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卒業パーティ

「ただいまー、友達連れて来たよー」


 たぬき家……樽木さんの自宅である。

 樽木さんは農家だ。今の時期はジャガイモの植え付けでてんてこ舞い。なのでこの時間帯はおばあちゃん以外誰もいないことも多いのだが……


「詠美さんおかえりなさい。聖一様はもうすぐ戻られると思いますわ」

 え? 誰? ……って、三浦めぐみさんかっ!

 ちょっ……マイクロマシンさん、やりすぎっ! あ、響のかけた魔法もなんか影響してんのか?

 とにかくもうね、あのガリガリに痩せ細った状態から、どこをどうすればこのボンッキュッボンにトランスフォームするんですか?

 あと、気がついたら樽木の家に進出してるってどういうこと? もう聖一叔父さん籠絡したの? めちゃくちゃ馴染んでない?


「あ、うさやと吉野くんは会ったことなかったっけ? こちらは三浦めぐみさん。こないだ叔父さんが救助した人だよ。今はね、うちの手伝いしてくれてるの。この時期ほら、農家忙しいからさ」

 かいがいしく家事手伝いをしてくれているそうだ。


「宇佐美です、お姉さんよろしくお願いします」

「吉野です。よろしくです」

「三浦です。こちらこそよろしくお願いしますね」


 今日はいつも勉強とかに使っている食堂ではなく、広間を使ってやるらしい。

 広間は広い。団地サイズではない、フルサイズの畳で三十畳もの広さを誇る。

 法事の時など、親戚一同が集まる時によく使う部屋だが、今日は染谷の家からも人が来るので、こちらの部屋を使うことにしたようだ。


「お邪魔します……」

 吉野くん、お部屋の広さにちょっと気後れしているようだ。


「あ、適当にお座布敷いてね。今飲み物もらってくる」

 たぬきが部屋を出ていく。そして、入れ替わりで叔父さんが入ってきた。


「響ちゃん、うさやちゃん、いらっしゃい。……で、こちらは?」

「あ、え、詠美さんのクラスメイトで吉野と言います。いつも詠美さんにはお世話になっていて……」

 吉野くんは聖一叔父さんの事を知らなかった。

 姪っ子を溺愛しすぎて婚期を逃す様な、ちょっと何言ってるかわかんない人物の事を知らなかった。

「詠美がお世話してるのね。どんなお世話かな?」

 怖い、怖いよ聖一おじさん……


「はーい、お待たせ……って、叔父さんなに吉野くんに迫ってんの? 叔父さんの本描いちゃうよ?」

「詠美に描いてもらえるなら俺はいくらでも……」

 いや、ダメだろ。ってかたぬきやめい。あなたがいうと冗談に聞こえない。

『いや、ほんとに描くから』

 需要ないからやめなさい。


「で、その吉野くんは詠美とどこまで進んでるんだい?」

「叔父さんやめてよ。吉野くんとはそんなんじゃないから」

「あ、あの、まだ指一本触れたことありませんからっ」


 去年の夏の林間学校、キャンプファイヤーのフォークダンスで『ああ、あと二人っ』のところで曲が終わってしまい、涙を飲んだ……

 たぬきと手を繋いでダンス……したかった……


「あははは、吉野くんはたぬきに片想いしてるだけだよねー」

 悪魔か、うさや……

「えっと……あの……」

「たぬきに薄い本描かれてるだけとも言う」

 響も悪魔だった。

「何それ羨ましいじゃねーかっ!」

 ギリギリギリとそれを羨ましがる聖一叔父さん、いやそれ羨ましいのか?


「はーい、ケーキ切って来ました。さ、みなさん召し上がってくださいね。聖一様の分も持って来ましたのでどうぞ」

 そこに登場した聖母めぐみ? いや、聖母と言うには体型がえっちすぎるな。

 これ、吉野くんがたぬき原理主義じゃなかったら、性癖変わるレベルじゃなかろうか?

「ああ、めぐみさんありがとうございます。助かります。本当は俺がやらないとならないのに」

「聖一様は詠美さんとのお話を楽しんでくださいませ。こちらはぜひわたくしにお任せを……」


 なんかもう、見てらんない……響もうさやも、たぬきまでもチラチラ見ながらニヨニヨしちゃう。

 吉野くんはたぬきをチラチラ見ては顔を赤く染めているが……


「助かります、めぐみさん……さて、で吉野少年。君は詠美の何を知ってるのかね?」

「ちょっ、聖一叔父さん、待ってってばっ」

「いや、これは大事なことだから。吉野少年の心意気を聞かせてもらおうじゃないか」


 吉野くんは考えた。どうもラスボスはこのおじさんらしいぞと。両親への紹介とかなんとか浮かれていた自分、今は気を引き締めろ。この人を倒せねば樽木さんの隣には立てないぞっ。

 頑張って考えて口を開いた。


「この世のものとは思えないほど可愛いです」

「…………」

「…………」

「…………」

 たぬきもうさやも響も、唖然……とするしかなかった。

 

「…………吉野少年。君は……いい目をしているな」

 いや、叔父さんっ! それでいいの?

「だが、それは詠美の一面でしかないだろう。詠美の良さはそれだけではない」

「はい、樽木さんはとても頭が良くてクラスみんなを牽引してくれ、ユーモアたっぷりで皆んなに娯楽を与え、すごく良く人を見ているからみんなのことをよくわかってくれて、そして誰よりも優しくて」

『頭がいい』うん、八割がた魔法のせいだな。

『皆に娯楽を』薄い本の製作と回し読みのことか?

『良く人を見る』そうしないと漫画描けないだろ?

『優しくて』クラスのみんなを舞台に上げるためにはなんだってするぜ。この娘。


 なぁ、吉野くん、ほんとにたぬきが良いの? 考え直すなら今だよ?


「なるほど、詠美のことを良く見てくれているな」

 って、叔父さんっ! それでいいの?

 なんかもう、ナレーションの語彙が崩壊しまくってますよ?


『あばたもえくぼ』

 見方を変えれば気持ちも変わる。吉野くんと叔父さんにとっては詠美が天使だから仕方ない。

 響とうさやから見ると、なんでここまでたぬきがモテモテになるのかが全くわからなかった。

 確かに美少女過ぎる女子高生だが、中身は完全腐敗だよ? 腐ってるのよ?


「しかしまだ、詠美は嫁にはやらんっ!」

 いや、気が早過ぎるしっ!

 ほら、なんかもう全員目が点になってない?

 いや、吉野くんはまだ戦える目をしているっ。

「では、きっと叔父さんに僕を認めさせますっ」

「あー、吉野くん、その前にわたしはまだ嫁に行く気は無いぞ?」


 あ、吉野くん撃墜されたわ。


「あと叔父さん、ちょーっと先走りすぎかなぁ? もうね、叔父さんも少しは自重覚えようね?」


 あ、聖一叔父さんも撃墜されたわ。


「叔父さんもねぇ、早いとこ嫁もらって落ち着いてくれれば良いんだけど……めぐみさんが貰ってくれれば良いんだけどねぇ」

 三浦めぐみさん、聖一叔父さんを神聖視しすぎて押しかけ女房ならぬ、押しかけメイドみたいになってるし。

 

「聖一叔父さんには彼女さんとかいないの?」

 うさやが聞く。

「いないね。今まではほら、わたしと浩太に全力過ぎてとてもじゃ無いけど彼女なんて作ってる暇も資金もなかったと思うわ」

 どんな叔父さんなんだよ。

 って、こんな叔父さんだったよっ!

「で、さっきのめぐみさん、めっちゃ綺麗だったでしょ?」

 響とうさやがブンブンと首を縦に振る。

「元テレビアナウンサーで、めっちゃテレビとかバラエティとか出てたらしいのよ。そんな人が好意向けてくれるとか、一生に一度あるか無いかの幸運じゃない? あんな冴えないおっさんに」

 酷いな。溺愛してくれてる叔父さんに向かってそれは。

「だから、とっとと捕まえちゃってそのまま飼って貰えば良いのに、なんかズルズルとお付き合いしてるからさぁ、もうコッチがヤキモキするよ」

 だから酷いな、言い方。


「年の差なんてさ、魔法使いなら関係ないでしょ? 響んちのお父さんお母さん見てるとさ」

「まぁ、そうだねぇ。うちのお父さんもお母さんもあんなだしねぇ」

 両親ともに後期高齢者だ。どこからどう見てもラブラブバカップルにしか見えないけど。

 そのうち弟か妹ができそうで怖いわ。


「さてと、今日はパーティだし、パーっとやろ。男二人はほっといてさ。ちょっとめぐみさん呼んでくるね。みんなでハッパかけて、とっととプロポーズさせちゃおう」

 良いのか? それで良いのか?


 このあと、めぐみさんを交えたガールズトークに、押され怯える男二人の地獄絵図が展開された。

 

 ちなみにめぐみさんに結婚の意思は有るのかと聞いたら、求められればその場で承諾するが、自分から伝えるなどという不敬は出来ない……との回答を貰った。 


 叔父さん、甲斐性見せてくださいねっ!

 聖一おじさんと吉野くん、仲良く慣れそうな気がしてきました……


 たぬき教の信者同士として。


 それではまた、お会いいたしましょう。

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