国家試験
魔法使いが空を飛び始めた。
空を飛ぶには資格が必要だ。
色々と魔法使い向けの法整備も進んできているが、それでもまだまだ不便な部分も残っている。
一年六組の生徒は、全員マイヘルメットを持っている。新規加入のセトルリの分ももう出来上がって持たされていた。
このヘルメット、空を飛ぶ時には必ず装備しないとならないことは変わっていない。
そして、ヘルメットには複数の無線機が装備されていた。
その中には、今ではもうほとんど使われることがなくなっている、電波式の無線機も入っている。
電波法。電波を出すあらゆる設備、人員が守らなければならない法律。
違反すると、屋根の上にアンテナつけた、怖い自動車がやってくる。総務省からやってくる。
「というわけで、全員に航空無線通信士の資格を取ってもらいます。沢井さん、宇佐美さん、樽木さんはもう取得済みですので、あとの三人の面倒を見てあげてください」
文香先生が本当に柔らかい先生になっている。厳しいけど、柔らかくて……みんな大好き文香先生って感じの良い雰囲気でまとまってきた。
「じゃ、瀬戸さんの面倒は沢井さんにお願いするわ。まだ頭の使い方に慣れてない分、沢井さんのサポートが突き刺さりやすいだろうし」
更にうさやが直美に、たぬきが尚子についてテキストを開き出した。
響もセトルリの頭をポンポンしながら隣に座る。
「って、ポンポンすなー! 惚れてまうやろ」
いや、あんたもう惚れてるでしょ? 全員に。
「はいはい、じゃ、最初から行こうか。まずは無線工学。まぁ、そんな難しくはないから安心して」
「えーと……次の記述は図に示す抵抗Rおよび容量リアクタンスXcからなる交流回路について述べた物である……って、何語っ⁉︎」
「うーん……日本語だね。じゃ、一つずつ説明していくから……」
普通の女子高生は授業で直流回路は習うが、交流回路なんて読み解いたりしない。
更にこのあと高周波回路も待っているのだ。
『直流三年交流五年、泣く子も黙る高周波』
回路設計やってたりすると時々出てくる言葉だ。
けどまぁ、無線従事者の資格ならノイズ周りの処理とか設計するわけでもないし……
「いや、ムズイって。ヒビキこれ理解出来てるの?」
「出来てないとわたし、出撃出来ないよ?」
「すげぇ。たぬきもうさやも資格持ってるんでしょ? あたしの旦那はみんな優秀すぎんか?」
「セトルリもできるようになるよ。割とすぐに。じゃ、まずは覚え方ね。こう、目を瞑って意識を子宮のあたりに……」
なんかもう、参考書とか過去問とか関係ない部分から始まったが、まぁ、魔法使いだから仕方ない。
一時間もするとセトルリ節が流れ始める。
「フォォォオオオ、わかる、わかるぞっ! フハハハハハ、これならば我の合格も間近であろう!」
そんなことをしている間にも、尚子と直美は着々と勉強を進めていっていた。
「うん、さすがたぬき。特別図解がわかりやす過ぎる!」
たぬきの画力はとても高い。図解を描いてもとても分かり易く、電気の流れ、電波の流れ、そして利用まで一目で理解できる優れものを次々と描き上げていく。
「直美もこれ見てごらん」
うさやに説明を受けている直美にも声をかけた。
不思議な全能ダンスを踊っているセトルリと響は、とりあえず放っておく。あとで気がつくだろ。多分。
ナオナオの二人は魔法使いの強みをいかし、『とりあえず丸暗記』でいくことにした。実際に運用するときには丸暗記では済まないのだが、その時でも暗記内容をフィードバックできればスムーズに実務を行える様になるだろう。
全能ダンスを踊りきったセトルリと響は、なんか社交ダンスを踊り出している。いや、なんだよお前ら。勉強してるんじゃなかったんか? ほんと意味わかんないわ。
試験の申し込みは、もう三人分終わっている。試験日は八月の終わりに、二日かけて行われる。
そのため、夏休みの間はしばらくこの勉強に追われることになるだろう。
「ハァハァ、二曲踊るとへとへとだね。ヒビキがピンピンしてるのがすごすぎる」
「うーん、セトルリももう少し習志野通わないとかなぁ。先週教えたエアコン魔法も使えるようになったよね?」
「なったけど、なったけどさぁ。習志野って、駆け足?」
「そ、駆け足。あと腕立てと穴掘りと、小波さんとの訓練かな?」
「どれもキッツイのばっかり……」
「身を守るためだよ。大丈夫。たぬきですら最近は軽々やってるから」
元々は運動苦手なたぬきさんだった。
期末試験も終わり、もう夏休みを待つだけの時期ではあるが、魔法使いとそのたまご達には休みはない。
勉強しつつ、訓練しつつ、魔物退治にも出かけないとならない。
響以外のみんなも、いつ実戦に出ることになるかわからない。
まずは簡単な討伐任務からだとは思うが、実戦は実戦だ。
「けど、まずは国家試験に向けての勉強ですが? 響も遊んでないでセトルリに教えてあげてって」
「あー、そうだった。ダンスの時間じゃなかった」
いや、ほんとに忘れてたのかよ!
良いからしっかり教えてあげて。セトルリ、これで結構繊細だったりするんだから。心折れるの早いんだから。
「じゃ、一冊覚えるごとにご褒美として尚子のハグとクンカクンカ権を……」
やめんかっ!
「……やる……あたし、頑張るっ!」
お、おう……尚子の承認は取れてるの?
「そのぐらい、わたしのセトルリのためならいくらでも……」
あー、そうだったわ。尚子はそーだったわ。
こうやって、三人とも日々実力をつけ、来月末の試験に向けて努力を続けるのであった。
業務で無線を使う……それも空の上で……となると、これ取らないとなんですが、電波法そのものを変えてくれませんかねぇ。麻紀さんとめぐみさんに期待しますか。
それではまた、お会いいたしましょう。




