中学校卒業
県立高校の入学試験合格発表があった。
響、たぬき、うさやの三人は当然だが入学が決定している。
そして、吉野くんは……
「いよっしゃー!」
おお、無事合格したらしい。
なんかすごい勢いで喜んでいる……そりゃそうだ。この年頃の男の子が、想い人と同じ学校に通えるかどうかとか、人生の一大事である。
ああ、取り巻き男子からも祝福されてるされてる。
吉野くんはスポーツ科学だが、普通科を受験した同級生もそれなりに数は多い。なんと言っても、最寄り高校なのだ。
その中には吉野くん以外にもたぬき目当てで受験した男子もいれば、吉野くんファンの女子もいる。
吉野くん以外の皆は心の内を隠しながら、みんなで合格を喜んでいた。
三人だってクラスメイトの合格は嬉しい。
普段あまり一緒に遊んだりはしていないが、それでも見慣れた顔があると嬉しいのだ。
だって、もうすぐ卒業式だから……
♦︎
「答辞、卒業生代表、沢井響」
「はいっ!」
卒業式で答辞を読むのは我らが響だ。
なんと言っても、一年から三年まで、ほとんどのテストでトップに君臨し続けた成績優秀者なのだ。
「わたし達八十六期生が、無事卒業を迎えられたのは、ひとえに……」
響の声は良く通る。なぜならば、魔法を使っているから!(ばばーん)
実際に響は今、拡声魔法という魔法を使っている。
体育館内部に効力を限定し、人々の体内に存在するマイクロマシンへと干渉、直接聴神経終末部へと電流を流し音として認識させていく。
この魔法を使うと、難聴の人や耳の一切聞こえない人でも、結構な確率で響の声だけ明瞭に聞こえたりする。
ただ、生まれた時から耳の聞こえづらい人の場合、ある程度訓練しなければ音として認識されないこともある。
卒業式には響の両親も来てくれていた。両親共に無職な上に、家事はかなりの部分を麻紀が手伝ってくれるのだ。正直、暇を持て余していたりする。なんせ体力気力は二十代なのだ。今日参列している父兄の中でも、この若さで目立ちまくりだ。
その、目立つ容姿のお母さんが、感極まって泣いていた。
あ、周りのお母さんがもらい泣きし始めて、割と阿鼻叫喚だわ。
「……わたし達は今日、この中学校から旅立ちます。わたし達を立派に育ててくださいまして、ありがとうございました」
響が深く深くお辞儀をする。
これで響たちの義務教育が終わる。
高校生になったら、積極的に魔物と戦わされることになるはずだ。
そのための魔法学科、そのためのカリキュラムが組まれ、人々を助けるための技術を共有し、実際の戦いの中へと……
「……これで、本年度の卒業式を終了します。みなさん、おめでとうございます」
閉会の言葉が流れ、卒業生が退場する。
卒業した響達は一度教室に戻る。
女子の七割、男子の半数が泣いている。
響は……このシーンで泣くような娘ではないな。
たぬきも泣いてない……と言うか、泣いてる男子のスケッチしてますよ、この娘。
なんか知らないけど、新しい薄い本できちゃいそうです。なんかもう、ノリっノリで描いてます。吉野くん逃げてー!
いや、吉野くんは泣いてなかった。ニッコニコだった。
チラッ、チラッとたぬきの方を覗いてはニヨニヨしてるの、ちょっとキモイです。まぁ、同じ学校行けることになったのが、それだけ嬉しかったんでしょうけど。
その吉野くんをチラチラと見ながら、ニヨニヨしてる女子が数名。
あ、この娘ら中央の普通科に行く娘らだ。
吉野くん、かっこいいもんねぇ。サッカー部のエースストライカーで、面倒見が良くて、言動が洗練されてて、イケメンで、更にめっちゃ一途な一面もあって……
うさやさん……は、泣いてるな。
クラスのセカンドカーストの女子達と抱き合って、割としっかりと。
今はギャルメイクじゃないけど、それでもメイクが崩れてえらいことになってます。
いやもう、顔洗ってきなさいな。素顔も美人さんなんだから良いでしょうに……
スッポン! スッポン! スッポン!
お調子者の男子達が、賞状入れでスッポン砲の大合唱。うるさい! なんで男子は必ずこれやるんだろう。
あ、焼き海苔がやってきた。最後のホームルームが始まる。
みんな席に着いたところで、焼き海苔の話が始まる。
「三年間、お前らよく頑張った。そりゃ問題が起きたこともあったけどな、それでも負けずに全員で今日を迎えられた。このクラスは全員が進学する。近くの高校に行くものもいるし、遠くの高専へと行くものもいる。だけどな、みんな小川南の仲間だからな。いつ戻ってきても、納豆食わせてやるから」
「いや、納豆いらねーしっ!」
男子の誰かがツッコミ、皆で笑う。
「じゃ、今日から入学式まで、問題は起こすなよ? 特に、今月中は絶対問題起こすなよ? せめて四月入ってからにしてくれれば俺たちの仕事は増えないからな」
「四月に入ってもダメって言おうよ! せんせっ」
とても愉快な良い先生なのだよ。焼き海苔先生は。
部活動の顧問もしっかりこなし、生徒からの信頼も厚い。ユーモアもあって堅っ苦しくはないが教え方は上手で、生徒の成績も平均を上回る。
ただ、たぬきに目をつけられたのだけが不運だった。
なんなら吉野くん以外とのカップリング本も出回っちゃってた。
新婚二年目、家に帰れば奥さんとラブラブベッタリな焼き海苔さんだが、女子生徒からの視線は常に別の意味で熱く……
「じゃあ、お前ら、元気でな」
最後のホームルームも終わった。
女の子達はみんなそれぞれ、携帯端末で写真を撮りまくっている。
撮った写真はその場で赤外線通信で共有していく。
帰りは、それぞれ仲のいい友人達と三三五五帰っていく。
「え、詠美ちゃんっ、あの、い、一緒に遊び行かない?」
吉野くんが勇気を振り絞っている!
たぬきは一瞬『え? なんで?』みたいな顔をした後、後ろにいる響とうさやの顔を振り返った。
「あはは、行ってきなよ。罪滅ぼしだよ、罪滅ぼし」
響ちゃん、あれは罪だと認識してるんですね。
「でも、この後叔父さん主催でみんなでパーティって……」
「じゃ、吉野くんも呼んじゃえっ」
うさやさん、そんな無責任に……
「吉野くん、この後うちで響、うさやとパーティする予定だったんだけど、くる?」
(た、樽木さんちでパーティっ!)
この年頃の男の子が、何年も恋焦がれた女の子の自宅に招待されるとか、何その超展開。
響とうさやは邪魔だが、それでも夢のような話だ。
「あ、ああ、ぜひ寄らせてもらえるかな」
クールに決めたつもりだが、胸の内はバックバクだ。
(やばいやばい、手土産とかいるかな……でもこのまま行くのかな……どうしよ、どうしよ……ご両親に紹介されたりするのかな……)
「じゃ、いこっか。みんなまたねー。クラス会までには沢山本描いとくからねー」
なんか危険なセリフを叫びつつ、三人プラス一人で歩き始めた。
そう、今日はたぬきの家でパーティだ。
『聖一叔父さん主催』のパーティだ。
吉野くん、がんばれ……
卒業式って、とってもスッポンスッポンスッポン……うっさいわっ!
それではまた、お会いいたしましょう。




