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入学式は大騒ぎ

「新入生、入場」

 放送が入り、普通科の子たちから体育館に入っていく。

 普通科が一組から四組、吉野くんの入ったスポーツ科学が五組、響たち魔法学科が六組となる。

 あ、吉野くんがめっちゃキョロキョロしてる。あれはたぬきを探してるんだろうな。

 おお? 見つけたみたいだ。視線が見事にロックオン。一瞬たりとも見逃さない精神でガッツリ見てる。これ、知らない人が見たら怖いわ。


 上級生たちの拍手が止まり、一同着席の合図で座った。

 式次第は、まぁ一般的なものだ。スポーツ科学には触れたが魔法学科には一言も触れなかった。


 ただ、この普通科やスポーツ科学の人たちでも、魔法に目覚めた場合は魔法学科へと転属することになる。

 現状、魔法使いは全数、国が把握し管理する方向で決まりつつある。

 まだ法案提出前の議論段階だが、将来的には確実に罰則付きの法律が出来上がるだろう。


「歓迎の言葉、在校生代表、西川ジョウ」

「はいっ!」


 凄く気取った俺かっこいいだろ系の先輩が演題に立った。

「生徒会長の西川ジョウです。新入生の皆さん、ようこそ中央へ!」

 生徒会長らしい。

「うーん……吉野くんの方が好みかなぁ」

 たぬきが! 吉野くん贔屓のセリフをっ!

 こんなの吉野くんが聞いたら、卒倒するんじゃないだろうか。

「となると、吉野くんが受けで一本……」

 ダメだった。吉野くんが聞いたら別の意味で卒倒しちゃう。というか、吉野くん逃げてー。


 たぬきがぶつぶつと危険な独り言を呟いているせいで、生徒会長の挨拶が一切頭に入ってこない。

 なんなら生徒会長と吉野くんが脳内でくんずほぐれつしそうになり、慌てて頭を振る響だった。


『ピンポーン』

 突然、なんの前触れもなくチャイムが鳴った。まだ生徒会長が話してる最中だ。

『緊急、緊急、緊急。一年六組沢井響さん、至急百里基地へ。緊急、緊急、緊急、一年六組沢井響さん、至急百里基地へ』

 女性の声の機械音声が流れた。これはあれだ。魔物に違いない。

「沢井響、緊急対応に向かいます!」

 ヘルメットを取り出し顎紐をかける。

 続いてアイテムボックスのローファーと、今履いてる上履きを入れ替える。

「行ってくるね」

 両隣に座る親友に声をかけて、ふわっと宙に浮いた。


 体育館の中がざわついている。やたらと緊迫感を煽る自動音声が流れ、人が空を飛んでるのだ。

 人が飛んでるところを見たことがある人はほとんどいない。と言うか、人が空を飛ぶことを知っている人がほとんどいない。

 響と同じ、小川南出身の生徒たちは至って落ち着いているが、その他の生徒、父兄、さらには教員たちも騒ぎ出した。


 そんな中で、響は天井付近まで高度を上げ、上階キャットウォーク沿いの窓が開いてるのを確認、そこから外に一気に飛び出していく。

「さっすが響、相変わらずの早技だねぇ」

 たぬきがのんびりとした口調で言った。

 

 体育館のざわめきは徐々に怒号へと変わっていく。

 まず、魔法学科が新設されたことをほとんどの父兄が意識していなかった。しかも、たった今の入学式でも、その説明が一言もなかった。

 校内の先生のほとんどは県職員の地方公務員だ。

 たとえ校内に国立のクラスがあったとしても、県立高校の教諭は県立高校の教諭なのだ。

 矢田先生をはじめとする数名の魔法学科配属教諭や、響たち魔法学科の生徒は、所詮はこの高校にとってはお客さんだと思っていた。

 

 国としては、その辺りを節目なく取り扱いたく制度を作ったのだが、正しく伝わっていたとは思えない溝があった。

 

 そこへこの騒ぎだ。

 なんだその危ない学校はっ!……そんな父兄も当然の様に出てくる。

 少なくとも、響の視界内にいる限り世界一安全な学校な気がするが、響の実力はまだ魔法業界でしか広まっていない。

 ってか、なんだよその業界。対策室の人だって、そんな業界知らないんじゃないか?


 慌てて娘を連れて帰ろうとする、ヒステリックに叫ぶ母親。

 大事な入学式の最中に飛び出していくと、はなんたる無作法! と怒り出す父親。

 そもそも教諭たちの中にも響を糾弾しようとするものも現れる。


 そんな中、矢田教諭が動く。

 ツカツカと階段を登り体育館ステージに上がった。

 マイクを手に取り、スイッチオン。


『静粛にっ! わたしは国立魔法学科主任教諭矢田です。国により、緊急出動指令以後の全権を持たされています』

 そう、矢田先生は、実は偉い人だったのだ。

 そりゃ、世界一貴重な魔法使いの教育管理を任されるのだ。無能が指名されるわけがない。


『中央高校には第三の専攻科、国立の魔法学科が設置されました。今のこの日本を、世界を守るための少女たち。彼女たちを守り、育てるためのクラスです。今年、このクラスには五人の生徒が入学しました』

 一部の例外……響の関係者数名を除き、魔法使いのほとんどは若年層に集中している。

 麻紀さんの下は、いきなり二十五歳まで年齢が飛ぶ。

 毎月新しい魔法使いが見つかっているが、ほぼ全員が高校生以下だ。


『この二年で、この近辺でも魔物被害が何件かあったのをご存知ですか? その中の、涸沼のワニや、ここ、小美玉のオオカミ事件を解決したのは、今出動した少女です。彼女がいなければ、この地域からも犠牲者が出ていた可能性が高いと聞いています」

 全長20mにも達する巨大ワニ。

 暗闇の中を駆け回る狼の群れ。

 どちらも一歩間違えたら大惨事となる魔物たちだ。


『すでに魔物と戦っている彼女や、まだこれから魔物と戦うための訓練を行う生徒たちは、日本だけではない、この地域、この学校をも守っているのです。どうか、彼女たちを暖かく支援してください』


 体育館内はシンと静まり返っている。

 まぁ、沢井夫妻は心配そうにキョロキョロしているが。


 あ、教頭が再起動した。校長、来賓と相談した上で、マイクに向かい次の予定を連絡し始めた。

「出動した少女の活躍と安全を祈りましょう。続いて、予定であれば来賓挨拶となりますが、本日の入学式典は予定を繰り上げてここで終了といたします。ご入学の皆さん、これから三年間頑張ってください」

 

 無理やりまとめ上げた上で、閉式していった。

 このあとは各クラスで学校説明の予定だったが、学校説明は明日のオリエンテーションの時に時間を作ることになった。

 今日はもう全校生徒を下校させ、職員会議を開く。

 緊急出動時には自動音声で校内放送が流れると聞いてはいたが、実際に聴いたのは初めてだった。あれほど緊迫した放送がこれからも流れるのか? 授業中に? 試験中に?

 その辺の事情も、国立側の職員を交えた会議を開いて擦り合わせをしなければならない。


 携帯端末でどこかに連絡をとっている矢田教諭を見やる。

 小柄なおばさん先生。大迫力の胸周りに視線を集めがちだが、実は魔法学会の重鎮クラスと言われている。

 教頭は、通話を終え、担当クラス……六組の生徒と会話をしている矢田の元へと向かった。


「矢田先生、彼女は大丈夫ですか?」

「教頭先生、閉会宣言お疲れ様でした。あの状況でしたから助かりました」

 矢田先生が教頭に向き直りながら言った。

「響ちゃん……沢井さんは今、福井県に向かってます」

「福井県?」

「福井県で空飛ぶ魔物が大量発生したそうです。こうなると、対処できるのはおそらく世界中探しても沢井さん一人しかいないんですよ」


 魔法学科のある高校の教頭と言っても、魔法に詳しいわけではない。生徒たちの実力など知らないし、なんなら魔法使いにそんな実力差があることすら初めて知ったレベルだ。


「沢井さん並み……とは言いませんが、この娘たちが安全に戦える様にするためには、国は努力を惜しみません。下手をすれば学校制度そのものまで手をつける可能性だってあります。ですので、できるだけ本校にもご協力いただけたらと思います」

 将来、若い娘たちみんなにステータス・オープン魔法を覚えてもらう可能性もあるのだ。

 そうなった時には、学校どころか社会構造そのものまで変わってしまうだろう。


「明日以降、この娘たちの魔法の授業には、手の空いた先生方に見学に来ていただきましょう。百聞は一見にしかずです」

 それでは後ほど職員会議で……矢田先生はそんな風に締めくくり、今度は受け持っている生徒に向き直る。

「はい、いつまでもぼーっとしてないで。今日は帰るよ。みんな親御さんは来てるのかな? 来てるならちょっとお話ししたいから教室に集まってもらって」

 

 たぬきは保護者として聖一叔父さんが来ているが、あとの三人はちゃんとご両親が出席していた。

 全員に新校舎の六組へと集まってもらい、今日起きたこと、これからの想定、そして大切な彼女たちのこれからについて、再度しっかりとお話しさせてもらった。

 もっとも、何度も国と話し合ってきた事だったので、皆さん覚悟は決まってる様だ。


「それで、うちの詠美のかっこいい活躍シーンの映像とかは残りますか?」

 あ、一人、ダメな人がいたわ。

 スクランブルする響さん。多分すごくカッコいいです。


 ただ、制服のまま、緑のヘルメットかぶってますけどね……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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