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響、たまには無双してるところを書かれる

 宮城県石巻市。

 三陸のリアス式海岸沿いに猿型の魔物が蠢いていた。

 猿型と言っても、大きさはマウンテンゴリラよりも大きく、また素早い。腕はテナガザルの様に長く、尾も長い。それらの魔物たちが、海岸線の岸壁を器用に走り抜けていく。

 沖の漁船が発見した猿の群れは、レーザー灯台経由で通報され、松島基地からすぐさまスクランブル機が飛んできた。


 しかし、岸壁を高速移動する目標に対して有効な攻撃手段がない。

 地元の魔法使いでも対応は難しいとなると、応援要請が対策室へと飛び、響が出動した。


 通報から三十分で響が到着。今日は担当官と同じV-280(バーロー)で飛んできた様だ。


「あー、いますね。じゃ、行ってきます」

 V-280(バーロー)の扉から飛び降りた響は、まっすぐ猿に向かって飛んでいく。


『美智子さん、響です。割りと敏捷高いので、ちょっと接近戦でやってきますね』

『響ちゃん、美智子了解。気をつけてね。安全第一だからね』

『はいっ』


 更に高度を落としつつ、見える範囲の猿たちにマークをつける。

 高速で動き回る敵の場合は、ビリビリは割と外すことがある。

 もっとも、多少外しても行動能力は奪えるケースも多いのだが、ギャンブルする必要はないだろう。


 狙い撃つにも速い相手には速い弾を送り込みたい。

 貴重なリアス式海岸を壊さず高速弾を扱うために5.56mmのアルミニウム弾を選択した。


 初速12km/s。普段の1.5倍もの速度で撃ち出されたアルミニウムは、瞬間的に沸点近くまで加熱される。

 煮えたぎるアルミニウムが数頭の猿の頭を撃ち抜き、猿は崖から落下していった。


「さぁて、やっちゃいましょうっ!」

 響から視えている猿は、残り七十匹。

 響は猿の群れの中へと飛び込んでいきながら、ビームなセイバーを展開した。


 いくら響が剣道の修行を積んできていても、普段は飛びながら戦うことなんてまず無い。

 しかし響はできる娘だ。きちんと学習してきていた。

 こんなこともあろうかと、宇宙世紀なアニメを見まくってきたのだ。

 宇宙で戦うロボッ……人型兵器が沢山出てくる、ヒューマンドラマのやつだ。

 今年、七十五周年アニバーサリーの新作が公開されていたりするのが凄い。


「させるかぁっ!」

 ざんっ!

「当たらなければどうということはないっ!」

 フッ

「遅いっ!」

 ズバンっ!

「堕ちろカトンボっ!」

 ピシュンピシュンピシュンッ!


 あれよあれよというまに、猿の群れを一掃してしまった。

 今回はあれだよ? 響の無双シーンでこう、タイトル回収したりする予定だったのよ?

 なんで映えないかなぁ。この娘は。

 どうにも残念感が付きまとう。今のだって魅せ方を知ってる人なら、もっとカッコよくできたろうに……


『響ちゃん、松島基地まで行ってもらえる? そこで回収します』

『響了解です。松島に向かいます」


 松島基地はここからすぐ東に有る航空自衛隊の基地だ。

 ブルーインパルスが所属している基地としても名が知られている。


 短距離離着陸モードで松島に降りたV-280(バーロー)に、響が駆け寄った。

「美智子さん美智子さん、また原発のそばだったんですけど、なんで寄ってくるかとかわかりましたか?」

「まだよくわからないの。これだけ重なると、流石に偶然とは言えないよね」

 今回は東北電力女川原子力発電所の、すぐ近くに魔物が出現した。


「原子力発電所が狙われるとか外部に流れたら、反原発の方々の活性が一気に上がりそうね」

 電波が使えなくなったことにより、輸出入にかかるコストが暴騰した。

 そのため、天然ガスや原油の価格が猛烈に上昇し、電力は原子力発電による供給が主になってきている。

 火力発電所も動いてはいるが、需要変動のピーク時のみバンバン燃やして、普段は炉が冷えないようにする程度の使い方になっている。

 全個体電池の発達により、原子力発電による夜間電力問題もほぼ解決。

 間も無く実用化されるだろう核融合発電所が本格稼働するまでは原子力発電に頼らざる負えないのだ。


「うーん……」

 答えにつまりながら超センスの解像度を上げ、網を広げていく響。

「んっ? 美智子さん、未確認の魔物です。すごく小さいけど、これ魔物だ……あっちの方! 15kmぐらい先!」

「魔物? 場所わかる?」

「わかります。何か大きなコンビナートのあるとこです!」

「先行で飛んでもらえるかしら? V-280(こ れ)上げたらすぐ追うわ」

「はい、いってきます!」

 響はヘルメットのレーザー通信機に手をやると、離陸許可を得ていく。

『松島タワー、マジカル響ヘリパッドNo.ワン、リクエストエマージェンシーデパーチャー』

『響、松島タワー。クリアードフォーテイクオフ』

『ありがとうございます!』

 美智子に向かって敬礼した上でヘリパッドまでジャンプ。そこから地面を蹴って宙に上がった。


「こちらも急ぎます! すぐに上げてください。行き先はおそらく新仙台火力発電所方面。響ちゃんの指揮を取ります」

 美智子も即座にV-280(バーロー)に乗り込み、離陸に備えた。


 松島基地を飛び立った響は、高度を上げながら対象を探っていく。

 (なんだろ……ネズミ? 大きさは野良猫より小さいのが八匹かな?)

 ネズミ程度のサイズの魔物は、あまり見つかっていない。

 これだけ小さいと、魔物と思われずにスルーされている生物もいそうである。


 すぐに、前方に大きな石油タンクが見え始めた。

 魔物の気配は石油タンクの下部。ゲートバルブ付近か。

 そんな場所に大技の魔法を撃ちこむことは出来ない。

 タンクに近づきながら、拡声魔法で放送を流し始めた。

『こちらは異世界生物対策委員会です。石油タンク下部に魔物が出現しました。付近の方は避難をしてください。繰り返します、こちらは異世界生物対策委員会です……』


 しかし、川口での事件と違い、人々が避難をしない。

 職務中であること、魔物が小さく目立たないために危機感が薄いことなどあると思うが、正直邪魔だ。


『美智子さん、響です。避難誘導には応じてもらえなさそうです。魔物は全長20cm以下のものが八匹。タンク真下のバルブ付近の鉄を齧ってるっぽいです』

『響ちゃん、魔物狙えそう?』

『美智子さん、響です。外からマークしたんですが、ビリビリ流して良いでしょうか? 静電気御法度だったりしません?』

『あー……そっか。近くまでは行けそうかな?』

『やってみます』


 高度を落とし、タンク周りに張り巡らされている配管をくぐる。

 辺りはさらに細かい骨組みや配管で視界があまり良くない。

「さて、どうやって倒そうかな……威力抑えて一匹ずつ。レールガンだと強すぎるから、ストーンバレット?」

 石を風で加速して撃ち出す魔法だ。まぁ、空気銃だね。


『美智子さん、居ました。見える範囲に三匹。まずこれからやっちゃいますね?』

『響ちゃん了解。状況開始してください』

『はい、響状況開始します』


 よーく狙って……

『パシュっ』

 あー、空気銃っぽいわ。擬音が。相変わらず力が抜ける発動ワードだけど。

『パシュっパシュっ』

 三匹駆除できた。あと四匹。パイプの向こう側にいるのはわかっているが、射線が取れない。


 他に周辺施設へ脅威を与えない攻撃方法……

「毒魔法なんて無いしなぁ。バリア巡らせたら配管ブッチしそうだし。お湯? 電気機器壊しても怒られるかなぁ。なら……あ、酸素抜いてみようかな」

 見えている範囲の前方の空気から酸素を取り除き、減ったぶんは背後の空気の窒素と置き換えていく。

 マイクロマシンが実際にどう動いているのか。

 マイクロマシンが取り込んだ空気を、次元関門を通しつつ酸素と窒素に分離。もう一つ作った次元関門との間で分子の入れ替えを行い元に戻す。

 実質、分子のテレポート現象を起こしている。

 もっとも次元関門の向こう側に生物が入ると即死することが判明しているので、人間のテレポートに使うことはできない。


「お、動きが鈍ってきてるかな? 倒せそう……倒せたっぽいかな。しばらくこのままほっとこう……」

 魔物周辺の雰囲気を窒素で埋め尽くしたままホールド。美智子に報告を入れる。

『美智子さん、倒せたっぽいです。おそらく窒息させたと思います。人が入る前に換気しますので、調査の部隊来るまでこのままにしておきますね』

『響ちゃんお疲れ様。さすがね。じゃ、わたしも降りていくからちょっと待っててね』

 美智子も空を飛ぶことができるようになっている。あまり上手ではないが、ホバリングしている機体から飛び降りる訓練は繰り返してきたので問題はない。


 幅が広くて取り扱いしづらいV-280(バーロー)は百里に返し、この近くに降りられるUH-2(ユーツー)に来てもらうよう依頼をかけた。


「さて、後片付けね。にしても、良くあんな小さいの見つけられるね。響ちゃん凄いわ」

 褒められてテレテレしてる響は可愛い。


 このあと、このコンビナートの方々への説明もしないとならないし、魔物のお片付けもしないとならない。近所の駐屯地から人が来るまでに説明だけでも済ませとこう。

 基地に戻ったら、響ちゃんが沢山頑張ったことを、みんなに説明しなきゃね。


 こうして、響の無双は今ひとつ華がないまま終わった。

 けど、ほんとに無双なのよ。他の人たちじゃこうはいかない。世界一の魔法使いは沢井響なのだ。

 たまには響のかっこいいとこを……


 ほ、ほら、強いしっ!


 それではまた、お会いいたしましょう。

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