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入学式当日

「響、明日の準備終わってるの?」

 お母さんの懸念もよくわかる。だって響だもん。

 

 明日はいよいよ入学式だ。

 制服ヨシ、持ち物ヨシ、新しくおろしたばかりの靴も玄関に並べ、あとは朝の身だしなみをちゃんとしとけば問題ないはず。

 登校は八時半までに、入学式は十時から。

 両親は入学式の時間に合わせて後から行くので、行きは一人で確実に……

「響ちゃん、あたし送ろうか?」

 麻紀さんがそう言ってくれるが、あんまり甘えちゃうわけにも……

「甘えてくれると、嬉しいんだけどなぁ」

「じ、じゃあ、明日だけお願いします」

「へへ、ありがとっ」

 送る方が何故かお礼を言うあたり、まだ関係性がバグったままか。


 晩御飯はお祝い料理で、お刺身だった。

 麻紀さんが永田町の帰りに桶いっぱいのお造り買って帰って来た。

 なんかもう、めちゃくちゃ美味しかったとしか言いようがない。


        ♦︎


 さぁ、今日は入学式だ。

 朝は早めに起きて、身だしなみの確認。パジャマを脱いで、タイツを履いて、ブラウスとスカートを着る。リボンタイは後で結ぼう。

 朝ごはんはスクランブルエッグとカリカリベーコン。スープはカップ用インスタントのコンソメスープ。

 炊き立てご飯も美味しくいただいてから、歯磨きシュコシュコ綺麗綺麗。


 リボンタイを結んで、ブレザーを着て、髪を麻紀さんにセットしてもらう。

「リボンも曲がってるよ」

 綺麗に直してもらって、さぁ完成!


「いってきまーす!」

「じゃ、学校まで響ちゃん送って来ますね。戻ったら洗い物するんで、そのままにしといてください」

 麻紀さん、今日はお休み取ってるらしいです。普段はもう少しちゃんと働いてるんですよ?


 沢井家の裏庭に停めてある麻紀のメルセデスに乗る。

 二十一世紀半ばを過ぎても、販売されている自動車の半数以上は化石燃料を使っている。

 麻紀のメルセデスもハイブリッド車であり、いまだにガソリンが必要だ。

 それにしても首相令嬢、高い車に乗ってるなぁ。

 

 自宅を出発したら、まずは茨城空港へ。

 そこから茨城空港アクセス道路を西に向かい、途中でメロンロードへと乗り換える。

 なんだかんだで高校まで二十分はかかる道のりだ。

 スクールバスも出ているので、普段はバス通学になる予定だが今日は甘えてしまおう。うちの旦那様、優しいし……って、響さんや? もう完全に麻紀さんに甘々ベッタリになってません?


 と言うわけで、八時過ぎには学校に到着。

「麻紀さんありがとうございました。めっちゃ助かりました」

「帰りもお迎え来ようか?」

「帰りは多分、友達と動くと思うから大丈夫です」

「はい、了解。じゃ、行ってらっしゃい。また後で」

「はい、行って来ます」


 ドンっ

 大きく重いドアを閉め、軽く手を振る。

 麻紀が手を振りかえしてから、車を発進させていった。

 見えなくなるまで手を振っていたら、うさやの家のリムジンが目の前に滑り込んできた。

「響おはよう」

「おはうさー」

「おはうさ言うな」

 運転手さんにも軽く頭を下げ、校門に向かう。

 うさやの家は、普通に運転手さんがいたりする。

 ただ、家族でお出かけの時などには、お父さんお母さんも普通に運転してくれる。

『お母さん、運転好きらしいし。昔は筑波サーキットとか通ってたんだって』

 え? そうなの?


 うさやと校門をくぐり、学生玄関へ。たくさんの生徒が次々と玄関に向かっていくので、それについて歩く。

 下駄箱はクラスごとに分かれており、魔法学科は……

「あれ? 見当たんない?」

「無いねぇ……あ、先生らしき人発見。ちょっと聞いてみよ。おはようございます! あの、わたしたち魔法学科なんですけど下駄箱が見つからなくて……」

 新入生の案内をしていたらしき男性教諭に声をかけた。

「ああ、君たちが……魔法学科の下駄箱はこっちじゃ無いんだ。今年は正面玄関に用意してあるから、外出て右に向かってくれるかい?」

「は、はい、ありがとうございます」

 まさかの正面玄関……職員とか来賓と同じ玄関らしい。

 まぁ、五人しかいないんだけど、少し気後れする。


「まさか玄関から違うとはねぇ。これは教室とかもなんかあるかなぁ?」

「五人だしね。フルサイズの教室じゃ無いかも?」

 下駄箱の名前を確認した上で、アイテムボックスから上履きを取り出し、靴をアイテムボックスに仕舞い込む。

 魔法学科の生徒は……特に響はいつ出動命令が出るかわからないからだ。

 

 この靴は、ドラゴンの翅を研究して作られたストレッチ素材のローファーだ。しなやかに足にフィットし、防水透湿衝撃吸収防刃耐刺突。

 陸上自衛隊で使われ始めた長靴と同じ素材を使い、女子高生向けにアレンジした逸品。

 これは魔法学科の生徒全員に支給されている。


 ちなみに、ブラウススカートブレザーやタイツ、リボンタイまで全てが最新の研究を元にした魔物素材由来の戦闘服だ。

 なんと今回は迷彩柄じゃないっ! 深緑色(オリーブドラブ)でも無いっ! 褒めて褒めてっ!

『褒めないよっ! 当たり前だよっ!』

 中学生の頃から、当たり前のように迷彩服着せられていた響がキレたわ。正直スマンかった。


 学校の制服としては女子でもスラックスを選択できるのだが、魔法科学の五人は全員スカートを選んだ。男子用のブレザー、可愛く無いし……

『可愛さ大事!』

 そうだね、大事だね。

 

 案内の貼り紙とかは見当たらないので、受付窓口から事務室に声をかけた。

「おはようございます。あの、わたしたち魔法学科なんですけどどこへ向かえば良いでしょうか?」

「はい、おはようございます。魔法学科はね、調理室の向こうに新校舎できたから、そこに向かってもらえる? その左奥の廊下をまっすぐ進むと、そのうち新校舎に入るから。その先へ」

「ありがとうございます。行ってみます」

 どうも魔法学科の教室は試験会場だった場所らしい。

 つい一ヶ月ほど前に試験を受けたあの場所だ。

 とことこと歩いていけば、割とすぐに着く。

 

「あ、出てる出てる、魔法って書いてある。あ、もうみんないるかな?」

 ガラッと扉を開き、おはよーっと元気よく声を出していく。

 中にはたぬきと出町さん、森河さんが席について談笑していた。

「おはよ。間に合ったね」

「いや、初日から遅刻とかしないしっ! って言うか中学の時も遅刻とかほとんどしてなかったしっ」

  

「あはははは、仲良いね、君たち」

 出町さんが楽しそうに話しかけてきた。

「おな中だしね。って言うか、わたしと、このうさやが魔法使いになったの、響のせいだし」

「せいってなによ、せいって。って言うかわたしじゃなくて、お姉ちゃんのせいっ!」


 女学生、三人よれば姦しい。五人集まると……もう漢字がないじゃないかっ!


 しばらくお話ししていると、だんだん人となりが見えてくる。出町さんはグイグイくるタイプ、森河さんは割と聞きに徹するタイプの様である。

 さて、そろそろ八時半になる。出席番号順に机に名前が書いてあるが、なんせ五人しかいないクラスだ。

 通常は縦列で並ぶところが並列に。しかも前後二列……これって入試の時と同じ配列?

 出席番号順に並べると


 1番 宇佐美彩香(うさみさやか)

 2番 沢井響(さわいひびき)

 3番 樽木詠美(たるきえいみ)

 4番 出町尚子(でまちなおこ)

 5番 森河直美(もりかわなおみ)


 1,2,3,番が前列、4,5,番が後列。うん、入試の時と奇しくも全く同じになった。


 きーんこーんかーんこーん……

 チャイムがなり、しばらくすると扉が開く。

「おはよう、みなさん。入試の時以来だね」

 担任教師の矢田文香(やだふみか)先生が入ってくる。


「では、この後体育館に向かって入学式を行う。その後教科書の配布と伝達事項の連絡、学校生活の注意点等を伝えたら今日は下校になる。入学式は午前十時からだから、まず全員で自己紹介をしようか。じゃ、一番から順に」

「はい、出席番号一番、宇佐美彩香です。小川北中学校卒。カレピッピはいませんが、旦那様はここに二人もっ」

 いきなり響とたぬきを旦那様扱いで紹介とか、レベル高すぎだろ!

「魔法はステータスオープンの基本だけです。よろしくお願いしますね」

 

「じゃ、続いてわたしね。沢井響、十五歳です」

「あ、それこないだ聞いた」

 笑いが取れた。

「多分知ってると思いますけど、魔法は現状知られてるものなら大体なんでもできるはずです。上の許可さえ取れれば色々教えてあげることもできると思います。よろしくお願いします」

 

「樽木詠美です。小川北出身、農家の長女です。魔法はうさや……宇佐美さんと同じです。趣味は……漫画描くことかな? よろしくお願いします」

 うん、ただの漫画じゃないけどね。

 この教室には男性いないから、これからどうするのかな? スポーツ科学まで行って吉野くんネタ拾ってくるのかしら。


「出町尚子です。水戸第二中出身。バスケやってましたが魔法覚えちゃったら試合出られなくなって、泣く泣く辞めました。割と得意だったんだけどねー。魔法はファイヤーボールが使えます。あとはこの間政府の人に教えてもらったステータス・オープン魔法? 学校までは実家から通います、よろしくね」

 どうやら攻撃魔法の使い手らしい。響は自分以外の攻撃魔法使いと直接会ったことがないので、ちょっとワクワクしてきた。


「森河直美です。北茨城市立常北中卒。魔法はストーンバレットとウインドショットが使えます。あとステータスオープン。趣味は近くの海岸で釣りをすることでした。自宅から通うのは難しいので百里に下宿しています。これからよろしくお願いします」

 おっと、見た目と随分違うイメージ? まさか釣りガールには見えなかった。

 

 一通り自己紹介も終わったが、まだまだ時間は余っている。

 普通科やスポーツ科学科クラスは基本的に四十人クラスなため、十分な時間が取ってある。それが五人のクラスだとあっという間に終わってしまった。


「せんせー、先生は結婚されてるんですか?」

「してるよ。子供も三人いるぞ。もう二人成人しちゃってるけどね」

 あははーと笑う矢田先生。

 相変わらず小柄だ。クラスで一番小さいのは間違いなく矢田先生だ。

 ただ、クラスで一番大きいのも矢田先生だ。これまた間違いない。

「先生、カップ数はいくつですか?」

「内緒だ内緒っ。もう垂れまくってるから収めるの大変なんだから」


 なんかひどい会話してるし。

 

 怖い先生かと思ったら、割と親しみやすそうな感じがする。

 まぁ、怖いって言っても、小波(さなみ)さんみたいな根源的怖さはないだろうけど。


 普通のおっかない教師が猛犬とかなら、小波さんはあれだ。ヴェロキラプトルかなんかだわ。

 気がついたら忍び寄られていて、喉笛掻き切られてる (物理)


「さ、バカ言ってないで他の説明進めるよっ」

 先生がちょっとプンスコしてるかもしれない。みんな真面目に座り直した。

「まず、魔法学科は来年以降も一階教室になる。一年から三年まで、この場所に教室が並ぶ。なんでかって言うと、隣がヘリポートだからだ」

 窓から外を見ると、ちょっと離れた場所に、確かに丸のなかのHマークが見えている。

「最初は屋上って話だったけどね、体育の時間とかに出動がかかったりすると、やっぱり一階の方が近いだろうということで、こうなった」


 ヘリポートを作るためには色々な制限をクリアしなければならない。

 このために木を切り倒したりソーラーパネル引っぺがしたり、グランド照明撤去したり大変だったらしい。


「当面、沢井が出動の時は自力で飛んでいくと聞いているが、他の生徒が出る時は百里からヘリコプターが迎えにくる。そのための訓練もこの先あるから心の準備もしておくこと」

 普通の女子高生はヘリコプターで出動とか、一生することないだろう。


「授業時間内の出動は授業時間にカウントするが、それで実際に学業が遅れてしまうととても困る。なので時間外でもできるだけ勉強できるように、特別講師が何人か筑波から来てくれる。何か専攻したいものがあったら言ってくれれば専門家を呼べるかもしれんぞ」

 なんと言ってもこのクラスは国立なのだ。国立大学から講師を呼ぶことだって出来てしまう。


「あ、なんなら百里でも勉強できる様にしときましょうか? 多分、わたしの担当官さんたちなら見てくれると思うし」

 いや、理沙も美智子も忙しいのよ? あんなだけどほんとに忙しいのよ?

 あと、麻紀だって実はめちゃくちゃ忙しいんだからね? ひたすら響らぶが高じて必死に時間作ってるだけで。


 ただ、三人とも言えばきっと見てくれるだろうなぁ。面倒見良すぎて困るわ。


「そろそろいい時間か。じゃ、体育館へ移動する。荷物は残していっていいぞ」

 と言っても、三人組はアイテムボックスのせいで基本手ぶらだ。出町森河の二人は通学鞄を持ってきているが。


 体育館は魔法教室からはかなり遠い。新校舎を出た後、X字型の本館のなかを直角に端から端まで歩くイメージだ。更にその向こう側に体育館は有る。


 丁度他の学科の子たちも体育館に向かうところの様だ。上の方から続々と人が降りてくる。


 さぁ、いよいよ入学式だ。

 新しいクラスメイトと、どうやって距離を縮めるか……うさやや響は難なくこなしそうですけど、たぬきは苦手にしてそうです。

 では、新しいクラスメイトの出町さんと森河さんのこともよろしくお願いします。


 それではまた、お会いいたしましょう。

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