ワイバーン
入学式の途中、緊急放送に従い宙に舞った響。
体育館の窓から飛び出すと、体沿いに虹色膜を展開、揚力と舵を虹色膜で制御し、風魔法は推進のみに絞りつつ加速していった。
推力だけて制御するよりも、方向転換がとても楽になるのと、速度も稼ぎやすくなるのだ。
中央高校から百里基地までは、直線距離で12km。200ノットですっ飛んでいけば二分で到着する。
高度は150ftまであげた。これだけあればレーザー通信も使えるはずだ。
『百里コントロール、こちら響。二分で西からエントリーします。アプローチは対策班のヘリパッドへ』
『響、百里コントロール了解』
管制塔と会話している間にも、ぐんぐんと基地が近づいてくる。
異世界生物対策班入り口に理沙さんが立ってるのが見えた。理沙さんもヘルメットをかぶっているので、出動は確定だろう。
そのままヘリパッドに一度足をつき、そこからひとっ飛びで異世界生物対策班まで飛んでいく。
交差点の一時停止なら、きちんと止まってないと言われて切符切られるやつだ。これでちゃんと着陸したことにしてくれる基地の人に感謝する。
「理沙さん!」
「響ちゃん、入学式の最中にごめんね。ワイバーンの群れが福井県上空に出てるのよ。その数数百以上らしくて、全然手が足りないの。申し訳ないけどマジコンで先行してもらえるかしら。わたしもすぐにV-280で追いかけるから」
「わかりました! F-3はすぐ上がれます?」
「五分待機の機体にマジコン装備済みよ。今離陸準備してもらってるから、乗り込めばすぐ飛べるわ」
「了解、行ってきます。指示よろしくお願いします」
「ええ、頼んだわ」
響は対策室隣のアラートハンガーへと駆け込んだ。
顔馴染みの整備さんに挨拶をして、乗り込む機体のパイロットに手を振る。
「あらたさーん、お願いしまーす!」
一番機は新田一尉。コールサインはウォッシュ。今日響を連れていってくれる戦闘機乗りだ。
F-3戦闘機のお腹にぶら下がっているマジコン、マジックキャリアコンテナに乗り込む。ハッチを閉め、レバーをロック。通信用ワイヤーをヘルメットに差し込んで通信を確保する。
『ウォッシュ、こちら響、準備ヨシ、ロックヨシ』
『響ちゃん了解。出すよ』
今まで|補助動力装置《J F S》のタービン音だけだったのが、急激に大きなエンジン音に切り替わってゆく。
体の下で、ガラガラと輪止めが抜かれる音がする。
響のいる場所からはほぼ真下の地面しか見えないが、響の超センスは周辺の整備員の動きまで綺麗に捉えていた。
機体兵装のロックピンを手に取り、パイロットに本数が見える様に提示している人。
ラダー、エレベーター、エルロン、エアブレーキ、ベクターノズルの動きの確認をしている人。
全システムクリアの合図をして、機体前から退避する人。
機体が動き始め、滑走路に向かう。
現在はスクランブル発令状態だ。茨城空港の航空機発着も全て止まり、この戦闘機が飛び立つのが最優先となっている。
アラートハンガーは滑走路端側にあるため、動き出した機体はあっという間に滑走路へと滑り込み、右へと舵を取る。機体中心線が滑走路と並行になると同時に離陸許可が出た。ウォッシュは機体を止めずに、そのまま離陸滑走を始める。
『V1……ローテーション……V2』
地面が離れていき、降着装置が収納されていく。
タイヤが空気を切り裂く音が消え、そのままさらに高度を上げていった。
五秒後方、左側に二番機が付いてくる。こちらの機体は対空兵装てんこ盛りだ。
F-3戦闘機は外部懸吊部にまで詰め込めば、一機で十二発の空対空ミサイルを運ぶことができる。
響の乗っている一番機はマジコンを装備するために八発しか積めないが、それでも僚機と合わせると二十発の空対空ミサイルを運ぶことができるのだ。
それでも、数百以上と言われた魔物の群れに対しては雀の涙かもしれない。
残った魔物は響の魔法に頼るしかない。
百里基地から福井県までは350kmほど。マッハ1.2の巡航速度ですっ飛んでいくと、ほんの二十分で福井上空へと到着する。
♦︎
若狭湾上空に突如ワイバーンの群れが現れたのは今から40分ほど前。
即座に小松基地からスクランブル発進したF-35戦闘機が邀撃に向かったが、ワイバーンの数があまりに多かった。
F-35には対魔物用として、合計八発の空対空ミサイルを胴体内と翼下に装備していた。
二機で十六発。更にすぐに三時間待機の機体も上げる予定だったのだが……
『目標視認。|とてつもない大群だっ《メニーメニーターゲット!》』
『カウントできるか?』
『EO-DASの表示は四百を超えてる』
四百頭!
小松基地に常備してある空対空ミサイルを、全て消費しても倒しきれない。
今上がった二機も手当たり次第にミサイルを撃ちまくったが、十二頭を撃墜したところであえなく弾切れとなってしまった。
この地域を統括している航空自衛隊中部航空警戒管制団は、即座に他基地からの支援を決定。更に異世界生物対策委員会への支援要請をかけた。
中部航空方面隊が速動で動かせる戦力は、小松に四機、百里にも四機しかない。
このままの数の魔物が陸まで入ってくるのを止めるのは、現在の戦力では難しいと判断された。
異世界生物対策委員会が管理している魔法使いのうち、空飛ぶ魔物にまともに対応できるのは、現在、響一人しかいなかった。
『響ちゃん、間もなく現着だ。高度を下げる』
『響了解』
響は前方の空間へと意識を飛ばし始めた。頭の中に敵味方の戦力が展開されていく。
ワイバーンは一様に散らばっているわけではなく、群れに濃淡がある様だ。
『ウォッシュ、飛行中の魔物は現在五百四十匹です。空自の戦闘機も二機確認。これはもうミサイル撃ち尽くしてるのかな?』
『響ちゃん了解。現在高度6,000ft、速度330ノット。4,000、200で解放する。群れの手前10kmぐらいになると思う。準備よろしく』
『了解、準備完了してます』
ワイバーンの群れの一部は、すでに市街地上空に入ってきている様だ。そのまま撃墜したら落下して地上の人々に被害が出てしまうかもしれない。
響はマジコンの中から、邀撃計画を緻密に組み立てていく。
(あっちをさきに、バーンってやって、そこからあの辺にだだだだだだだってして、市街地のはヘイト稼げば釣れるかな……)
緻密……緻密なんだよ。これでも。
感覚派だけど、やる時はやる娘だから!
『響ちゃん、高度4,000、速度200。インターロック解除』
『了解しました。ロック解除、防御膜展開』
がちゃんっ! ハッチの手動ロックを解除した。ハッチが開いた瞬間に吸い出されない様、虹色膜で色々とカバーをする。
『帰りは小松へ降りてくれるかな? 迎えはそっちに行くはずだから』
『了解しました。状況終了後は小松に降ります』
『じゃ、気をつけて! ハッチオープン! 響ちゃん、リリース』
『行ってきますっ!』
身体直下のハッチが大きく開く。左手側に琵琶湖が、右手側に若狭湾が広がって見える。
「よし、行きますか」
手すりから手を離すと同時に虹色膜で翼を形成し、一気に高度を下げていく。
前方には、黒いモヤの様に魔物の群れが浮かんでいた。
魔物には人間以上にマイクロマシンが取り憑いているため、響にとってはとても良く目立つ目標になる。
飛んでるワイバーン一体一体にマークをつけ、撃ち漏らしがない様にする。
これから響はあの魔物の群れの中へと飛び込んでいくのだ。
総数540頭。流石の響もこれだけの数の魔物を一度に相手したことはない。
前例のない、大きな戦いが今始まろうとしている。
ワイバーン
シリーズ通してよく出てくる雑魚敵……ですねぇ。
いや、これもあっちの世界では確かCランクの魔物だったはず。
しかもこの数だと、スタンピード扱いだから倍率ドンでAランク越え!
さぁ、響さんの活躍に期待しましょう! 多分、映像映えはしないと思いますけどねorz
それではまた、お会いいたしましょう。




