尚子の健康診断
帝国大学医学部附属病院。
響の主治医のいる病院であり、魔法使いの生理に関しては世界最高峰レベルの研究機関でもある。
ここに今日、響のクラスメイトがやってきていた。
魔法使いの癖に帝大病院は初めての尚子さん、キョロキョロドキドキしています。
もっとも、付き添いに響と理沙がついているので安心はしているのですが。
マイクロマシンに感染している人間は、とにかく検査が大変だ。マイクロマシン持ちのために、超高性能の超音波診断装置が開発された。しかし、それでもMRIなどの高精度画像診断が主流の現在、解像度が低い超音波画像診断は医師を悩ませた。
血液検査をしても、コンタミが……マイクロマシンがウヨウヨしているのでこれまた診断難しい。
しかしここは帝大病院。必ずや尚子の悩みを解決してくれるであろう。
「はい、出町尚子さんですね。生年月日をお願いします」
検査が始まり、採血、採尿、全身の超音波診断。
本人の同意も得られたので体組織採取や、カテーテルカメラまで使われて、血管の中まで撮影された。
「それにしても……凄い魔力だね……サワイチルドレンの中ではナンバーツーじゃないかな? 響ちゃん並とか、普通はあり得ない数字だから」
やはり物凄い量のマイクロマシンが体内にいるらしい。
「で、体内の状況もほぼ響ちゃん並……と言うかね、出町さんの生殖器官、子宮とか卵巣だね。この辺りがほぼマイクロマシンの工場に置き換わっちゃってますね」
ん? どう言うことだ?
「それで……子供ができにくい体質になってしまっているかと思われます」
画像と生検の結果をモニターに映し出しながら、担当の医師が説明を続けた。
「この超音波画像の黒いところ、これが通称『半導体組織』と呼ばれている部分になります。通常の魔法使いでは、子宮や卵巣のうち、二割程度がこの組織になっている事が多いんですが……」
表示されている画像の子宮、卵巣付近はほぼ真っ黒だった。
「卵母細胞はきちんと残っていますので、卵子が排出さえされれば体外受精と人工子宮により子をなすことができるとは思いますが、自然妊娠は難しいでしょう」
子供ができないかもしれない。そんな話を聞いていても、尚子はあまりショックを受けたりはしていなかった。
未だに男性全般が苦手なため、恋をし、結婚し、子供を産む事を考えるのも辛いのだ。
なら、子供なくてもいいか? とか思ってしまう。
子供そのものは割と好きなのだが、その前の過程を考えると、やはり恐怖を感じる。
「あれ? じゃ、もしかして響も?」
「あー、うん、わたしも自然出産は難しいって言われてるよ。まぁ、最悪旦那に産んで貰えば!」
いや何言ってんのアンタはっ!
だいたいこのお話、レーティング的には全年齢 (推奨R15) なんだから少し黙ってなさい。
「それで、あの、ラクトンの放出はどうなのでしょうか?」
尚子的にはそちらの方が重要だった。
この体臭を抑えることができるのかどうか。
この匂いを好きだと言ってくれる友達ができた。むしろ嗅がせたい人たちがいる。
けど、不便なことには違いがないのだ。隠密行動とか絶対無理だし。匂いで負けるかくれんぼとか、正直女の子としては恥ずかしすぎる。
「ああ、そちらはですね……マイクロマシンの制御をできませんか?」
「マイクロマシンの制御?」
「そう、魔力の制御と言い換えてもいいんですが……って、響ちゃん、魔力制御とか教えてない?」
魔力制御。
体内で丹田から魔力を巡らせていき、全身に行き渡らせる。全ての魔力を自分の支配下に置き、魔法をコントロールする。
小さい頃の響は日常的にやっていた。
しかし、今の響は魔法に馴染みすぎたために、逆に何もしなくなっていたため、すっかり忘れていた。
「あー、そうかぁ。アレ効くんですかぁ」
「いや、効くかどうかわからんけど、やってみる価値はあるでしょ? 響ちゃん、あれで魔法の威力抑えること覚えたんでしょ?」
今のあの響の威力でも、抑えることを覚えたあとらしい……
「尚子、それじゃ今度魔力制御の練習もしてみようか。あ、クラスのみんなも一緒にやってもらおう。みんなで上手くなろうね」
って、尚子泣いてるし。
クール系痩身長身美少女の涙とか、なかなか見られなくない?
あー、響にヨシヨシされてる。響だから簡単にできてるけど、これが文香ちゃんとかだと頭まで手が届かないかもしれない。
理沙さんも暖かい目で微笑んでくれている。
担当医の先生はチラチラ横目で見ながらカルテを打ち込んでいた。
看護師さんは……バリバリ働いてるな。人数もギリギリらしいし。
今日はここまで。詳しい検査結果は後日また聞きにいくことになる。
今日の行き帰りは理沙さんの運転で、百里基地から借りてきた業務車一号だ。正直乗り心地の微妙な後部座席に乗り、シートベルトをした上で響の肩に頭を乗せてウルウルしているのが尚子。クールさのかけらも無いけど綺麗です。
それをルームミラーで眺めつつ、理沙さんの運転で基地に帰る。
基地に着いたら響はそのまま基地待機。理沙は水戸の自宅まで尚子を送っていく。
「尚子ちゃん、どうだった? 少しは気が晴れた?」
「ありがとうございます。理沙さん。響が、響がね、もういい人過ぎてどうしたらいいのか……」
「響ちゃんはね、本当にいい子なのよ。ただ、世界で一人だけ別次元の魔法を扱えるがために、わたしらもいいように使っちゃってるのよね。あんないい子を」
「決めた、わたしは響のナイトになります!」
いやちょっと待てーっ!
こないだ、セトルリを嫁にしてなかったか?
『したよ? それが何か?』
したよ? じゃねーっ!
それに、響にはすでに旦那が!
『同性婚とか認められてないから、重婚にもなんない! 響に二人目の旦那ができようが、わたしに二人目の嫁ができようが、法的にはただの友人っ!』
お、おう……まぁ、せいぜいレーティング変わらない様に気をつけてくれよな?
『当たり前だっぺ? かわいい嫁に手を出したりするわけ無い!』
「ナレーションとの会話終わった?」
「は、はい。納得してもらいました。もう大丈夫です」
いや、大丈夫なのか? いいけどさ……
「じゃ、また明日、学校終わったら基地に寄ってね。UH-2送っとくから」
「はい、わかりました。かわいい嫁たちと伺います」
もういいよ。知らんわ。
♦︎
翌日から魔力制御の訓練が始まった。
自分の中に魔力を感じ、丹田……子宮から卵巣、両の乳房と回してきて再び丹田へ。ぐるぐると魔力を巡らせ、そして全身に広がっていく力の源を感じてゆく。
武道を齧っている人ならわかる感覚。
こうして身体と魔力……マイクロマシンを馴染ませていく。
数週間の訓練により、全員の魔法使用時の精度が目で見てわかるほど向上した。
そして、尚子の体臭は少しだけ薄くなった。
教室に入った瞬間に感じるのではなく、近くに立って気にするとフワッと香るぐらいに。
「うー、尚子ぉ、今までより破壊力上がってるよこれ……何かの拍子にフワッと感じる尚子、あたしもうだめ……好きにして……」
とうとうセトルリが壊れた。
尚子さん、美少女レベルでは実は作中で一、二を争う娘だったりします。
もっとも、こーゆー世界観なんであんまり意味はないですけどねぇ。
それではまた、お会いいたしましょう。




