出馬要請
「三浦さん、貴女、染谷聖一さんのお役に立ちたいって、そうおっしゃってましたわね?」
「ええ。スーパーヒーロー聖一様のお役に立つことがわたしの使命だと思っています」
「染谷さんが溺愛してる姪御さんの役に立つのは、間接的にでも染谷さんのお役に立てると思いません?」
内閣情報調査室、異世界生物対策委員会百里分駐所。まぁ、いつも響たちがフラフラしているあの場所だ。
三浦めぐみは今日、武藤麻紀に呼び出されてここまでやってきた。
「詠美ちゃんが魔法使いなのは知ってますよね?」
「ええ。最近まで魔法使いの存在そのものを知らなかったんですけどね。でも、詠美さんや彩香さんも、響さんみたいな魔法使いだと言うことは聞いています。魔法学科のことも」
そういうめぐみも、半分魔法使いに足を突っ込んでいたりするのだが、まだ本人にその自覚はない。
「今の日本の法律だと、魔法使いって色々と生活が制限されたり、将来が限られていたりして生活しづらいシーンが多いのはご存知かしら?」
「いえ……あ、でも詠美さんも、行きたい進路じゃなくて魔法学科へ進むことになったんでしたね」
たぬきは、ちょっとだけ美術系の学校に進みたかった気がしなくもない……程度には進路を考えていた。
それも、あの日魔法使いになったために、強制的に魔法学科への進学が決められてしまった。
「これからの魔法使い達、そう、それこそ私たちやあなた方の子供達の進路がそうならない様にするため、力を貸して欲しいの。このまま行くと、染谷さんの子が女の子だった場合、魔法使いになる可能性はとても高いと思うのよ」
麻紀は卑怯だ。
めぐみは聖一に嫁ぐなんて、そんな恐れ多いことは考えていない。
ただ、誠一の子供となると、それはヒーローの後継である。
ヒーローの後継者が、進路決定で不利を被るなんてことがあってはならない。
と言うわけで、めぐみはここで協力しないという選択肢を奪われてしまった。
「と言ってもね、大したことじゃないのよ。次の衆院選にちょっと出馬してほしいだけだから」
いやいやいやいや待て待て待て待て待て。
『ちょっと』『出馬』とかおかしいだろ?
『うちの界隈ではそんなもんなのよ。気にしたら負けだから、ナレーションは黙って見てなさい』
「お膳立てはわたしの方で済ませるわ。事務所の立ち上げから政策、マニフェスト、資金繰りまで全部引き受けます。なんなら応援演説に首相連れてくる事だって出来ます」
そりゃ、あんたの親父だしな。
「ただのお飾りになれとは言いません。貴女にも一緒に考えてもらって、一緒に戦い抜いて、そして魔法使いが暮らしやすい国を作る手伝いをして欲しいの」
もともと、麻紀は国政へと打って出るつもりでいた。父の基盤をできるだけ使わずに戦っても、国会議員になれると踏んでいた。
しかし、人生何があるかわからない。まさか自分の夢がある日突然大きく変わるなんて……
国会議員となって国の舵取りをするよりも、たった一人の女の子を守り抜くことの方が大事になるなんて、一年前には思ってもみなかった。
ただ、その娘を守り抜くためには国会議員にならなければならない。なんと言うジレンマ。
ならば、わたしの代わりに誰かにやってもらおう……酷い女だ。
そんな面倒なことを押し付けられて、はい良いですよ……なんて言う人はあまりいない。
そこに颯爽と洗われた三浦めぐみ。
国民への知名度、好感度、共に文句なし。
響ちゃん関係者への対応、パーフェクト。
こんな便利な駒、使わない手はない。
「染谷さんの職場での立ち場も強化されるかもしれませんし」
こんなの断れるわけない。
♦︎
三浦めぐみは元人気アナウンサーだ。
ここ二十年、全くテレビになんて出ていなかった。おそらく世間ではほとんど忘れられているであろう。
ただ、選挙に出るともなれば、この二十年間のこともがっちり取材が入るに違いない。
下手すると大日テレビからのアンチ報道もあり得る。
それを覆すほどの見込みが?
今回の政界へと出ていく話を持ってきたのは武藤麻紀さん。現職の首相、新自由民主党総裁、武藤大義の娘だそうだ。
『なんでそんなすごい人がわたしに?』
うん、麻紀は自分の欲求に正直なだけだ……響とイチャイチャしたいだけだな。
自分が政治家になったら、十八歳も年下の同姓とイチャイチャとか、スキャンダルにしかならんし。
別に響と性的にどうこうしたいわけじゃない。
と言うか、そんなこと言ったら流石の沢井両親だって許してはくれない。
でも、響の元に居続けるためにはやはり政治家にはなれない。
というわけで
『知名度が高く、とりわけ選挙に来てくれる高齢者層への認知度が高い』
『きちんと自分で考えられる能力を持っている』
『なんせ美人は得!』
と、三拍子揃った獲物……女性が網に……じゃなかった、女性とお知り合いになれたのは暁光とばかりに……
ほんと酷いな……
♦︎
「ただ、まだまだ魔法使いは数が少ないため、このままでは支持層そのものが薄いのです」
今いる選挙区……茨城二区では衆議院議員定数はたったの一人だ。
ただ、現在の政権与党、新自由民主党からの擁立候補者はあまり強くないため、ゴリ押しすればそれなりに我を通せるつもりでいた。
しかし、それも支持してくれる人々が、いてこそだ。
「と言うわけでですね、この用紙見ていただけます?」
ペラっとめくったコピー用紙には……ちょっと待てぇっ!
麻紀っ! それどっから持ってきたっ!
『ん? 響ちゃんにお願いしたら、すぐ作ってくれたわよ? うちの嫁はほんとに優しくてさ』
いや、その二次元コード、国家戦略の根幹に関わるやつじゃないのっ⁉︎
『あー、将来国民全員に広める予定のバージョンのテストだから大丈夫! あたしだって許可なくつっこんだりしないし!』
なんだ、国の許可取ってたのか。あーびっくりした。
『んにゃ? 魔法研の臨床試験の一環よ?』
って、同意もなく臨床試験始めんなゴルァっ!
「あ、あの……なんか文字が……マジックステータスオープインストーラー?」
「ええ、はいのところ、触ってくださいますか?」
あーあ、入れちまいやんの……
実はめぐみさん、この間の帝大病院でのテストの時には、半魔法使いぐらいにはされていた。
あの脅威の若返りは、ただのサワイケースだけでは無理だった。
しかし、マイクロマシンを投与された上で、響による魔力操作により発動した回復魔法。継続的に身体をスキャンし、必要が有れば維持修正修復をしていく魔法が動き続けている。
これまではステータス・オープンが入っていなかったために本人も全く気づいていない。
そこに、今回ステータス・オープン魔法がインストールされた。
「あわわわわ、な、なんか色々流れていきますが」
「気にしないで良いわ。わたしも、隣の部屋にいる対策室のメンバーも、それこそ詠美ちゃんもこれ覚えてるから」
いや、気にするなって言う方が無茶な話だろう。だって、今リアルタイムで感覚が変質していくのがわかるんだから……
「……と、止まりました。コンプリートって出てます……」
「はい、魔法使いの世界にようこそ。めぐみさん」
「こ、これが……魔法使い……」
もっとも、響がこんなのを貰ってくるまでは、魔法使いってのは自力で魔法を覚えた少数の人々だけだった。
長い呪文と精神集中を必要とし、使える魔法も一人一種類、せいぜい二種類止まり。
それが、今ではメニューを追いかけてのツータッチ。
ショートカット機能を使えば発動ワードだけでも魔法が使えるようになってしまった。
「なんか……色々凄い……みなさんこの感覚を?」
ステータス・オープン魔法を使い始めた時に感じる、無駄な全能感。
だいたいは響と会うことで崩壊する程度の全能感だが、それでもこの場を支配している感は残り続ける。
「じゃ、ステータス・オープンって言ってみてもらえるかしら?」
「はい、ステータス・オープンうおっ!」
「最初はみんなそうなる」
麻紀が笑いながら言う。
「そしたらその中の『魔法』を選んで中見てみて。今使える魔法がリスト化されてるから」
「はい、魔法……えーと、中もツリー構造なんですね。一番上が回復魔法?」
「…………はぁっ⁉︎」
麻紀の選挙戦略が変わってしまう瞬間であった。
お読みいただきましてありがとうございます。
まさか衆院選真っ只中で公開するタイミングになるとは思ってもみませんでした……
まぁ、作中の選挙はまだまだ先の話になりますので、今回はただの出馬要請だけですけどね。
それではまた、お会いいたしましょう。




