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回復魔法

 回復魔法。


 どんな魔法だと思いますか?

 どんな傷も一瞬で治す、神官の魔法?

 どんな病もすぐ回復、聖女様の魔法?


 そんな魔法みたいなことはできない。

『いやちょっと待ていっ! 魔法だろうがっ!』

 うん、魔法だね……

『せめて日本語で会話してくれっ!』

 仕方ないよ。非常識なサワイの物語だし……


        ♦︎


「と言うわけで、お姉ちゃんに機序を聞いてきました!」

 

 めぐみが回復魔法とやらを覚えた。

 もしもこれが本当に回復魔法として動作するとなると、めぐみの一生が潰される。

 しかし調べないわけにはいかない。

 なら、報告する前に少しでも手札を揃えたい……麻紀は可愛い可愛い嫁に頼み事をした。


『えへへ、可愛いって言われた……』

 あー、まぁ、可愛いはあんま言われないな、響。

 良くて綺麗、なんならカッコいい、大抵はスゲェ止まり。


「と言うわけで、回復魔法とやらが使えると判ると、一生病院で魔法使わされる人生になると思うのよ。だから、まず回復魔法がなんなのか、御義姉様(おねえさま)に聞いてもらいたいの」

 ということで、冒頭の響のセリフへと繋がる。


「元々、マイクロマシンは医療用と言ってたじゃないですか。そのマイクロマシンが、現在の問題点に集中してあたれるように誘導するだけ……だそうです」

「となると、マイクロマシンが入ってることが前提?」

「それなりの濃度でマイクロマシンが体内にあることが前提みたいです。だから、男性よりも女性の方が効きやすいって」

「流石に誰にでも……ではないのね」

 誰でも治せるとなると、それこそ回復魔法使いの価値が上がり過ぎてしまうか。


「マイクロマシンが出来るのは、ウイルスや細菌を駆除していくとか、骨折や裂傷なら、一時的に傷口を繋ぎ止めておいて、細胞分裂の速度をちょっとだけ上げるとかぐらいみたい。あとはサワイケースによる若返りとそう変わらないと」

 ぐらい……で済ませるには大きすぎる効能だ。

 これだけの能力があったら、どれほど多くの人の命を守れるか……


「とりあえず……習志野連れてって怪我人見てもらおうかしら」

 空挺王国習志野。細かい怪我は日常茶飯事なあの場所で、ちょっとテストをしてもらおう。

 

        ♦︎


 めぐみと響を習志野に連れ込んでテストを繰り返す。

 まだ慣れていないためか、男性相手がほとんどなためか、あまり成果がなかった。

 しかし、ある日|女性自衛官《W A C》が足を捻ったために診断してみたところ、集中しているうちに色々わかり始めた。


「あの……あのですね、こうやって手をかざしてると、この人の身体の中の魔力の流れが見えるんですけど……」

「あー、わたしもわかりますね。それ。もう少し集中すると、魔力以外の体の組織とかも見えてくる気がしますよ」

 

「あー、これあれです。レントゲンです!」


 体内にマイクロマシンが増え始めると、X線が通りにくく……レントゲンに写りにくくなってくる。

 この|女性自衛官《W A C》も最近は医療機器による身体検査が難しくなりつつあったのだが。

「んー、医療知識はあまりないのですが、おそらく骨折はしてませんね」

「うん、わたしが見ても大丈夫そうに見えるね。これ、もう少し頑張るともっとこう3Dで見えてきますよ。あの、あれ。ビリビリ流す時に見える感じ」

 響さんや、めぐみさんはまだビリビリの訓練とかしてないから魔法リストには有りませんよ?


 こうなってくると、医療従事者に覚えてもらえるのが一番良い魔法なのかもしれない。

 しかし、いつもの帝大病院にめぐみさん連れてったら、モルモット扱いされるのが目に見えてるし……


「ヨシ、めぐみさん、貴女今日から聖女様になりましょうっ!」

「はぁっ⁉︎」

 ヨシっ! じゃねーよっ! 何突然わけわかんないこと言い出してんのこの人っ!

「大丈夫、きっとあたしの嫁がなんとかしてくれるから」

 いや最悪だよ、この女! なに響に丸投げしてんのっ!

「聖女かぁ、聖女ですね。うん、カッコいいです、聖女。勇者パーティには必須ですもんねっ!」

 って、嫁もっ! 響さんや、貴女色々フィーリングで生きすぎっ!

「ちょっとお姉ちゃんに問い合わせしてみますね。うん、聖女かぁ、良いなぁ」


        ♦︎


「麻紀さん麻紀さん、お姉ちゃんから聖女対策魔法が送られてきたんですが」

 なんだよその魔法!


 あの後、すぐに姉に相談した響さん、姉から『三浦めぐみさんの諸元を送れ』と言われ、めぐみさんの体をマイクロマシンでスキャンした上で送信。

 そして今日、その結果が送られてきたと。


「二往復で一ヶ月ちょい。ちょっとレスポンス長めかな?」

「ですね。少し不安定かもしれないです」

 姉との文通はいつ返事が来るか、ものすごく不安定である。

 船便でアメリカと文通してんのか? ぐらいに期間が開くこともあれば、メッセージアプリでやりとりしてんのっ⁉︎  みたいなハイレスポンスな時もある。

 ここしばらくは往復三日ぐらいが多かったが、今回はちょっと長めだった。

「じゃ、今日の放課後は百里待機よね? それまでにめぐみさん連れてっとくわね」


        ♦︎


「こ、これが、聖女の力……」

 めぐみが両手のひらをじっと眺めながらつぶやく。

 響の目の中を覗き込んだ後の、めぐみさんが怪しい挙動をしている。

「め、めぐみさん、何か見えてるの? 聖女って、何か変わるの?」

 麻紀が興味津々な感じで聞くが……

「いえ、やってみたかっただけです。まだメニューも見てませんし……」


 あー、これあれだろ。この妙に芝居がかった動作は、たぬきの影響だろ。

 多分聖一叔父さんの姿絵か何かと引き換えに、演技モデルかなんかやらされてるだろ。


「じゃ、確認します。ステータス・オープン! えーと、魔法リスト……なんか聖魔法とか言うのに変わってますね。これを開けると……うわっ!」

「え? どうしたの⁉︎」

「取説がメッチャ分厚いです!」

 魔法のマニュアルに厚みの概念は無い!

 と言うか、なんなのこの人、キャラ変わってない?

『あー、たぬきに聞いたんですけど、最近聖一叔父さんとなかなか良い感じらしくて、浮かれポンチになってるらしいです』

 なるほど、浮かれてるとこうなるのか……


「えー、説明要約しますね。『医療従事者じゃないなら、あまり真剣にやらずに雰囲気で押し通せ』だそうです」

 いや、雰囲気で治されるのってどうなんだ? 危なく無いんか?

「マイクロマシンを信じろ……と」

 魔法の操作は基本的にマイクロマシンへの指示によってなされる。

『次元障壁の向こう側からμ粒子を移送し人差し指の前で崩壊させ電子レプトンを発生させよ。また、親指の前に次元障壁の向こうから取り出したアップクオーク二つとダウンクオーク一つを一セットとし、障壁を展開せよ』

 みたいな術式を実行させるのも

『乾いた風、触れ合うは断絶、絶って繋がり炎となる…イグナイト』

 と唱える呪文も、どちらも同じ様に電気火花を呼び出す魔法だ。

 下手にこの世の(ことわり)に干渉してバグを出すよりも、魔法を信じてファジーな指示をした方が良い結果が出ることが多いと……

「最後には『マイクロマシンは本来医療用ロボットです。信じて「治せっ!」と指示すれば、良い感じに治してくれます』って書いてありますね」


 こうして、めぐみは聖女になった。

 とは言っても、男性にはマイクロマシンの投与をしないと無力だったりする。

 マイクロマシンの投与は医療行為となるので、医師による指示のもと医療従事者が行わなければならない。

 その辺は麻紀が、同級生の女医さんを連れてきたことにより解決した。


「さぁ、めぐみさんにはこれで地域でバンバン支持者増やしてもらうわよぉ。うるさい政治家? そんなん持病でも治してやりゃ黙るわよ!」

 ……うーん。

 響さんや、本当にこの旦那でいいの?

『でも、これ全部わたしを守ろうとしてやってくれてることなんですよね……こんなん惚れちゃうに決まってるじゃ無いですか。もうわたし、麻紀さんを嫁に欲しいですよ!』

 いや、あんたが嫁だろうがっ!


 と、そんな経緯で宗教色の薄い聖女が誕生した。

「あえて言うなら……サワイ信教?」

 胡散臭い宗教だな。

 おかしい。もっとこう、聖女様っぽくなるかと思ってたんですが……元アナウンサーには難しかったかしら。


 それではまた、お会いいたしましょう。

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