飛行訓練
「空を飛ぶだけなら、そんなに難しくないんですよ」
響が言った。
そんなわけで、全員空を飛ぶための訓練を受け始めることになった。
ただ、まずは安全対策から。
そう、空挺さんお得意の五点接地訓練から。
今日も団長自らが出てきて教えてくれることになった。
「そうそう、そこでこう、力を逃しながら太もも、お尻、背中へ、そうそう、うまいよっ」
なかなかに褒め上手だ。
響はもちろん、ここを遊び場にしていたうさやとたぬき、元空自の理沙や指揮官としてヘリコプターで飛びまくってる美智子もこの訓練は終わっている。
というわけで、今コロリンしているのは尚子直美セトルリと麻紀さんめぐみさん。
講師には長田団長と小波師匠。
長田団長は優しい。
まぁ、こんな可愛い子と美人さん集めてきたらそうなるか。なんかやらかしたら、そこらの|女性自衛官《W A C》に睨まれるし
そして、小波師匠は……うん、いつも通りだな。
ああ、麻紀さんが5ft台からぶん投げられてるわ。首相令嬢なんだぜ、あの人。
ここで充分にコロリン訓練を行った後、実際に宙に浮く訓練を行う。
「空をとぶだけなら、本当に難しくないんです。理沙さん美智子さんはほら、ステータス・オープン覚えた時に転倒制御とか落下制御の訓練したじゃないですか。あれの延長です」
響はそのまま、轟々と音を立て始め空中に数メートル浮かび上がる。
地面は土のため、土埃が舞い広がった。
そのまま、ふっと音が止まり、響が落下して静止する。
「今わたしがやったのが一番簡単な飛行魔法ですね。もう単純に、地面に向けて風魔法を叩きつけたものです。これなら、慣れればここにいる全員ができるようになると思います」
普段響が飛ぶ時は、風の音もほとんどしないし、あたりに風が巻いたりもしない。
「風で空飛ぶ方法って、もう一つあるのわかりますか?」
響が問うてきた。
みんなハテナマークを顔に浮かべて響の方を見ている。
「さっきのはヘリコプターとかと同じ方法ですね。じゃ、もう一つの方やってみますね」
再び轟々と音が鳴り響き、響も地上から離れたが、地面からの土埃は大したことがない。
ただ、響の状態は酷いことになっている。
髪の毛は全て空に吹き上げられ、スカートは完全にひっくり返ってパンツ丸見えちゃんだ。
薄いブルーの横ストライプ……って、マジマジ見んなっ! これでもヒロインなんだからっ!
再びストンっと地面に降り立ち、髪の毛に手櫛を通す。
「わかりました? 帆船型の飛行ですね。風に押されて飛んでいるの」
最初の飛行は吹き下ろし、今の飛行は吹き上げによるものかっ!
「じゃ、これをバランス良く同時にやってみましょうか」
ものすごい騒音と共に響が浮き上がるが、見た目は響が普段飛んでいる時と変わらない。
髪の毛も落ち着いているしスカートも捲れ上がらない。地面だって埃は舞い上がらない。ただただ、うるさい。先ほどの比ではないぐらいうるさい。
ストン
「とまぁ、上と下の風をうまいことぶつければ、風の被害を減らすことができるんです」
簡単に言うがめちゃくちゃ大変じゃね?
間に圧力高い空気の塊できるよね? それは圧力の低いところを目指して弾けていくよね? その風はどこいくの?
「今のはとにかく色々風で抑えてました。さて、あとはこの音です。音ってどうして聞こえて来ます?」
「いや、そりゃ空気が振動してるからでしょ?」
理沙が普通に答えた。
「ぴんぽーん、大正解です」
いや、当たり前だろ。
「じゃ、空気を振動させなきゃ良いんですよね。でも、風同士をぶつけ合えばどう頑張ったって振動します。ならば次点として、振動を外に伝えなければ良いんです」
また全員置き去りだ。いいかげん解るように話してくれ……
「と言うわけで、音源の外側を真空にします」
フッと響が宙に浮いた。いつも通り、比較的静かにその場に浮かんでいる。
よくよく見れば、髪の毛もスカートもそよそよと動いている。
「この状態で浮いている時は、その方向だけ空気の通路を作ってやってます。ここまでが、わたしが浮く原理です。ただ、流石にこれは難しすぎると思いますので、まずは風で浮いてみるところから試してみましょう」
皆が一斉に試し始めたなか、真っ先に宙に浮いたのは小波師匠であった。
「お、良いなこれ」
宙に浮いた小波さんが右へ左へと動き回る。
姿勢を変える時にパスパスと音が聞こえてくるが、これはあれか。姿勢制御スラスタの音だ!
普段から格闘戦などでも風魔法で腕の振りなどを補助している小波さんだ。あっという間にコツを掴み、徐々に速度や高度を上げつつ動き回る。
二人目は尚子。出町尚子。
尚子はとにかくマイクロマシン濃度が高い娘だ。なんせ、響とどっこいどっこいだと言うのだから驚きだ。
三番目に宙に浮いたのは、驚くなかれ文香先生であった。
文香先生、ここに来てさらに若さが増し、ますますロリ巨乳に拍車がかかり始めた。
ロリ巨乳が空を飛ぶとか、何その全年齢で放送しづらそうな絵面は。
魔法自体に不慣れで苦戦しているセトルリを除き、全員が浮かべるようになるまでに三時間ばかりかかった。
小波さんはもう、すっかり使いこなしている様で、どんどん高度と範囲を広げていく。
ついには習志野名物、空挺降下訓練塔の上にまで上がり始めた。
「ただ、みなさんご存知の通り、魔法は既存の物理法則を超えられるものじゃありません。したがって、制御に失敗したら普通に墜落します」
響が高度上げたところから、普通に墜落するように落下してくる。
実際に落下するわけではなく、寸前で空気の塊を地面に叩きつけ、それをクッションにしてふわりと降り立った。
「それを防ぐための技術を伝授していきます」
実はこれは風魔法ではなく、ウインドショットという攻撃魔法の一種らしい。
直美……森河直美が入学前から覚えていた魔法の一つだ。
「これも撃ち出す時、位置や向きがわからなければ何の意味もありませんから、常に自分の姿勢、位置、運動方向がわかるようにするための技術も必要です」
地面はどちらの方向か。今のまま進むといつ地面と衝突するのか。
「ステータス・オープン魔法の表示タブを開くと、中にコンソールの表示という項目があります。それをオンにしてみてください」
全員の視界に、航空機のヘッドアップディスプレイの様な表示が投影された。
「慣れれば視界内に投影なんてしなくても、感覚でこの表示内容が全てわかる様になりますけど、しばらくは表示したままやってみましょう。まぁ、超センスのデータを視界に再投影してるようなもんらしいです」
対気速度、対地速度、高度、方位、上昇率下降率、ロールレートにヨーレート。本当に航空機の計器のようだ。
「あとは安全に配慮しながら実際に飛びまくりましょうか。なんならライジャケ着て海でやればもっと安全にできるでしょうしね」
水の上なら墜落時の安全性がグッと上がるだろう。
「さらに速度が上げられるようになると、また新しい技術が必要になりますけど、そのあたりは順を追ってまたやりましょう。バードストライク対策のための虹色膜展開や、それの応用で虹色の翼広げて揚力を得たり舵にしたり」
こうして、日本の魔法使い達は空を飛ぶ技術を手に入れた。
流石に響の様に縦横無尽に飛び回り、航空機とのドッグファイトに勝利できるような者は他に存在しない。
しかし、空を飛ぶ魔物や巨大な魔物たちへのアプローチ方法に選択肢が生まれたのは、とても大きい。
それと、戦闘要員では無い聖女や連絡員も、空を飛び大砲をぶっ放す技術を身につけたのは、やり過ぎだったかもしれない。
とうとうみんな、空飛び始めちゃいましたよ……
これ、響の姉たちの世代では、本当に限られた人数だけしか飛べなかったんですけどねぇ。
まぁ、まだまだ荒削りすぎますけどね。
それではまた、お会いいたしましょう。




