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一年六組、再始動

「瀬戸瑠璃です。よろしくお願いします」

「と言うわけで、今日から瀬戸がこのクラスの一員となった。まだ魔法使い歴が浅いから、全員でカバーしてやってくれ」


 セトルリが六組に入った。これで一年六組は六人体制となる。


「これで出席番号も変わるからな、注意する様に」

 

 1番 宇佐美彩香(うさみさやか)

 2番 沢井響(さわいひびき)

 3番 瀬戸瑠璃(せとるり)

 4番 樽木詠美(たるきえいみ)

 5番 出町尚子(でまちなおこ)

 6番 森河直美(もりかわなおみ)


 名前順になるのでこうなった。

 机は席替えして、今まで左前から横方向だったのを、右前から前後前後へと変更した。


 (やった……尚子の隣……はぁ幸せ……)

 とか香りスンスンしてる変態もいるが、口に出さなきゃ、まぁ良いだろう。


「では、今日は瀬戸に魔法学科のカリキュラムの説明をしながら進めるため、時間割を少し変更する」

 魔法の成り立ちや魔法周りの法律、これからの魔法使いとしての生活。今まで縁のなかった魔法使いの常識に触れながら、セトルリは恍惚とした表情を浮かべていた……

「はぁ……良い香り……」

 いや、あんた何言ってんの! 口に出さなきゃ良いやとか思ってたのに……言っちゃダメじゃん! 授業に集中せんかいっ! ってか、そんなことばっかり言ってたら尚子が嫌がるかもしれんぞ? 彼女のコンプレックスだろ?


 (わたしの匂いを認めてくれた旦那様が、同じクラスに!)

 そうだった……明後日の方向で克服してたんだった……

 

 授業内容が、解ってるのか解ってないのか判らないが、授業は進んでいく。

 

「では、明日からは百里まで行って研修を行う。百里基地には様々な危険物や防衛機密が沢山有るので充分注意すること。やってはいけないこと、入ってはいけない場所、撮影禁止の場所、物、人。色々有る。基地の人の言うことを確実に守る様に」


        ♦︎


 翌日、ホームルームのあと、ヘリポートへとUH-2(ユーツー)が飛んできた。いつもの対策室の機体だ。

 

「はい、ヘリコプターへの接近方法を確認する。瀬戸!」

「はいっ! 着陸するまではダウンウォッシュに注意をし、30m圏内には入らない。着陸後は、必ず機体前方からアプローチし、頭を下げた状態で進みます」

「よろしい。ではまずは慣れた沢井から見本を見せてみろ」

「はいっ! 沢井響、搭乗します!」

 いつものヘルメットを被った響が、姿勢を低くして機体に駆け寄り、スライドドアから機内に転がり込んだ。

「ヨシ、では、あとは出席番号順に搭乗せよ」

「「「「「はいっ」」」」」

 うさや、セトルリ、たぬき、尚子、直美の順で搭乗し、最後に矢田先生が入ってスライドドアを閉めた。

「では座席についてシートベルトを締めなさい」

 全員すぐにシートベルトを締め始める。

 と言っても、初めてのセトルリは隣に座ったうさやに聞きながらとなる。


 うさやとたぬきにとっては、もう乗り慣れた乗り物だ。尚子と直美はまだ数回目なので、まだまだキョロキョロしている。

 そしてセトルリはもう、心臓バクバク、爆発しそうだ。

「全員、ベルト装着できたな? ヨシ。じゃ、お願いします、やってください」

 矢田先生の声が突然柔らかくなり、パイロットに離陸をお願いした。


 ヘリコプターは急激にエンジン音を高めると、ブワッと高度を取り始めた。

 今日の飛行指示は『お客様を乗せる様に』ではない。

 魔法使いにスクランブルが出た時の飛び方をしてもらうことになっている。

 一分一秒を争うスクランブルでは、ゆっくりあげて、ゆっくり向きを変えてなんてやっていられない。

 コレクティブレバーを引き抜かんばかりに引き上げ、ぶん回るんじゃないか? ってぐらいにラダーペダルを蹴飛ばして向きを変えていく。

 真後ろ向く直前でカウンターを当て、横転しかかる機体をサイクリックで抑え込み、百里基地に向かって最大加速で飛び始めた。

 流石にスクランブルではないので、通常のアプローチで降りていくが、それでもギリギリ怒られない最大の降下率で着陸した。


「へ、ヘリコプターって、乗ってると疲れるのね……」

 ヘリコプター初体験のセトルリの感想は、それだった。

 まだ魔法使いになって日が浅いため、身体能力なんて一般人とほとんど変わらない。戦闘機動をするヘリコプターは結構激しいGがかかるのだ。


「ではこれから降機する。搭乗と同じくヘリコプターの注意点を正しく守る様に。ふざけてたり間違えてたりすると、首が落ちるぞ。物理的に」

 実際にその手の事故は、毎年発生している。テールローターに巻き込まれれば、人間なんて紙切れと変わらない。


 矢田先生がスライドドアを開け、一人ずつ機体から降ろす。間違っても方向を見誤らない様に、行き先方向も指示する。


 降りた先には理沙と美智子がいた。

「理沙さーん、美智子さーん、今日はお願いしまーす」

 響の叫びがヘリパッドから滑走路へとこだま……しないな。広すぎて反響しないわ。

「はーい、みなさんおはようございます」

「おはようございますっ!」

 理沙が声をかけ、全員の返事が返る。良い感じだ。

「今日からここが、あなた方の研修先、仕事場になります。まずこれから基地内での注意事項の説明が有るので、基地の広報資料館へ行きます。そこで広報のお兄さんに説明を受けてください。じゃ、案内します」


 九人でゾロゾロと広報資料館に向かい、ミーティング室の席に着く。

 前の扉がガチャっと開き、入ってきたのは……


「って、何で基地司令が?」

 平空将補。百里基地の基地司令であり……

「こんなチャンスに来ないと思うか?」

 開き直った炉利混である。

 そして、彼の心にセトルリが突き刺さった。


 うん、セトルリのこの姿は、その手の方々の性癖に突き刺さるわ。

 こうして、今日一日はずっとこのグループに付きまとう基地司令と言うものが出来上がった。


「ここがアラートハンガー。他国の飛行機が領空に入ってこようとしている時や、災害が発生した時、また、遠方へ魔法使いを送り届ける時などにここから戦闘機が出動します。ここの方々の邪魔は、絶対にしない様にしてください。彼らは、スクランブルの発令から、五分以内には空に上がらなければなりません」

「こちらは整備補給隊。皆さんのUH-2(ユーツー)の整備も請け負っています。安全に飛ぶためにはなくてはならない部署です」

「ここは管制塔。あなた方が空にいる時は、見える範囲ならここから指示を出します」

「ここは基地警備教導隊、警備犬もこちらです。みんな賢すぎて可愛いわんこです」

 基地の中を一通り説明受けるだけで、午前中が終わってしまった。

 

 お昼は基地の食堂で名物の空上げ(からあげ)を食べさせてもらう。すごく美味しい唐揚げだ。

 午後からは対策室にて響からの魔法の伝授。って、はい、平空将補は外出ててください。この辺防衛機密です。って言うか女の園です!

 美智子に押し出された空将補、寂しそうだが仕方ない。

 と言っても、なんか対策室前のエプロンをウロウロしている気配があるが。

 

「さて、じゃ、響ちゃん。こないだお願いした魔法、良いかしら」

「はい、お姉ちゃんに二次元コード化してもらってます。待望の通信魔法もパッケージできたそうです」

 

 政府から要請があった魔法は五つ。

 防御魔法のリフレクト・マジック

 攻撃魔法の威力制限版レールガン

 同じく攻撃魔法のファイヤーボール

 収納魔法のアイテムボックス

 そして未だ開発中の通信魔法

 

 魔法使いの安全を確保し、効率的な魔物狩りを行うための基本魔法。

 ただ、レールガンもファイヤーボールも、威力は制限している。

 と言うか、響の使う魔法並みにしたら、下手すると国が滅ぶ。


 今日の目的は、これらの魔法の詰まった二次元コード……魔法陣を印刷して、ここにいる人たちでテストをするための準備である。


 魔法陣の印刷は、以前美智子の目の前で行ったのと同じ、感熱紙を使った作業だ。

 ただ、あの特級呪物みたいにならない様に、安全装置をつけてもらってある。

 インストーラーパッケージと魔法本体を別の用紙にした。

 また、インストーラーを起動するためにはアクティベーションキーの入力を求められる。

 このキーを入力するには、ステータス・オープン魔法が必須。

 この、数段階の安全装置により、不用意なインストールが起きない様になった。


「はい、じゃ、これが最後のプリントです。この中にアクティベーションキーの暗号文が入ってます。解除するにはステータス・オープン魔法の固有番号が必要になります。入力は仮想キーボードで……」

 ステータス・オープン魔法では視界内に様々な情報を呼び出すこともできる。脳内で処理できる仮想スクリーンみたいな物だ。これによりキーボードを投影し、そのキーを使って入力することでより安全性が高まっている。


「また色々複雑になってるのね。魔法持ち以外にこの感覚説明するの、大変そうだわ」

 もっとも、現在この部屋にいる人間は、全員ステータス・オープン魔法持ちだ。

 あ、響だけはスクロール魔法だが。


「それではまず、わたしと美智子がインストールします。それが無事に終わったら矢田先生、そして生徒のみんなに試してもらいます」

「はいっ!」

「さてと……」


 ステータス・オープン魔法の時に経験しているとはいえ、やはり緊張する。

「えいっ」

 用紙をひっくり返す。

 

『お得なコミコミパックをインストールしますか? はい/いいえ』


「ど、どうしたんですか? 理沙さんっ、しっかりしてっ!」

 突然崩れ落ちて膝をついた理沙を心配した響が、声をかけた。


「だ、大丈夫だから……ちょっと心に致命傷を負っただけだから」

「いやダメじゃないですかそれっ! ごめんなさい、お姉ちゃんの魔法、危ない魔法だったんですね。すぐ連絡して対策を……」

「違うの、魔法が危ないんじゃなくて、お姉さんのセンスが危ないの」


 しばらく息を整えた後、解説? し始めた。

「この魔法陣の名前があんまりだっただけよ。大丈夫。続けるわ」


 理沙はそっと『はい』に手を触れ、求められたステータス・オープン魔法の固有番号を打ち込んだ。

 続いて二枚目の魔法陣を開くと、魔法のインストールが始まる。


 続いて美智子が一枚目を手に取り、崩れ落ちた。


        ♦︎


 翌日、新しい魔法を覚えた面々は、東富士演習場へとやってきていた。

 中央高校から東富士演習場までは、UH-2(ヘリコプター)で一時間もかからない。


 今日は響を講師として、新魔法のレクチャーと安全対策の実地訓練だ。

 昨日は一緒に参加できなかった、麻紀やめぐみ、小波(さなみ)師匠も来ている。

 セトルリは三人を知らなかったため、自己紹介から始まる。

「榊原小波一等陸佐、習志野駐屯地所属の兵隊だよ」

 この人なんか目が怖いっ! 射すくめられて、なんか身体が動かなくなりそう。


「三浦めぐみです。聖女やってます」

 その自己紹介はどうなん?

 怪しげなラノベの読みすぎな人?

 

「武藤麻紀です。響ちゃんのフィアンセです」

「麻紀さんはわたしの旦那様になる人なんですよ」

 セトルリはそれはそれは驚いた。ヒビキってビアンなのっ⁉︎

 いや、別にそーゆーわけじゃないんだけどね。まぁ、変な関係なのは確かだが。

「と言ってもアレです。麻紀さんに守ってもらってるんです。わたしは」

「フッ、響の事はわたしが守るよ」

「麻紀さん……」

「ハイハイそこまでストップストップ! 健全な生徒たちが驚きまくってるから」

 理沙ストップがかかった。

「ブーブー、良いとこだったのにぃ」

「家帰ってからやってください」

「家じゃ恥ずかしくてできないわよ。せめて人目がないと恥ずかしくて」

 そうなん? 普通人目があったら恥ずかしいんじゃないの?


 よくわからない関係性だが、みんなとても幸せそうではある。

 

 あたしもみんなとあんな風になれたら良いな……そんな事を考えているうちに、皆の準備が整った様だ。

 新しい仲間も加わり、新魔法も覚えて、さぁ、みんなで学校生活始めましょう。

 無事に学べるかどうかはわかんないけどさ……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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