バリア
今まで、響は響にしか使えない防御魔法、リフレクトマジックという魔法を使っていた。
虹色に輝く物理防御壁と、鏡のように光を反射する魔法防御壁が組み合わさった強力な魔法である。
虹色の防御壁は拳銃弾や小口径のライフル弾あたりなら全て弾き返す。
大口径マグナムやライフル弾では一発だけなら止められるが、そこで崩壊していく。
ミサイルや航空機の衝突も一つの事象として纏められたのか、一枚の虹色膜が全ての衝撃を吸収しながら崩壊することがわかっている。
虹色膜の後ろの鏡部分は魔法をキャンセルするが、魔法以外は全て素通りするので通常兵器には効果がない。
「響ちゃんのリフレクト・マジックには明確な弱点がありました。機関銃みたいな連続した攻撃に対しては、弾の数だけ重ね貼りしなければならない。また、熱や光による攻撃はほぼ素通りしてしまう」
今日は割と真面目な会議だ。
対策室からは岡田主幹と理沙美智子。
防衛省からは陸幕から陸将補が。
国家公安委員会からも数人。
他にも、帝大から、物性、素粒子、量子、素粒子生物あたりの専門家がゾロゾロ。理研の魔法研、異世界生物研の第一線の人々。
そして響。
話は先週まで遡る。
♦︎
「とりあえずこんなのです。バリアっ!」
昼間、学校帰りに基地に寄った響が、いそいそと理沙美智子の所へやって来て、いきなり魔法を展開した。
フっ! と虹色膜付きの鏡が空間に浮かぶ。
「今までのと、見た目何も変わってなくない?」
理沙がもっともな意見をだす。
「そう思うじゃないですか、これ、随分変わってるみたいなんですよ。まず、名前が短くなってます!」
「いや、そこかいっ!」
あ、美智子が突っ込んだ。
「名前は大事なんですよ! 殺虫パンチ理論って知ってます?」
「なんで中学生がそんなん知ってんのよ!」
「詩琳お姉ちゃんに教わりましたっ!」
「またあんたかっ!」
だいたい響が古いこと言い始めたら詩琳……幸田詩琳元巡査のせいである。
「あとは、虹色の扱いがニパターンあります」
「何それ?」
「虹色なしと虹色自動復活の二種類です」
今までのリフレクト・マジックは、必ず虹色膜がセットでついて来ていた。そして、割れたらそれっきりなのが普通だったのだが。
「自動復活だと、だいたい0.3秒ごとに張り直しされるらしいです」
「あー、機関銃対策?」
理沙が鉄砲撃つみたいな格好しながら聞いてくる。
「いえ、その下の鏡が危なすぎるから、そこに不用意に触れないための安全装置だそうです」
「鏡が……危ない?」
今まで、リフレクト・マジックの鏡部分は魔法以外には何も干渉しない筈だったのだが……
「これ、四国沖の鏡と同じものらしいんです」
「なんですってー‼︎」
初めてこの地球に異世界からの生物が出現した日。
あのドラゴンが展開した虹色鏡、そして虹色が割れた後の通称『四国沖鏡』。
実際には、紀伊半島の串本沖に虹色鏡が一枚と、虹色の割れたただの鏡が今でも残っているために『四国沖鏡』と限定するのもおかしな話だ。
しかし、四国沖の惨劇や沢井二佐の殉職地として名が売れているのはダントツで四国沖鏡なために、それが代名詞となってしまっている。
「じ、じゃ、それも残り続けるの?」
「危ないから、意識すれば直ぐに消せますし、術者が死亡したり意識失ったりしても消えるように作ったそうです」
「あー、作ったんだ……」
「虹色なしで展開できるのは、核ミサイルとかから身を守るためのモードだそうです。爆発する前に飲み込んじゃいなさいって」
相変わらずの非常識さだ。
まぁ、とにかく上に報告入れておかないと……
とまぁこんな感じで、冒頭の会議が開かれた。
会議の結果、まずは実験することになり……
♦︎
今日は、響は東富士演習場へと来ていた。
あのあと、習志野演習場で小銃による実験を行い、これは大口径砲による試験も必要だとの判断が下され、東富士に呼び出されたのだ。
「じゃ、響ちゃん。この線の上2mのところに張ってもらえるかな? 青線にリフレクト・マジック、赤線がバリア魔法で」
「はいっ!」
本日、担当してくれている陸上自衛隊のおじさんは、めっちゃ優しい感じがする。
爪の垢を小波師匠に飲ませたいぐらいだ。
「はいありがとう。じゃ、退避壕に入ろうね」
まずは重機関銃による連続攻撃から試していく。
200m離れたバリアとリフレクト・マジックに対して12.7mm機関銃による銃撃をかける試験。
もちろんターゲット付近は四方八方から超高速カメラで捉えられている。
「射撃準備っ!」
「射撃準備、ヨシっ!」
「てっ!」
ダダダダダダダダダダ……
まず撃たれたのはリフレクト・マジックである。
初弾こそ弾いたもののそこで虹色膜が割れ、二発目以降は全部後ろのターゲット用紙へと吸い込まれていった。
「続いて第二目標、狙えっ!」
次は新しく覚えたバリア魔法。
「射撃準備っ!」
「射撃準備、ヨシっ!」
「てっ!」
ダダダダダダダダダダ……
初弾が虹色膜を叩きわり、二発目はそのまま鏡へと命中し……消えていった。
三発目が飛んでくる前に虹色膜が再生、三発目で破られると四発目は通過、そして消失。五発目も消失、直後虹色膜が再生、六発目で破られる。
こんな感じで、数発に一度、虹色膜が復活することが確認された。
また、虹色膜が無い状態の時に飛んできた弾は、鏡に入るとそのまま消失してしまった。
そう、この消失こそが、四国沖の鏡と同じ挙動なのだ。
四国沖では最後には人間を三人飲み込むところまで行ってしまったのだが……
「そうならないための、虹色膜再生だそうです」
とまぁ、なかなか凶悪な特性が観測された。
続いて砲弾を試すことになった。
距離はグッと離れて1.5km。サイズも大きく縦横8mの範囲をカバーするようにとのことなので、適当にバーンと並べてみた。
「これ、何枚ぐらい同時に張れるんだい?」
「多分百枚ぐらいは直ぐできると思いますけど、やったことないですねぇ」
響が普段張っているリフレクトマジックの大きさが、だいたい一辺1m程度の六角形である。
それをぶわっと敷き詰める感じで埋めていく。8m四方を埋め尽くすのは五十枚近く必要だった。
その隣に、同じようにバリアを敷き詰める。
「できました」
「これでもほんと、一瞬なんだな……」
「そうですねぇ。これぐらいなら、あんまり考えないでもできちゃいますからねぇ。」
今度はぶわっと、体の周りを半球状に覆ってみた。
「こんな風に球形にしようと思うと、五角形混ぜないとなんないから、一瞬時間かかるんですよね」
いや、全くタイムラグなんて感じなかったぞ?
相変わらず訳わからない魔法の使い方だ。
「はい、準備オッケーです!」
防御魔法を設置し終わった響たちが安全地帯まで戻って来た。
手前に並ぶは10式戦車が八両。四両ずつ、別々のターゲットを狙っている。
「よーいっっ、てーっ!」
ズドドドンっ!
レーザーデータリンクで結ばれた四両が次々と砲撃を行い、リフレクト・マジックを叩き壊した。
一発目が虹色膜を破壊、二発目以降はそのまま通り抜け背後の標的布へと命中した。
「続いてバリア魔法に砲撃する。よーいっっ、てーっ!」
ズドドドンっ!
発射音は全く同じだった。
しかし、結果がまるで違っていた。
一発目が虹色膜を破るところまでは一緒だが、二発目以降はそのまま鏡に飲み込まれ、背後にはそよ風一つ流れていかない……
「響くん、一回全部消してもらえるかな?」
「はい、わかりました!」
その瞬間には、パッと消えている。本当に気軽に展開したり消去したりできているようだ。
「さて、じゃ、次は響ちゃんの魔法での貫通試験、お願いします」
かなり危ない試験である。
あたり一面に放射線が飛び散るため、術者以外は全員退避壕に避難した上、全通気路も閉鎖してからの試験になる。
術者である響は相変わらず無防備だが、どうせ響には放射線は届かない。
『じゃ、響くん、準備ができたら開始してくれたまえ』
スピーカーから、今日ずっと指揮をとっている自衛官の指示が聞こえて来た。
「はい、じゃいきます! さん! に! いちっ!」
ぴちゅんっ!
正直、何も起きなかった感がある。
バリア魔法の虹色膜は崩壊したが、それだけだ。
今までのリフレクト・マジックでは貫通した上で、遥か彼方まで貫通孔が続いていたのだが今回は見事に受け止めたらしい。
「受け止めたというか、別のところに送ってるみたいですけどね」
送られた先は、遥かなる高エネルギー渦巻く他次元らしいので、少なくとも地球には影響を及ぼすことは無いらしい。
一体どんな理論で動作してるのかわからないが、今見えているあの鏡も、次元の断面なのは確かなようだ。
『マイクロマシンに指示することで、次元境界を通してエネルギーのやり取りができるのが、魔法使いよ』
響が異世界の姉から聞いて来た魔法使いの定義である。
響はバリア魔法を手に入れた。
使い方次第では核兵器すらも無効化するような、気狂いじみた機能を持つ魔法である。
こうして、響は魔法使いの中でも一人だけ突出した能力を獲得していった。
「あ、お姉ちゃんが、ステータス・オープン魔法使いの希望者には、リフレクト・マジック教えてあげなさいって言って、二次元コード送って来たんですけど……」
響の最強魔法は、周りの大人の胃袋に穴を開ける魔法かもしれない。
響だけじゃなく、魔法使いとそれ以外の人との差も、どんどん開いてしまって……困りましたねぇ。
それではまた、お会いいたしましょう。




