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転籍

 響がまた一人、毒牙にかけた……言い方悪いが、その通りだから仕方がない。


「はぁ、響ちゃん、せめてちょっと相談してからにしてほしかったわ……」

 理沙さんが響に小言を言った。


 場所は対策室分駐所。いつもの場所だ。

 今日は響だけが呼ばれてきている。響からの聞き取りが終わったら、今度はもう一人の当事者、瀬戸瑠璃さんを呼び出すことになるだろう。


 響が調子に乗って暴走した挙句、一般生徒の友人にステータス・オープン魔法をインストールしてしまったと学校から連絡があったのが、昨日の二十時過ぎだった。

 いや、響が基地に来ないな? とは思っていたのだ。だが、まさかそんな事態になっていたとは……


 響がセトルリに魔法を流し込んだ数分後、文香先生が教室に立ち寄り、そこで文香先生にバレた。

 そのまま生徒指導室に全員が呼び出され、一人ずつ聞き取り調査が行われた。


「あの、魔法がどんなものか説明するには、見てもらった方が早いかと思って……えーと、体験学習的な?」

 響は先のことを何も考えてなかった。いつも通りではあるのだが、よりによって……


「魔法の事を聞いてみたいなって言ったら、響に目の中見てみろって言われて、それで……」

 うん、瀬戸さんは完全に巻き込まれだな。

 ただ、たとえ巻き込まれただけであっても、もう魔法使いとなってしまったのだ。もう一般人には戻れない。


 不幸中の幸いと言うか、瀬戸さんには『将来の夢』みたいなビジョンが無かったために、『やりたいことが出来なくなった』と言う最悪のパターンは避けられた。せいぜい『響たちにくっついていって学校を支配する』程度の可愛らしい行動原理だったし……可愛らしい?

 

 また、魔法使いそのものにも興味を持っている様なので、このまま異世界生物対策委員会への報告をすることになり、委員会側の代表として対策室の面々が駆り出されている。


「だいたいの経緯は掴めてきたわ。まぁ、響ちゃんが魔法使いのことをあんまり重視してないのはわかった」

 こめかみを抑えながら、軽く睨みつける。

「これからは、許可なしに人に魔法教えちゃダメです。アンダスタン?」

「い、イエスマム……」

 顔色を伺いながらビクビクとお返事する。

「これで、瀬戸さんの将来が完全に書きかわっちゃったことは理解できてるかしら?」

「完全に?」

「例えばさ、瀬戸さんが婦人警官になりたい! とか看護師さんになりたい! なんて夢を持ってたら、もうその夢を叶えることは出来なくなるの。わかるわよね?」

「あ……」

「今回はね彼女が今、魔法使いになることを嫌がってないから助かったけどね、でもやっちゃダメ。もしこれからやりたいことが生まれても、もう魔法使いになる道しか残ってないの」

 将来、女性の大半が魔法使いになる様な時代が来れば、また変わるだろう。

 しかし、今はまだ魔法使いの数が少なすぎる。


「樽木さんとか宇佐美さんにインストールした時は、あの子達を守る方法としてお姉さんに相談した結果だったでしょ? でも今回のは、ほぼ完全に興味本位だよね? なら、やるべきじゃ無かった。そこはわかってほしいわ」

「はい……ごめんなさい……」

「謝る先はわたしらじゃないね、わかるよね?」

「こ、今度セトルリに会った時に、誠心誠意謝ります……」


 そんなこんなで響からの聞き取りとお説教を終わらせ、響を一度家に帰らせる。


 午後からは瀬戸さんの聴取とケアだ。

 瀬戸さんは茨城町の実家住まい。ご両親と兄と瑠璃さんの四人家族。

 今日は学校を休んでもらっているので、自宅まで岡田主幹と美智子がお迎えに行っている。

 お迎え車両は不信感を抱かれない様、内閣府の黒くて高いやつを借りてきた。

 流石に公用車の白いライトバンではちょっと……ね。


「初めまして、瀬戸瑠璃さん。わたしは内閣情報調査室、異世界生物対策班の小川です」

「は、初めまして」

「車の中で岡田と二宮からは何か聞きましたか?」

「はい、昨日のヒビキに見せられたアレが、大層危ないものだと聞いて……あたし……」

「大丈夫、大丈夫。危険じゃないから」

 そう言いながら机の側に立つ岡田主幹をキッと睨みつける。

 こんな女の子に何話してんだよこのヤロウ。

 美智子も止めろよ! もう手遅れな子を怖がらせてどうすんだよ!


「じゃ、昨日学校で話したことと被っちゃうかもしれないけど、まず事実確認からさせてもらっていいかしら?」

「はい……」


 少女はかなり縮こまっていた。

 長い髪を高めのツインテールで後ろに流しているのだが、今は俯いているせいで肩の前に垂れ下がっている。

 赤とシルバーのメッシュが眩しい。

 今はノーメイクっぽいが、なかなか綺麗な少女だ。なんで響の周りはこんな可愛い子ばっかりなんだろうか。


 そんなことをフワフワと思ってる理沙さんだって結構可愛らしいのです。そーゆー世界観なんです。


「じゃ、なんで響ちゃんから魔法流し込まれることになったのか、そこからお話してもらえるかな? あ、ううん、怖がらなくていいのよ。あなたはね、被害者なの。だからあなたは何も悪くないから、ね」

 岡田主幹が余計なこと言ったせいで、やりづらくてしょうがないわ。全くもうプンスカ。


 ちなみに、プンスコしてる理沙さんも可愛いんですよ?


「そっかぁ、それで説明がめんどいからって、アレ見せられちゃったのかぁ。うんうん、アレ、驚くよねぇ。あの突然目の前に浮かび上がる『はい/いいえ』とかね」

「えっ⁉︎」

「わたしもね、この後ろに立ってる岡田も二宮も意図せずアレ、やっちゃってるのよ」

「え? ええええっ⁉︎」

 もっとも、美智子はともかく岡田主幹と理沙は、完全に自分達の不注意だが。


「じゃ、ちょっとだけ魔法触ってみましょうか。昨日使い方は習ったの?」

「いえ、その前に見つかってあの騒ぎになったので……」

「じゃ、最初から説明してあげるわね」


 セトルリは昨日からずっと混乱し続けていた。

 あの文字の奔流の直後に、矢田先生に見つかった。そのまま何の説明もなく尋問大会みたいな状況になり、翌日の自宅待機も命じられた。

 しかし、あの後から、あたりの状況とか、部屋の外に誰かいるのかとかが何となく感じ取れるぐらいに感覚が鋭敏になってしまい、どうにも落ち着かなくて仕方がない。

 悶々としたまま朝を迎えると、内閣府から招集命令が来た。

 内閣府って何よっ! 女子高生が呼ばれる場所じゃないでしょ? それ。

 両親も大混乱している中、本当に黒塗りの高級車が家まで迎えに来て……


 今、やっと状況説明をしてくれる人が現れた。

 ミディアムボブにスーツ姿の綺麗なお姉さん。

 優しく丁寧な口調で、不安感がだんだんと溶けていく感じがする。


「じゃ、ステータス・オープンって言ってみてもらえるかな?」

「は、はい。ステータス・オープン、ああっ!」

「これがステータス・オープン魔法。分類としてはマジックオペレーティングシステムって言うんだけどね。じゃ、その中の魔法ってところをタップしてみて」

「はい……あ、なんか魔法みたいなのが」

「並んでるリスト、教えてもらえるかな?」

「えっと、イグナイト、ウォータ、ウインド、ウォッシュ、ライト、あとユーティリティ」

「わたしと同じ状態ね。そのユーティリティの中にはマップとか電卓とか入ってるわよ。その辺の頭の中だけで完結する魔法は、意識するだけで使えるから、あんまり深く悩まないでね」


 そこから軽く魔法の使い方や注意事項の説明を受けた。


「さて、でこれからの話なんだけどね、瀬戸さん、あなた将来の夢とかあるかしら?」

「夢……ですか?」

「希望進路とかでもいいわよ」


 (あたしの夢……なんだろう)

 セトルリは考えた。

 少し前までは、かっこいい彼氏をたくさん捕まえて、取っ替え引っ替えウハウハの学校生活をした後、その中からいい奴選んで結婚して一生守ってもらう……なんてことを夢見ていた気がする。

 

 (けどなぁ、あのクラスのみんなを見た後じゃ、そこらの男子じゃ力不足だよね……)


 小さい頃の夢は何だったか……確かお花屋さんとか言ってた気がする。

 小学校の時、好きだった男子に

『瑠璃は可愛いもんな。良いよな、可愛い女ってさ』

 って言われた時から、可愛く生きて必要とされようとし続けてきた。

 結局、その男の子に告白したりはしなかったが。


 中学に入ってからも可愛く生き続けるために、どんどん自分を磨いていったが

 (なんで告白してくる男子はどいつもこいつもヲタばっかりなのよっ!)


 うん、ヲタ男子はね、地雷好きなんだわ。

 普通の男子はね、どんなに可愛くても地雷には近づかないの。だって地雷なんだからさ。

 行きずりのナンパとかならいくらでも声かけるよ? だって可愛いんだもん。でも、同じクラスの地雷女とかお断りなんだよ。普通の男は。


「わたしは……お嫁さんになりたかったです」


 (あー、進路的には不可能じゃないな……助かったわ)

 理沙はほっと一息ついた。


「じゃ、そうなれる様に国としても全力でサポートします。ただ、今いる普通科では魔法教育ができませんので、残念ながらクラス替えをしてもらうことになります」

「クラス替え? 一年四組じゃなくなる感じですか?」

「一年六組、魔法学科へと転籍してもらうことになります。大変申し訳ないけど……」


 (一年六組……魔法学科……って、えええっ! 魔法学科のクラスに通えるのっ⁉︎ じゃあ、じゃあ、毎日尚子の香りに包まれて授業できちゃったりするのっ? 何その天国! って言うか、あの香りに包まれたまま授業とか可能なの? そのまま昇天したりしない⁉︎)

「はいっ、なります! 魔法学科、入りますっ!」


「え、え、ええ。じゃ、ちょっと書類色々あるから書いてもらえるかしら。あと、このあとご自宅にお送りした時にご両親とも面談させてもらいます。魔法学科に所属して以降は補助教材代や交通費も全額国が持ちますので安心して通ってください。何か質問あったらいつでも聞いてください」

 ちょっと食いつきすぎな女子高生に、目を白黒させる理沙であった。


 こうして、魔法学科の生徒が一人増えた。

 あー、でも、セトルリぐらい可愛ければみんな寄ってくるかも……ですねぇ。

 人外六組の中入っても、全然負けてないレベルの可愛らしさですから。


 それではまた、お会いいたしましょう。

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