魔法訓練
「じゃ、皆さん魔法リストを出してください」
響の声が頭に響いてくる。
東富士演習場。本州最大の陸上自衛隊演習場だ。
今日は響先生による魔法講習になる。なんせ世界一の魔法使いだし。
今日は世界中で響しか使えなかった魔法を、皆が使える様になるための第一段階。響関係魔法使い全員が集合している。
「まず、身を守るためのリフレクトマジックを説明します。この魔法は展開する大きさ、位置、向き、ベクトルの組み合わせで割と自由に張ることができます」
バンっと響の周囲をリフレクトマジックが覆い、またフッと消えた。
「ただ、慣れるまではこの演算が割と煩雑に思えるかもしれません。デフォルトで展開すると、自分の顔の向いてる方向正面に、一辺1mの六角形で一枚張られるだけになります」
再び響の前に虹色膜が現れるが、今度は一枚だけだ。
響は本当に自由に展開していく。球状に自らを包むこともあれば、虹色膜だけを使って揚力を生み出す翼を作ることもある。
この時など、響の機動に合わせてリフレクトマジックが移動していくのだ。
「人間は自分を中心にして、周囲の環境に合わせて空間認識をします。なので、飛びながら張るのも慣れればできますが……その前に、今度飛び方講習もしましょうね」
響のやってることが高度すぎて、そのまま真似する事は難しい。
「アイテムボックスは割と感覚的に使えますが、中に入ってる物を分類してお片付けするのが面倒になるかもしれません。しかし、これを怠ると『慌てた時の猫型ロボット』の様にアレじゃない、コレじゃないと大変なことになります」
劇場版の最終決戦前とかによくあるやつだ。
「レールガンは、自分の前に弾体を取り出し、保持し、狙い、撃つの四動作が必要になります。アイテムボックスから弾体を取り出して、目の前に浮かべる訓練を反復してください。どんな姿勢からでも安定して浮かべられる様になれば、あとは簡単ですから」
レールガンは初速制限と口径制限がなされている。
と言っても、5.56口径を8km/sという、オークやワイルドボアぐらいなら一撃で倒せるだけのエネルギーは確保している。威力不足で困る事はないだろう。
響の様に.50口径で5km先の飛行目標を叩き落とそうなんて、しないだろうし。
「ファイヤーボールは、周辺への影響が大きいので、できればレールガンで済ませてもらえるといいと思います。ただ、トレントとかスライムみたいにレールガンの効きが悪い魔物も多いので、魔物の特性に合わせて使ってみてください」
そんな感じで一つずつ説明をしながら、実際に魔法を発動してもらっていく。
もっとも、魔法ど素人のセトルリには難しすぎる。響では説明が感覚的すぎて全く伝わらないため、美智子がつきっきりで手取り足取り教えていく。
(美智子さんかぁ、綺麗なお姉さん……めっちゃオシャレだし、色々アドバイスとかもらえるかなぁ)
うん、あんた気が多いな! 尚子一筋じゃなかったんか?
『いや、素敵なもん素敵って言って何が悪い? 尚子はいい匂いだし、たぬきは凛々しいし、吉野くんはかっこいい。それでいいじゃない』
お、おう……たぬきが凛々しい? まぁいいや、いいから魔法覚えような?
「リフレクトマジック!」
麻紀さん頑張ってます。少しでも響の負担を減らすためなら、どんなに大変でもやり遂げる凄い大人なんです。
「麻紀さん凄いです。今のは速度も枚数も実戦で行けます!」
「やった! 響ちゃんに褒められたっ!」
「ぱぁんっ!」
たぬきのレールガンがターゲットを撃ち抜いた。
「たぬきうまいね! この距離で的に確実に当ててくのは、コツが解るまでは大変なんだよね」
「うん、なんかね、道が見えたんだよ。それに沿ってレール敷いてやったら、あたるのね」
「ファイヤーボール!」
どーんっ!
尚子のファイヤーボールが火を噴く。
なんと言っても、元々のファイヤーボール使いである。なかなか様になっている。
「って、めっちゃ威力上がってんだけどっ! 何コレ……前のわたしのファイヤーボールなんて、畳一枚燃やすのが精一杯だったし!」
一日かけて体を慣らしていく。
今後も定期的にここまで来て訓練することになるだろう。習志野じゃ、少々狭すぎるのだ。
「で、通信魔法なんですけどね、音声通信するには無線機のスピーカーとマイクを経由するみたいなんです」
「あー、じゃヘルメットもないとダメかしら……携帯端末でも大丈夫かな?」
「わたしだけなら脳内処理で大丈夫みたいなんですけどね」
通信機能も試してみたが、双方通信魔法持ちじゃないと通信できない様だ。となると、現場にはやはり魔法持ちの指揮官が出ないとならないか……
現在、内調に所属している魔法持ちなんて三人しかいない。理沙、美智子、麻紀だ。
これでこの先、魔法使いを本格的に実践配備していくためには、指揮側もステータス・オープン魔法が使える人を育てることが必須になった。
現在響の担当官は、専任の二人以外は全員男性である。となるとステータス・オープン魔法を覚えることができないため、また新たに手配しなければならず……
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「人手が足りなすぎる……」
岡田洋一は異世界生物対策委員会の委員であり、対策室の主幹であり、響担当官の一人でもある。
現在、日本全体での魔法使いの数は、四百人を超えたところだ。
この中で、実際に魔物討伐に出ているのは響含めて五人。退治数は響を除けば、十二頭倒した北海道の少女がもっとも多く、次いで五頭倒した沖縄の女性、二頭倒した九州の女性、後の二人はそれぞれ一頭ずつである。
実戦に向けて訓練中の魔法使いは百名程度。二百五十名はまだ中学生以下だ。
また、どうしても本人、または保護者の同意が取れずに、魔法使い教育が進んでいないものが数十名いた。
これからは、非魔法使いにステータス・オープン魔法を覚えてもらうケースも増えるだろう。
また、新たに魔法にたどり着く少女も増えてくるだろう。
しかし、指揮管理出来る人間はそう多くはならない。
近日中に魔法迎撃専門の組織も出来上がるはずだが、明らかに人員が足りない。
「こりゃ、自衛隊から借りてくるしかないかねぇ」
自衛隊には士官教育を受けた女性隊員も多くいる。実働魔法使いも指揮管理も女性隊員で充当できれば大変助かるが、防衛省とのすり合わせができるかどうか……
「首相にぶん投げても、官僚経由で殴り返されるだけだしなぁ」
同じフロアの他の部署には、自分の百倍ぐらい優秀そうな官僚がゴロゴロといたりする。
「ただなぁ、通信魔法と報告のあった攻撃魔法が一般化すれば、一気に魔物討伐に余裕ができるのも確かなんだよなぁ」
ただし、治安問題は発生してくるだろう。
魔法は、悪いことに使われ始めたらとてつもなく厄介な問題になる。
魔法使いを止められるのは魔法使いだけなのだ。
響あたりになると、誰も止められやしない。
もっとも、響は担当官や連絡員との関係がすこぶる良好であり、非行に走る可能性が低そうなのが救いだ。
これからも響の管理には最大限の注意を払い、日本という国を守らなければならない。
日本国の最大の脅威は、沢井響と言う少女なのだから。
いつまでも子供を前線に出してんじゃねーよ!
って、思いますよね……
早くなんとかせい! 武藤首相!
それではまた、お会いいたしましょう。




