空中戦
「さてと、市街地に降りる魔物の気配はないかな? って、また原子力施設の近く? 何か理由あんのかな?」
今、魔物の群れが近寄っていっているのは福井県北部にある原子力施設の集まった一角だ。
前回、大海蛇に大洗を狙われた時も、原発のそばまで攻め込まれた。
『まぁ、それを考えるのは対策委員会の人たちだし。もしくはお姉ちゃん!』
って、丸投げする気満々ですよコイツ。
『いや、女子高生に何求めてんの』
そりゃそうか。
そんなことを言ってる間に、響の速度も250ノット、ほぼ最高速に達した。
そろそろワイバーンの形も目視でわかる距離だ。
ワイバーン。飛竜とも呼ばれる空飛ぶ魔物だ。
目撃証言ではほぼ100%の確率で『プテラノドンが飛んでた』と言われる。
過去に駆除したワイバーンを調べた結果、いわゆる翼竜とは全く違う生物だと判明している。
しかし、飛翔中のシルエットが、ステレオタイプなプテラノドンそのものなのだ。
長い吻、長い頭部。翅は陽の光をわずかに通すほど薄く、指の骨でその巨大な翅全体を支える。
短い脚と、短い尾。ほとんど羽ばたかず滑空していくその姿。
開翼長は10mを超えるため、実物のプテラノドンより二回りほど大きい。
まだ、直接人を襲った記録はないが、この先もないとは言えない。
しかも今回はこの大群である。
『小松コントロール、こちら響。感ありますか?』
『響、こちら小松コントロール。よろしく……と言いたいところだが、今日は中部航空警戒が管制する。チャンネルはこのままで、すぐ繋ぐ』
『響、こちら|中部航空警戒《C A C》。現状知らせ』
『中警団、こちら響。海上の敵は大技で潰したいと思います。質量コントロールのファイヤーボール使用許可、取れませんか?』
『周辺海域に民間船は?』
『全速退避してる様です。規模抑えめで行けば被害は出ないと思います』
『響、こちら中警団すぐに確認を取る。その他状況は?』
『敦賀原発方向に向かいそうな一団があります。先行で潰します。許可取れるまではレールガンで落としていきます』
『承認する。状況開始』
『状況開始します』
さて、お姉ちゃん達がNon-Mass魔法と呼ぶ、質量制御系のファイヤーボール。
通常のファイヤーボールは、炭素で出来た籠を『作り出し』、それを燃焼させることでエネルギーを『無駄に使って』威力を抑えていると説明を受けた。
この炭素の籠……これを素粒子から作り出す過程でエネルギーを質量に変換している……らしい。
姉の説明があまりにも専門的すぎて、響にはまだちょっと理解ができていない。
ただ、使うことはできる。と言うか、小学生の時に自分でそこに辿り着いた。
感覚派の響さん、小学生の時に東富士で
『この、ぎゅーって集めて固める力を、ぎゅーってするだけで固めずに撃ったらー』
とかでNon-Mass魔法を発動してしまった。
チャージ砲と同じく、あまりにも威力がありすぎるため、使用するには内閣総理大臣の許可が必要となってしまったために、今、許可を取ってもらっているところだ。
「さぁて、急がないとどんどん陸地に来ちゃいそうだし、行きますか」
響も空中戦の実戦は初めてである。
ただ、木更津のヘリコプター部隊とは度々追いかけっこをして遊んでいるために、経験は積んでいた。
「じゃ、前の方にいるやつから……」
ワイバーンの飛行速度はせいぜい50ノットぐらいか?かなりゆっくり飛んでいる様に見える。
まずはこちらに向かってくる奴に……
「相対戦ね、行っくよー、バンっ」
相変わらず発動ワードはそれなのね……
「だだだだだだだだだだっ!」
今の一連射で、五、六匹は落としたか? と言っても、撃ちっぱなしにすると、ハズレも多くなるか。
「一匹ずつ狙うかぁ、ばんっ、ばんっ、ばんっ、ばんっ!」
周囲には弾が当たって困るものがない。撃ち下ろしならば下は海面だ。初速制限もほぼ必要ないだろう。
響の脳内には相対距離、相対速度、相対でのベクトルの違い、彼我の姿勢にその先の挙動、レールガンの弾の弾道、全てが立体として表現されている。
その状態で初速12km/sにも達する、直径12.7mm、重さ8.5gの鋼の弾が撃ち込まれていく。
その運動エネルギーは612,000J。
撃ち出された瞬間から、ジュール熱により融解し、白色に近い液体状の光の塊として飛び出していく。飛翔中も断熱圧縮と摩擦熱により液体状を保ち、着弾の衝撃でプラズマ化。魔物の体内を焼き払いながら貫通し、最後に海に飛び込んで、水蒸気爆発を起こしながら沈んゆく。
ワイバーンは、翅の皮膜部以外に命中すれば、その場でみな絶命していった。
皮膜に当たると、その場で絶命はしないものの、確実に墜落することになる。
「あー、でもちょこまかするから面倒いわ。これだけ動かれるとビリビリも命中率落ちるし……早いとこ許可出ないかなぁ」
四、五十匹落したところでワイバーンの群れがこちらに気づいたらしい。一斉に響に向かって上昇を始めた。
「ラッキー、ヘイト取れたわ」
響は群れの追跡を切らさない様、ゆっくりと回り込みながら沖合へと向かい始める。少しでも陸地から、人のいる場所から離れなければ。
『中警団、響です。魔物の誘導に成功しました。現在若狭湾沖合に向かって移動中。質量コントロールのファイヤーボール、使用許可はまだでしょうか?』
『響、CACだ。あと五分待ってくれ』
『響了解です』
仕方ない、もう少しヘイトを稼ごうと、一瞬近寄りビームなセイバーを展開、二、三匹叩っ斬ったところで反転上昇する。
「よーし、着いてきてる、着いてきてる……って、え?」
ファイヤーボールが魔物の群れの中に浮かび上がった。
一拍おいて響に向かってファイヤーボールが飛んでくる。
「バリアっ! あー、ファイヤーボール撃つワイバーンとか、いるのか……」
油断していた。
よく見れば、体内の魔力がやたらと高い個体が存在してる。もしかしたらこれらが魔法を使う魔物の特徴なのかもしれない。
「とりあえず、撃ってきそうなのは優先的に落とそう……」
今ファイヤーボールを撃ってきたワイバーンを撃墜し、再び通信を入れる。
『中警団、こちら響。ワイバーンがファイヤーボールを撃ってきました。わたしの方なら大丈夫ですが、万が一市街地に出るとその被害は甚大になると思われます』
『響、CACだ。それは本当か? ワイバーンがファイヤーボールを使用した例は、今まで無かったと思われるが』
『多分カメラでも捉えてると思います。今はこれを片付けるのが先決かと……』
『お待たせ響ちゃん、理沙よ。CAC、お疲れ様でした。あとは百里対策室が指揮します。機体管制は引き続きお願いします』
『百里対策、CAC了解、後を頼む。百里92608、航法要素知らせ』
通信の後半は、理沙の乗ってきたV-280のパイロットへの指示だ。
『響ちゃん、理沙です。Non-Massの使用を許可します。ただし控えめ心がけてね』
『はいっ! 響、質量コントロールファイヤーボールで攻撃します!』
『あ、公式でNon-Mass魔法で良いわよ』
先月の会議で決まっていたが、伝達を忘れていた理沙であった。
Non-Mass魔法を使うとなると、また位置取りを変えなければならない。
できるだけ高度を上げつつ陸から離していく。
炸裂させる場所から半径100mは、ほぼ何も残らないだろう。
半径1kmは致命的なダメージで撃墜、半径2kmでも飛んでいられるものは、おそらく響だけだ。
理沙の乗ったバーローはまだ遥か彼方だから問題ない。
津波を発生させないために、炸裂高度は3,000mあたりに設定、その近くへとワイバーンを誘導していく。
と言っても、ワイバーンが飛んでる高さはせいぜい5,000ft、1,500mだ。もう少し高度を上げさせたい。
「鬼さんこちら、手のなる方へっ!」
響が必死に煽るが、それは魔物に効果的なのか?
「うーん、この辺で平気かなぁ……」
能登半島越前岬西方7,000m。高度は一番高い個体が5,500ftぐらいまできたが、これ以上は上がってくれないらしい。
『百里対策、響です。間も無くNon-Massを使用します。衝撃波に備えてください』
『響ちゃん了解。お願いね』
『はいっ、いきます!』
響は自分についてきているワイバーンの群れの中心、その上空3,000mに向かって手を伸ばし、必殺の光を発射した。
白いまっすぐな線が空に向かい、空の一点が白く広がっていく。響は体の周りにバリアを球状展開する。
白い光は直径100m近くなり、そこから音の速さで衝撃が伝わっていく。
まず、一番上空にいるワイバーンが爆散した。中間あたりのもの達は、体が裂け、血飛沫を上げた。
最下層や、中心から離れたもの達は翅を切り刻まれ、そのまま海面へと落下していった。
更に広がる衝撃波は海面を直接叩き、海水表面が瞬間的に沸騰爆発する。
押し込まれた海水が再び元に戻ろうとする時、小さいながらも津波が発生して周辺へと同心円上に広がっていく。
せいぜい数十センチの津波であろう。被害はあまり大きくはならないはずだ。
「うー、もう少し威力抑えたいなぁ。陸上じゃ使えないよねぇ、これ」
想定より、ちょっと広くなっちゃった感があるが、まぁ概ねオッケー。ワイバーンも八割は落ちた様だ。
『理沙さん、響です! 大丈夫ですか? 飛んでますか?』
『響ちゃん、控えめって言ったじゃない……』
『よかった、飛んでますね! じゃ、残りの敵、やっつけちゃいます』
もう、残って飛んでいるワイバーンは百もいない。一つずつ落としていってもそれほど時間かからず掃討できるだろう。
ただ、Non-Massの影響がどこまで広がっているかわからない。
恐らく陸上でも窓ガラスが割れたりの被害はありそうだ。
後始末を考えると頭が痛い。
「あ、麻紀さんに投げよう!」
理沙が根本解決策を思いついた。
実は悪女だよね、この人も。
『響ちゃん、理沙です。お疲れ様、まずは小松に向かってくれるかしら? 小松基地でこちらに収容するわ』
『響了解です、小松に向かいます』
響の高校生活初出動はこうして終わった。
正式な調査はこの後、海上自衛隊が展開してから始まるはずだ。
響をここまで乗せてきてくれたウォッシュは、もう百里へと帰っていった。
響は理沙の乗ってきたV-280で戻ることになる。
「はい、響ちゃんお疲れ様」
「理沙さんもこんな遠くまでお疲れ様でした」
「もうね、こんな遠くまで来たら越前がにでも食べて帰りたいわね……そんな暇ないけど、はぁ」
若狭湾の海産物も食べられずに蜻蛉返り。
まぁ、響は明日も学校だし……仕方ないか。
さぁ、明日はオリエンテーションだ。
空中戦、憧れますよね……
機体のエネルギーをどれだけ効率的に使えるか、必死に取り合う相手の後ろ。
右へ左へ、上へ下へ……
決して、遥か彼方から戦術核を撃ち込む様な、そんな戦いじゃ無いやつ!
それではまた、お会いいたしましょう。




