第一話のその後
みなさん、このお話の第一話、覚えてますか?
あれは響が高校生になった春、そう、この時期のお話です。今日はその後の処理について解説しましょう。
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二十頭のオークの群れを倒したサワイチルドレンは、異世界生物対策室のヘリコプターで基地へと帰っていった。
後に残されるのは、第102飛行隊のヘリコプターで連れてこられた空挺隊員と、朝霞駐屯地から来た第一施設大隊の大型トラックと重機。大宮駐屯地の中央特殊武器防護隊。
まず最初に行われるのは民間人の救護活動だ。
オークに犯されそうになり、間一髪で助かったものの、いまだにオークの下敷きになっている女性。
逃げる時に、お年を召した女性を庇ってオークに弾き飛ばされ、意識不明の男性。
そのほかにも多数の負傷者が出ているため、救護の医官や第一線救護衛生員が走り回る。
女性を救い出すために、外骨格型パワードスーツを装備した隊員が、オークの死体を持ち上げる。
今の所命を失った人はいないようだが、重症者も多い。
負傷者の収容と搬送が一通り片付くと、今度は特殊武器防護隊……いわゆる化学科の出番となった。
オークから有害な物質が出ていないか、未知の微生物に汚染されていないか、また放射線被害は出ていたりしないのか。
特に未知の微生物の恐怖は常に付き纏い、全員放射線、生物、化学防護服、NBC防護服を着用の上調査を進めていく。
しかし、慎重に調査を進めているだけでは国の機能は麻痺していってしまう。
なんと言っても、もう魔物が出てくるのが日常なのだ。全国で毎日魔物被害が出続けている。
なので、早急にこの惨状の片付けをしなければならない。
ここで出てくるのが施設科だ。
オークの体はとても大きい。
並のオークでも身長3m、600kg近い。
これがオークの変異種ともなると3.5m、1,000kgを超えてくるものもいる。
頭を吹き飛ばされていても、どれもこれも500kgを超える代物だ。人間が持ち上げてトラックに積み込める様なものではない。
パワードスーツを使っても、バランスの悪い荷物をポンポン運ぶのは現実的ではなく、危険も伴う。
そのために、グラップルと呼ばれる爪の付いた重機がやってきた。
重機でオークの巨体を持ち上げ、大型トラックへと積み込んでゆく。
バラバラになった小さな部位は、スコップやトング、更には手袋をして手作業で拾う。
それはそれは気が狂いそうな作業だが、これも丁寧にやらねばならない。
最後に、大量の血液を水で流す。
タンク車を何台も呼び寄せ、飛び散らない様に低い水圧で血液を排水溝へと流していく。
一雨くれば一気に綺麗になるのかも知れないが、生憎今日も明日も晴れが続く予報である。
最後に、この戦闘により損傷した施設や設備がないか確認していく。
響は跳弾を嫌ったのか、普段は鉄球を撃ち出すところを、今回は鉛弾を使っていた。
響のレールガンで撃ち出される鉛は、ジュール熱により瞬間的に液体になり、高比重の流体としての挙動を示す。
この溶けた鉛が敵の身体を叩き壊したのち、地面に沿って流れながら固体に戻る。
これが鉄球の場合、鉄の球として敵を撃ち抜いた後、地面に当たって明後日の方向へと超音速で跳ね返るか、地面を抉り、巨大な破口を作り出すかしてしまうのだ。
ただ、鉛は飛び散ると体に悪いので、あんまり使いたくはないらしい。
と言うわけで、今回響が壊したのはアスファルトに描かれた道路標示程度だった。
オークが暴れたために壊れた店頭やガードレール、道路標識、信号機などは、追って専門の業者が修繕に来ることになっている。
この辺りまで片付いた頃には、もう日もどっぷりと暮れてしまった。
最終確認を済ませ、最後の部隊が撤収したのは翌、午前二時過ぎであった。
二台の大型トラックに積み込まれたオークは、一台は帝大本郷キャンパスへ。一台はずっと遠く、神戸の理研魔法研へと運ばれる。
ここでそれぞれ解体して研究素材になるのだが、正直最近は量が増えすぎて持て余している。
そろそろ、魔法を使わなかった魔物などは直接焼却処理することも視野に入れてほしかったりする。
ただ、魔法を使った個体はダメだ。そいつらは処分せずに魔臓を寄越せ。
あれは宝の山だ。
そして救急車で搬送された被害者たち。
軽傷のものはすでに帰宅している人もいる。
しかし、重症者……中でもオークに直接殴り飛ばされた男性は未だに意識が戻らない。
もう一人、オークに押し倒されかけた女性、時々何かに怯えるように体を震わせ、時に突然泣き出すような状態が続いていた。
翌日から、復旧のための工事が始まる。川口駅東口周辺の非常線は深夜に撤去されたが、通行止めが解除になったのは翌日の午後、信号機が応急処置された後であった。
今回は魔法少女の出動により、一瞬で片がついたためにこの程度で済んでいる。
しかし、これが自衛隊とオークの戦闘となった場合には、討伐にかかる時間も、流れ弾などによる被害も、確実に大きくなる。
今回、響が現着してからオーク討伐完了までにかかった時間は、わずか二分。
特に大きいのが魔物の数の確定や、撃ち漏らしがないことの確認などの要素だ。
普通の自衛隊員が討伐に当たった場合、相手が何頭いるのかを確定するのは至難の業だ。
『まだどこかに隠れているかも知れない』
これが常に付きまとう。
響が事に当たった場合は、この点が一瞬でクリアになる。
その他の魔法使いであっても、ステータス・オープン持ちであれば探知魔法が使える。
周囲数十メートル程度の範囲内なら、気配を探ることができるようになる。
もう、魔法使いのいない魔物討伐は過去のものとなりつつあった。
そして、百里に帰った響と理沙は……
「ただいまー」
「お帰り、響ちゃん。どうする? 学校戻る?」
対策室待機の美智子が出迎える。
もうお昼は過ぎた。授業は五時間目の最中ぐらいか。
「今から戻っても微妙ですよねぇ。ホームルームだけ出ようかな。あ、お弁当食べちゃいますね」
アイテムボックスからお弁当箱を取りだした。
麻紀さんは先日から忙しいらしく、週のうち四日はでかけたっきり帰ってこない。と言うか、官邸との連絡便以外に会えることが少なくなっていて、ちょっと寂しい。
だから今日のお弁当はお母さんに作ってもらっていた。
「美味しそう。良いわね、お母さんのお弁当」
理沙さんが覗き込みながら響の頭を撫でた。
「お母さんのお弁当、美味しいんですけどね。ただ、麻紀さんのお弁当が桁違い過ぎなんで、どっちが楽しみかと言われると……うーん」
麻紀さん、あんななりして飯うま女子らしい。
「そーゆーとこは良い婿よねぇ。麻紀さん。めんどくさい人だけど」
「面倒くささじゃ、理沙も負けてないでしょうが!」
美智子さんが叫ぶ。
「あたしはほら、みっちゃんが方向修正してくれるし」
「いや、毎回止める方になってみなさいよっ! しかも、止まんないから結局変わんないしっ!」
「でも、弾かれてベクトルは変わるよ? なら問題なくない?」
「あるわっ!」
ぜはー、ぜはーと息が荒くなる美智子と、いつも通りの理沙。
ほんの数十分前まで緊迫した魔物出現現場にいたとは思えない自然さ。
魔物に襲われ、被害を受けた地域にとっては非日常であっても、この人たちにとってはもう日常になってきている。
生活を壊される人、後遺症で苦しむ人に寄り添い、再び前を向けるように支援する団体も間も無くできるはずだ。
響の婿殿も、その辺りの事業推進に一枚噛んでいる。
魔物が退治された以降の事は、その専門家に任せよう。
響たちは、とにかく魔物の被害が広がらないように食い止める、そこに全てのリソースを割こう。
不幸な目に遭ってしまった人を助けるよりも、不幸な目に遭う人を減らすのが役目。そう割り切らなければ、魔法少女の心が持たない。
あと五秒早くあのオークを倒せていれば……あと一分早く現着できていれば……
そうやって少女たちが潰れていかないように、大人が頑張る。
でも、頑張ったご褒美にいい男の一人でも紹介してほしいな? とか考える担当官だった。
魔法使いだけでは世の中回らないわけで……
特にこの人たち、後片付け苦手そうな人、多そうじゃありません?
それではまた、お会いいたしましょう。




