セトルリの苦難……苦難ばかりだな
セトルリ……瀬戸瑠璃は一部男子に絶大な人気を誇っていた。
入学してわずか一ヶ月少々しか普通科にいなかったのに、その間に本当にごく一部の男子に猛烈な人気が出た。
ただ、その「一部男子」があまりにもあんまりな方々だった訳で……
「今日も瀬戸瑠璃嬢は愛らしかったでござるな」
「おお、山田氏もそう思われたかっ! あの可憐さは何者にも変え難い」
「伊達殿もそう思わんでござるか?」
「ああ、今朝の彼女は我に微笑みかけてくれたのだよ」
その一部男子の代表選手がこの三人。
山田、大門、伊達のヲタ三人組だ。
三人は普通科四組。先月までセトルリと同じクラスだったのだが、セトルリの転籍により幸せな日々が遠のき絶望……絶……ぜ……
「瀬戸瑠璃嬢の転入したクラスがまた、女神の巣窟だと思われ……」
絶望してないな。
「いや、しかしやはりあの中でも瀬戸瑠璃嬢の可憐さが一際際立っているでござるが」
あ、こんな三人でもちゃんと好みの違いはあるのね。
瀬戸瑠璃至上主義に、美人は何でも愛でるものに、美女とメカの融合こそ至高に……
だめだ。正直瀬戸瑠璃に同情したくなる。
せめて表に出さなければ良いのに……それならワンチャン……ないか。
瀬戸瑠璃が吉野くん激ラブだった事は、当然三人も知っている。
しかし吉野くんは彼らにとっては『物語の端役』なのだ。
あくまで主人公は自らと瀬戸瑠璃だった。
更に、転籍によりヒロイン追加パッケージが登場した、ラッキーとか思っちゃう奴。
そして、わざわざ新校舎まで覗きに来たりしちゃうのだ。これらが。
セトルリは、こんな地雷原なナリをしているくせに人当たりは激しくない。
何よりも目的の人物に好かれるためには、良い人感を出さなければならないと信じていたから。
だから普通科にいた時も、地雷っぽさを演出しながらも彼らと普通におしゃべりしたりできた。
主に、自分の評判を高めるために。
ファッションヤンデレだったのだ。
しかし、今は違う。今は『愛するクラスメイトに変な視線を送る奴らはデストロイ』である。
更に言えば、うさやも『わたしの旦那様方を狙う不届きものはデストロイ』だし、男に対して攻撃的な尚子も『全員デストロイ』だし、直美も『学級委員長としてデストロイ』だし
『いいえ、違います』
へ? あれ?
『学級委員長じゃありません』
え? だって見た目……
『学級委員長は見た目では決まりませんし、このクラスに学級委員長はいません』
そんなぁ。せっかくの黒髪メガネが……
『学級委員長風な見た目で苦労した人間に対する冒涜です。ヲタ三銃士と共にナレーションもデストロイです』
ごめんなさい、お願いだからやめてください……
そして矢田先生。
『大事な大事なわたしの魔法少女達。それにちょっかい出すとか当然デストロイ』
お、おう……教育者として、他のクラスの生徒をデストロイして良いのか? って話が……
『だいたいね、教師であるわたしにまで邪な目を向けてくる段階で、純愛でも何でもないしデストロイ』
いや、それは最近の矢田先生があんまりにもエッチいから仕方ないっちゃ仕方ない気もするんですが……
二ヶ月前までは普通の小柄なベテラン先生 (ただしおっきい) だったんですけどねぇ。
これではファッションなヤンデレではなく、みんな合わせてファッショなヤンデレ集団である。
というわけで、気が休まらない日々。
そんな日の昼休み。
『ピンポーン……緊急、緊急、緊急。一年六組沢井響さん、至急百里基地へ。緊急、緊急、緊急、一年六組沢井響さん、至急百里基地へ』
響出動だ。
響はここ三日間、毎日出動がかかっている。
響が出動するとなると、自衛隊や他の魔法使いでは手に負えないということだ。となると、大体は難しい敵となるわけで。
「先行で行ってくる。見学可能なら基地から文香ちゃんに連絡行くと思うから」
響が飛び出していく。
文香先生じゃなくて文香ちゃんとか言っちゃってるあたり、文香先生の変わりようがよくわかるな。
今はまだお弁当食べ終わって、お弁当箱も片付けてないタイミングだ。
教室には文香先生はいない。多分職員室だろう。
まだ食事を食べ終わってないセトルリが、慌ててご飯を飲み込んで目を白黒させ始めた。
手持ちのお茶を……あ、お茶が切れた。
洗面所まで行ってお水を飲もうとクラスを飛び出したところに、ヲタ三銃士が立っていた。
正直、このタイミングはきつかった。表面だけは寛大ぶりっ子なセトルリでもきつかった。
スクランブル、喉のご飯、呼吸の辛さ、三銃士の存在……色々辛くなって、叫びたくなって、でもメンヘラぶりっ子の仮面を脱ぎ切れなくて……
むせ返った。
「ぶほっ!」
可愛らしいお口から、ご飯が飛び出した。
そして、三銃士のお顔へ飛んでいった……
セトルリは心で泣いた。号泣した。なぜこんな奴らにこんな辱めを受けなければならないのか……
心で泣きながら洗面所まで走り、そして本当に涙を流し始めた。
三銃士は心で泣いた。号泣した。なぜこんなご褒美が突然いただけるのか……
心で泣きながら三人でアイコンタクトをし、セトルリが駆け抜けていった方へと走り始めた。
『せ、瀬戸嬢!』
いきなり背後から気味の悪い声のかけられ方をしたセトルリ、反射的に習ったばかりのビリビリを弾けさせる。
まだ的確に心臓を止めに行ったりは出来ないが、身体に電撃を走らせるぐらいはできるようになっている。
そう、三銃士はその場で激しい電撃を受け……恍惚とした表情を……
「ああ、これが恋に落ちた瞬間なのかっ!」
そんな表情を……
セトルリは逃げた。走って逃げた。ちょっと風魔法でアクセラレーションまでして逃げた。この技術、初めて使いこなせたかもしれない。
そのまま教室に飛び込み、一番近くにいたぬきの胸に飛び込んで泣き始めた。
怖かった。本当に怖かった。
「どしたセトルリ。大丈夫? 怖かった? うん、みんなで守るから平気だよ。ほら、怖くない怖くない、トントントントン」
背中をトントンされ、少しずつ落ち着いてきたが、それでも廊下に出たらアレが出そうで恐ろしい。
「わたしたちみんながついてるから大丈夫。トントントントン」
他のみんなも集まってきて頭を撫でたり抱きついたり、みんなでセトルリを慰めて。
この日、セトルリは全員の嫁になった。
そして、セトルリの旦那達は、すべての災厄からセトルリを守る事を決意するのだった。
いや、なんだよこのクラス。誰か相関図作ってくれよ……もう訳わかんないし……
ちなみに響の出動は熊本県、阿蘇の山中。戦車も入れない山間部に、ゾウさんの群れがパオーンしていた。魔物なので並の象の五倍ぐらい重そうな奴らだった。メチャクチャ暴れてたので、サクッと退治してきた。
遠すぎたので見学は無し。マジコンに乗って行ったものの、帰りはV-280だったため、帰宅したら夜八時過ぎになっていた。
セトルリに抱きつかれて号泣された、たぬきのブラウス。
メイクがくっついて真っ赤になってたらしいです。
それではまた、お会いいたしましょう。




