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たぬきの純愛……偏愛

 二週間ぶりの学校だ。

 

 吉野くんはリハビリが済むまで部活動を禁じられていた。

 ただ、そのリハビリが異様な進捗度を見せている。

 粉砕骨折していた右脚も、すでにスクワットができるほどに回復している。

 陥没していた頭の傷も、見るも無惨だった顔の傷も、注意して見てもわからないレベルまで消えていた。

 残念ながら刈り取った髪の毛はまだ伸びてこないので、頭部を隠す頭巾はつけているが、それだけだ。


 しかし、まだ完全に治ったわけでは無い。

 骨と骨の接合部や損傷した筋肉等は、まだまだマイクロマシンが組織同士を繋げていたりする。

 ただ、それももう数週間で完全に繋がるだろう。もっとも、人間の体組織よりもより高強度のものに置き換わっている可能性はあるが。

 

 本来なら命が助かったとしても、一生物の障害が残る筈だった。

 三浦めぐみの回復魔法とは、それだけ凄まじい効力を発揮する魔法なのだ。


「よぅ、吉野。もう歩けるのか?」

 クラスの友人が声をかけてくる。

「まだまだビッコ引いてるけどな。元通りに走れるようになるには、何週間かかかるってさ」

「でも、走れる様になるんだな? いや、サッカー部の奴らが偉く心配してたんだわ。ただ、サッカー部そのものが今は謹慎中だけどな」

「謹慎中?」

「サッカー部の二年の先輩に、犯人グループの一人がいたからさ。ま、不祥事ってやつだな」

「俺のせいで……申し訳ないな。あとでみんなに謝って回らないと」


 吉野くん、いい子なのよ。ほんとに。

 たぬきさえ絡まなければ本当に良い子。というかたぬきが絡むともっといい子なんだけど、方向性を間違えている気がする。


 昼休み。お弁当を食べてから、机に手をついてゆっくりと屈伸を続ける吉野くん。

 その教室に、たぬきが顔を出した。

「あの、吉野くん、いらっしゃいますか?」

「ん? おーい、吉野ー」

「あ?」

 振り向いた吉野くん。

「あ……ああっ! た、樽木さんっ!」

「吉野くん、今日から学校だって聞いたから……」

 結局、吉野くんの意識が戻ってからはお見舞いに行っていなかったたぬきさんであった。

「あの、俺寝てる間にお見舞いきてくれたって聞いて、あの……ありがとう、樽木さん」

「んーん。良いの。わたしだけじゃなくて、みんな行ってたんだよ? 響とかうさやとかも」

「ん、あとで宇佐美や沢井にもお礼言いに行ってくるわ。けど、聞いた時本当に嬉しかった。ありがとう。樽木さん」


 見事にたぬきだけさん付けなのな。

 響もうさやも呼び捨てなのにな。


「じゃ、リハビリ頑張ってね。応援してるから。また、パーティやろうね」

 フォォォォオオオオ!

 吉野くんのやる気が上がった。気合いが入った。リハビリに全力を尽くすことを心に誓った。そして、もっともっとすごい選手になれる事を祈った。


 吉野くん、治療のために大量のマイクロマシンを投与されていた。

 そして、めぐみさんの魔法で体の中を相当いじられている。

 特に今回損傷した箇所は、かなりガッツリとマイクロマシンの活動に適した形に変えられてしまっていた。


 女性の場合、子宮がメインのマイクロマシン製造工場になる。

 これが男性になるとどうなるか。

 前立腺小室。前立腺は性分化する前は子宮の元になる部分だ。そこには小さな空間がある。

 今回、吉野くんは前立腺も破裂するほどの大怪我を負っていた。そして、そこはマイクロマシンによって丁寧に修復されている。丁寧に丁寧に、彼ら自身が増殖しやすくなるように……


 このことにより、女性と比べれば微々たるものだが、男性としては異常なレベルのマイクロマシン濃度に晒されることになる。


 元々素質は有ったのだろう。以前からフィールドでは『後ろに目が有る』とか『鷹の目』とか言われるほど、周囲の状況が『視えている』選手だった。

 はるか後方の味方からの縦パスに、蹴った瞬間を見ていなくても反応できる。なんなら落ちる場所もわかる。世界のトッププレーヤー並みの感覚を持った高校生。


 そんな選手がさらにすごい選手になることを願ってしまった。


『魔法使いは公式スポーツには出られない』

 そんなルールができているが、それはあくまでも女子スポーツに限られたルールだ。

 だって、男性魔法使いなんて世界中探しても、一人もいない。いないことになっている。

 吉野くんだって自分が魔法使いになったなんて思っていない。実際に、国の基準でも魔法使いとは見做されない。能動的に魔法が使える人間しか魔法使い認定されていないため、法律上でも魔法使いでは無い。


 吉野くんは、今までも出来ていたことが、少しだけ上手くできる様になっただけ……である。

 響たちの超センス(ハイパーセンス)の超劣化版。そんな感じのパッシブ魔法が吉野くんの中で蠢き始めた。


 翌週には、軽いランニングができる様になった。サッカー部の謹慎はまだ解けていないが、リハビリで走ることを止められるわけでは無い。

 学校外周を走っていると、襲撃を受けた場所へと通りかかる。

 フラッシュバックでも有るかと思ったが、特に何の感慨もなく通り過ぎることができた。

 左手側は野球グラウンドだ。野球部がノック練習をしているらしい。高校野球独特の、金属バットのカキーンという音が響いてくる。

 

 走りながら目を瞑り、意識を集中する。

 足元や前も見えなくなるが、何故か怖く無い。

 野球のボールが高く上がっていくのが、何となくわかる。

 (あ、あれは捕れないな……)

 そんなことまで感じてしまう。

 しかし、違和感はなかった。元々出来ていた様な気もしてきた。

 (よし、だんだん勘を取り戻してきたぜ)

 ぐらいのこと思っちゃったりしている。


 更に次の週。とうとうサッカー部の謹慎処分が解けた。お医者様の許可も取れたので、いよいよ今日から練習に参加する。

 ダッシュ・ストップ・ターンで、今までと比べて随分体のキレが良くなった気がしてきた。切り返しが明らかに早い。

 リフティングは、目を瞑ったままでも十回以上続けられる。

 トラップからのドリブルへの入りも、ほぼノーウエイトで移行できている。


 (なんかめちゃくちゃ調子良いっ! これはあれだっ! 女神の応援のおかげだっ!)


 吉野くんがサッカー部の練習に復帰すると聞いて、普段は全くグラウンドに顔を出さないたぬきがやってきていた。

 と言うか、六組全員で来ているのだが吉野くんの目には、当然たぬきしか映っていなかった。


 いや、超センスっぽいのまで何となく使ってんでしょ? なんで他の人に気づかないのよ。


 たぬきの……樽木さんの応援を受けて大ハッスルした吉野くんは、チームの皆が驚くほどの成長を見せて、今日の練習を終えた。


 それを見ていたたぬきさん、お祝いに『吉野くんが襲撃者六人を次々と襲う』陵辱ものを一本描きあげ、皆に良識を疑われた。


 うん、それは無いわ……

 たぬきの本読み慣れてる響やうさやですらドン引きしてるわ!

「たぬき、前に『甘々純愛大事』言ってたべ?」

「だって、吉野くん襲ったやつのお尻とか、デストロイするに決まってるし!」

 

 これがたぬきの愛……普通の人ならノーサンキューだぞ、それ……

 みなさん、吉野くんに同情してあげてくださいませ……


 めっちゃ愛されてる気はするんですが……ですが……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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