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逮捕

 茨城県警石岡警察署。小美玉市を管轄する警察署である。


『少年が暴漢に襲われた』との110番通報があり、現場である県立中央高校脇の道路に駆けつけた。

 通報したのはたまたま通りかかった近所の住人だ。

 警察と消防の両方にきちんと通報してくれたため、救急車もすぐに到着した。

 襲われた少年は意識不明の重体。持ち物からすぐ隣の県立中央高校の生徒だと判明した。


 被害者の状態、及び現場で発見された凶器と見られる鉄パイプと金属バットにより、殺人未遂事件として非常線が張られた。だが、その日の捜査では犯人逮捕には至らなかった。

 通報した男性の車両についていたドライブレコーダーから、犯人グループが六人以上であること、原動機付自転車四台に分乗して逃走したこと、原付のナンバーや一部犯人の顔も判明した。


 原付は全て盗難車であることが判明、映っていた犯人の顔は二人分。この二人は中央高校の生徒ではないことがわかった。


 翌朝、刑事課に対し警備課からの応援人員が来た。これは極めて異例な事だったが、理由がわかれば納得ができた。

『被害者はサワイ関係者』

 これは下手をすると警備課どころか、公安が出てくる可能性もある。

 

 警備課はサワイ班を動員し、刑事課の捜査に協力を開始した。


 校内での聞き取り調査が始まった。

 被害者の女性関係を洗っていると、被害者への恋慕を募らせている生徒が非常に多いことが判明した。


「こりゃ痴情のもつれかねぇ」

 刑事課のベテラン刑事がそう呟いた。

「その割には、被害者が女性と関係を持っていたって話が、一切出てこないんすよね……」

 少し年若い刑事が手帳を見ながら答えていく。

「好きな娘はいるみたいなんですが、その娘からはまだ話が聞けてません。今日は登校してすぐにまた帰った様です」

「あからさまに怪しいじゃねーか。居場所は掴めてるか?」

「自宅から親戚の家経由で、更に出かけたとか。この娘がサワイチルドレンだそうで、警備課が張り付いてくれてます」

「それを先に言えよ」


 警備課の人たちも響で慣らされているせいで、多少たぬきが飛んだところで、見失ったりはしない。


「犯人グループは沿道の防犯カメラから、石岡市内方面へ向かったのが確認できました。ただ、石岡郵便局から先の足取りは掴めてません」

 新しい情報が入ってきた。

 石岡郵便局はそこそこの街中だ。と言うか、この警察署から歩いて行ける距離だ。

 そのあたりで足取りが途絶えたとなると、この近辺に潜んでいる可能性もある。


 ピリリリリリリリリ、ピリリリリリリリリ、ピリリリリリリリリ

「はい、石岡警察署刑事課……はい、は、はいっ?」

「ん? どうした?」

「警部、お電話です」

「どこから?」

「内閣情報調査室異世界生物対策委員会百里分駐所対策室……だそうです」

 

        ♦︎


「おっけ。響ちゃん、マークできたね?」

「はい、容疑者のあの先輩は、あとはどこに行ってもわかる様になりました」

 響の魔法は特別製だ。マジックオペレーティングシステムを使う魔法使いも増えてきたが、その中でも世界で唯一響だけが使える魔法、スクロール魔法さん。

 そのあまりの能力に、使っている本人も翻弄されまくっていたりするアレだ。


 今回は『すれ違っただけの人でも、どんどんデータベースに書き込んでいく』機能を使っている。

 街中ですれ違っただけでもデータベースに載るのだ。これが同じ学校の生徒だったりした日には、名前も住所も電話番号も、赤裸々の元に判ってしまうわけで。


「今は石岡市内の……これは何かの工場かな? そんな場所にいますね。周りにはあと三人」

 響の超センス(ハイパーセンス)は文字通り桁が違う。見える範囲の外であっても、マイクロマシンが活動さえしていれば状況が視えてしまう。

 普通の人間では脳のキャパシティを超える情報量が流れ込んでくるが、意識の他次元展開という荒技で余裕を持って監視作業をしていた。

「響ちゃん、そこの住所わかるかな?」

「マップと重ねればすぐに。石岡市府中一丁目の……」

 こうして情報が次々と集まってくる。

「三人にもマークできました。あと二人、来るかなぁ?」

「まぁ、これでタレ込んでおきましょうかね。四人捕まれば、あとは芋蔓で引っ張ってくれるでしょ」


        ♦︎


 刑事課の覆面パトカーと警備課の覆面パトカーが、廃業した自動車修理工場を取り囲んだ。

 工場にはシャッターが閉まっており、通用口も鍵がかかっている。

 裏口側にも刑事が回り込み、これでもう誰一人としてここから抜け出せなくなった筈だ。


 ドンドンドン


 刑事がドアを叩く。

「石岡警察です。誰かいませんか?」

 ドンドンドン

「石岡警察です。捜索差し押さえ許可状に基づき、家宅捜索を行います。捜査に伴い家屋の損壊が発生することがあります。捜索、開始します」

 隣の刑事に軽く頷くと、後ろから解錠工具を持った捜査員が現れた。


 と、二階の窓が開き、そこから屋根に登ろうとする少年が出てきた。

 二機の警察用マルチコプタードローンが上げられ、即座に拘束用ワイヤが少年に向かって投射された。


 続いて、工場の中からオートバイのエンジン音が聞こえてきた。シャッターをガラッと開け、原付で飛び出そうとしたところで、警察車両にぶつかって取り押えられる。

 開いたシャッターから警察官が雪崩れ込み、残った二人が確保されるのもすぐであった。


 捕まった四人はすぐに署へと連行され、尋問を受ける。

 未だ逃走中の二人の身元はその日のうちに判明し、翌日までに六人全員が逮捕された。


 最後に捕まった二人は犯行を否認していたが、遺留品に残った指紋、カメラに残った映像等から彼らも犯行に関わっていたことは明らかだと見られている。

 犯行を認めた四人も殺意は否認していた。

 しかし、鉄パイプや金属バットで頭部を直接狙うなど、誰が見ても殺しに行っている様にしか見えないだろう。

 裁判ではその辺りが焦点になるだろうか。


 ただの傷害事件なのか、殺人未遂なのか、それによって刑罰は大きく変わってくる。

 また、犯人の中に十八歳を越えているものもいたため、そちらは特定少年として扱われる。


        ♦︎


「吉野くん、犯人全員捕まったよ」

 事件から十日が過ぎた。

 吉野くんのバイタルは安定し、まだ意識が戻らないこと以外はほぼ回復してきている。

 そのため、いつも不足しているICUを出されて、一般病棟の一人部屋へと移されていた。

 学校帰り、一人でお見舞いに来たたぬきさん、ベッド脇の椅子に腰掛け、吉野くんへと話しかけていた。

 吉野くんは包帯もほぼ取れた。

 検査と治療のために剃られた髪の毛が痛々しいが、その下の頭皮の傷は綺麗に消え、禿げることなく再び発毛も始まっている。

 魔法による治療が、どれだけ非常識なのかが目で見てわかる。


「めぐみさんの魔法で、身体は完璧に戻ってる筈だって……響が言ってたから間違いないと思うよ。だから目が覚めたら、またサッカーしようね。今度は応援行くからね」

 たぬきに……詠美に応援とかされたら、暴走して空回りしないかね。この少年は。

 小学生時代から脇目も振らず、ずっと追い求めた女の子。


「そういえば、サッカーの応援なんて、小学生以来かもしれないね」

 たぬきが腐り始めた時期と一致するかな?


「また、来るからね。それじゃ……」

 たぬきさん、立ち上がるとそっとベッドに近づき身体を屈めた……


 吉野くんが意識を取り戻したのは、その日の晩だった。

 茨城県警、頼りになります!

 きちんとお仕事してくれました!


 見つけたのは響じゃねーか! とか言わないでくださいませね。

 あと、吉野くん、おめでとう⁉︎


 それではまた、お会いいたしましょう。

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