるのかなぁ」
セトルリとうさやの会話。うさやさん、うさぎの話には敏感なのかな?
そこに尚子が入ってきた。
「この間、マジコンで沖縄までが一時間二十分って言ってたよ。響」
「うわぁ、あの中で一時間半も過ごすのかぁ。トイレなんて無いよね?」
「無いね、あれには」
「ヒビキの大変さ、わかってるつもりだったけど、まだまだなんだなぁ。あたしも」
「ま、みんなでカバーしてこ。理沙さーん、美智子さーん」
対策室に到着。ドアを開けていきなり入る」
「いらっしゃい。今の見てた?」
理沙がいるという事は、V-280で後追いしたのは美智子か。
「はい、エプロンから見送りました」
うさやさんが代表して会話していく。
「奄美大島でなんか大きいのが出たみたい。那覇と新田原からも上がったらしいけど、どうもまた数も多いらしくてね。今は詳細まち。連絡来たらここも忙しくなるわよ」
「あ、じゃあ、わたくし達ここにいたら、お邪魔になっちゃいますか?」
「あ、良いわよ。見学しといて。忙しいって言っても、管制は空自でやってもらうしね。っと、データ来たわね」
卓上のモニタに情報が映し出され始める。
「場所は奄美大島の北部、大きな湾の縁ね。って巨大うさぎ?」
うさやがピクッと動いた。
「数は百以上、体高2mを超えるうさぎの群が街を襲ってるって」
奄美大島にも陸上自衛隊の駐屯地はあるが、普通科は少数しか配置されていない。百を超える大型魔獣相手は難しいだろう。
同じデータはV-280で響を追う、美智子の手元端末にも転送されている。
「ま、響ちゃんなら上手くやってくれるでしょ」
理沙の響への信頼度が高すぎる。
「ただ、ちょっとだけいろんな場所に被害が出る程度で」
いや、微妙だったわ。
「今の所、響ちゃんにしか出来ないことだからね。将来的には、県内ならみんなにも似たようなことはお願いすることになるかもしれないけど……」
ちらり……と少女達に目をやり、少し目を伏せる。
こんな少女達を送り出すのは、心が痛む。
しかし、彼女達に頼らなければ国を……国民を守れないかもしれない。
「あ、あなた達の帰りなんだけどさ、わたしはちょっと席外せなくなっちゃったわね。どうしよう……基地司令にお願いしようかしら」
「あ、基地司令が送ってくださるなら、家から人を呼びますので」
哀れなロリコン基地司令だ。悪いロリコンじゃ無いんだが……だが……うさやが正しい。
この日は、響がうさぎを殲滅するところまで見学したあたりで、うさやのお母さま、恋歌さんが基地まで迎えに来てくれた。
基地の宿舎に下宿している直美とはここでバイバイだ。直美はそのまま対策室で響を待つらしい。
恋歌さんの運転で茨城町にセトルリを送り、そのまま水戸に尚子を送り届ける。
たぬきはずっと一緒に回ってくれた。小さい頃からの親友は、いつも一緒にいてくれる。
「でさぁ、うさや。セトルリの勉強、大丈夫だと思う?」
「大丈夫でしょ。あの子、確かに学力が高かったわけじゃ無いけど、バカでは無いもの。あ、でも莫迦だけど」
「あー、莫迦なのは魔法使いのデフォルト仕様だから良いよね」
「そうだねぇ。響とか……たぬきとかね」
くすくすと笑いながらたぬきのおでこを突っつく。
「むぅ。うさやだって中々なもんだと思うけどなぁ。ギャル化だってさ、普通あっちに転ぶかぁ?」
「なに? ギャルうさ懐かしいの? またやろっか?」
ギャルだった時っぽい『ニシシっ』って笑い方をしてみた。
「まぁね。あれも今もどっちもみんなのうさやだしね。たまには?」
「じゃ、今度またやったげるよ。たまにはね」
そんなこんなで、たぬきの家に。
「じゃ、また明日ね。セトルリの勉強はもう少し見てあげよ。ナオナオは問題なさそうだし、試験終わったらまたみんなで遊ぼっか」
「だぁね。恋歌さん、ありがとうございました。助かりました」
「たぬきちゃん、また遊び来てね。紗理奈も喜ぶし」
「はい、また行きますね。じゃ、おやすみなさい」
「たぬき、また明日ねー」
翌週、期末試験は全員無事に好成績で終えることができた。
セトルリは人生最強レベルの成績だったらしい。ちなみに、学年の一位から三位は、響、うさや、たぬきで独占した。
セトルリはみんなの嫁です。
なので、みんなに愛されみんなに守られ、みんなにいじられ……割と可哀想かも知れない……
それではまた、お会いいたしましょう。




