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三浦めぐみの帰還

「響ちゃん、お姉さんにお伺い立てて欲しいんだけど……」

 三浦めぐみさんとお話しした日の晩。お風呂上がりの麻紀が、リビングでぼーっと携帯端末をいじっている響に声をかけた。

「めぐみさんを助けられる魔法って、何かないかなって」


 最初に思いついたのはマイクロマシンの単純投与だった。

 ただ、これだと良くて三割、一般的には二割弱程度の年齢若返るだけだ。

 彼女の知名度を考えると、事故があった当時の美貌まで戻せれば、間違いなく選挙は勝てる! 政策その他はこちらで持つから、傀儡政治家として是非とも活躍して欲しい!

 

 あー、この人、作品シリーズ通しても最悪レベルの腹黒かも知れない……


 というわけで、餅は餅屋。魔法は魔法使いの原点へっ!


 響もめぐみさんの境遇には同情していたため、すぐに姉へとメッセージを送信した。

 そして、返事は十日ほどで帰ってきた。


「麻紀さん麻紀さん、お姉ちゃんから返事来たんですけど、専用の魔法をめぐみさんにかけても良いですか?」

「専用魔法?」

「医療用魔法……いわゆる回復魔法らしいです」

「回復魔法っ!」

 実は、この世界、今まで回復魔法と呼ばれるものは存在していない……いや、していなかった。

 もっとも、響が世界初の魔法を行使してから、まだ十一年しか経っていないのだが。


「あとは、心の持ち方でマイクロマシンに干渉して、能動的にアンチエイジング出来るみたいですよ」

 何その全女性垂涎の技術。

「けどまぁ、麻紀さんにはもう必要なさそうですよね……」

 元々童顔で若く見られがちだった武藤麻紀。

 魔法使いになってわずか数ヶ月で若返りが見られ始めた。

 今じゃほぼほぼ女子大生だ。これ、三十三歳なんだぜ……

『これとか言うなし!』


 三浦めぐみは四国沖の惨劇の後、心を壊していたために殆ど聞き取り調査を行っていない。

 その辺りも含めて、上京した上で帝大病院にて調査と検査、そしてアンチエイジング実験が行われることになった。

 まず、一度入院して徹底的な身体検査と聞き取り調査。

 現在の肉体年齢や容姿の記録、血中マイクロマシン濃度や遺伝子レベルでの老化状況まで克明に記録されていく。

 聞き取りは帝大自然科学科認知行動学専門の研究室と、人文学科心理学専修の研究室がチームを組んで当たる。

 ここでも学部の垣根を越えて協力する体制が出来上がっている。


 二日間にわたる検査と聞き取りを終え、三日目には理沙に連れられた響もやってきた。

「ひさびさに来ました。帝大病院」

 響が病院を見上げながら言った。

 と言っても二年ぶりぐらいか? 初めての実戦のあとに連れてこられたのが最後だから……


 ここで、記録をとりながらめぐみに回復魔法の一種をかけることになる。


 めぐみは今、あちこちにセンサを繋がれた状態でベッドに寝かされている。

 どうせすぐにレントゲンやMRIも無効になるため、今はベッドに埋め込まれたエコーで直接スキャンし続けていた。


 昨日までにマイクロマシンの投与は終わらせてあった。

 さすが十数年も引きこもり続けただけはある。最初の検査の時にはマイクロマシンの血中濃度が、一般の人の数分の一しか認められなかった。

 やはり若返りを目指すには高濃度のマイクロマシンが必要との臨床結果もあるため、まずマイクロマシンを投与された。


「じゃ、始めますね? 準備良いですか?」

 研究者、医師、看護師、学生、理沙に響にめぐみさん。人口密度高過ぎない?

 それでもみんな一斉に頷いた。さぁ、始めます。


 響はそっとめぐみのおへその下辺りに手を当てた。

 そのまま、そこにあるマイクロマシンに……子宮付近にある魔力の塊に干渉をし始める。

 実際には、マイクロマシンによる強制新陳代謝の、原点帰り傾向を変更していく作業だ。


 マイクロマシンが身体中のサンプルから初期遺伝子を確認、欠損部位を埋めたES細胞を作成し必要な場所と置き換え始めていく。

 新陳代謝の激しい分裂細胞だけではなく、決して置き換わることのない非分裂細胞までもが置き換えられていく。

 不要となった古い細胞のかけらも、物理的に取り除かれ排出される。


 こんな動作を繰り返し、体全体を若返らせてゆく計画らしい。

 ただ、今日のところは最初の段階として『体内でマイクロマシンを製造できる幹細胞の作製』となる。


 魔物の中にも魔法を使えるものたちがいるが、それらは体内に、まるで半導体のような器官を持っていた。

 それこそがマイクロマシンの製造工場。響の姉たちの言葉を借りれば『魔臓』となる。

 しかし、人間にはそんな器官はない。響にだって無い。

 じゃあ、人間はマイクロマシンを外部から取り入れてるだけ?

 そんなことはなかった。

 人間の魔法使いたちも、また若返りを果たしたサワイケースの人たちもマイクロマシンを体内で生産している。


 マイクロマシンによる肉体改造により、マイクロマシン製造工場となる部位……卵巣、そして子宮。

 最初に見つかったのは、魔法を使うゴブリンの胎内からであった。

 それまで、ゴブリンは魔法を使えない魔物だと認識されていたのだが、ある時魔法攻撃をしてくるものが見つかり、討伐された。

 このゴブリンを解剖したところ見つかったのが、生殖器に貼り付くように存在する半導体組織だった。

 その後、事故で亡くなったサワイケースの臨床試験経験者を解剖した結果、人間の胎内でも同じことが起きている事が判明した。


 更に、子宮頸がん子宮体がんの検診のために採取された細胞が、半導体組織と置き換わっているケースも増え、野良サワイケースがそれなりに存在することもわかり始めている。


 この、子宮や卵巣が半導体組織に置き換わった場合の妊娠、出産への影響について、今の所有効な知見はない。

 ただ、複数例の妊娠出産事例は発生しているため、全く子を望めなくなる……と言うわけではないらしい。


 じゃ、男性は? 気になるところだ。

 現在、男性魔法使いは一人も確認されていないが、若返り現象(サワイケース)は存在する。

 筆頭は響パパであるが。


 男性は精巣から前立腺小室付近に、同じように半導体組織が作られていく。

 ただ、女性と比べると規模が圧倒的に小さいのだ。もう、スペースが全然違うから比べても仕方のないことだが、これこそが、現在男性魔法使いがいないことの理由ではないかと思われている。


「はい、魔法の方の処置は終わりました。やったことなんて、三浦さんの体内の魔力に外から干渉しただけなんですけどね」

 もっとも、響は別にお腹に手を当てたりしなくても、他人の体内の魔力……マイクロマシンに干渉することはできるのだが。

 ビリビリ魔法なんてその最たるものだ。


「このまま数日で、体の中でマイクロマシンが作られ始めると思います。あとはまぁ、お楽しみで!」

 そう言ってドヤ顔している響の隣には、ニヨニヨと不気味な笑みを浮かべている理沙が……

 理沙ももう二十代後半にしか見えない。ほうれい線とか、ほとんど目立たなくなってきてるし、何よりお肌がプリプリに! メイクのノリがもう、桁違い。土台作りが土木作業ではなく、塗装作業で済むぐらいなのだ!


「それでは三浦さんはこのまましばらく検査入院していただきます。退院予定は二週間後。それまで検査漬けですね」

 ああ、解剖学の先生がものすごく素敵な笑顔を浮かべてらっしゃいます。新しい知見が楽しくて仕方ないんだろうなぁ。


「じゃ、退院してきたらまた会いましょうね!」

「ありがとう、沢井さん」

「響で良いですよ。この研究に携わってると、サワイって言葉がゲシュタルト崩壊しますから」

 いや、良いのか? 本人それで。

「ええ、ありがとう、響ちゃん。小川さんもありがとうございます」

「あ、わたしも理沙で良いですよ。その代わりめぐみさんって呼んじゃいますから」

「ふふふ、ありがとう理沙さん」


 めぐみはこのあと毎日検査を受け続け、帝大に貴重な知見をもたらし、二週間後に無事に退院となった。

 本郷から小美玉の自宅までは対策局の車で送ってもらった。

 というか、岡田主幹がハンドルを握った。


 どうも、岡田主幹が若かりしころ、三浦アナウンサーの大ファンだったらしい。

 それもあって、魔物への復讐のために異世界生物対策室配属の時に希望まで出していたそうだ。


 ただ、まさか小美玉に住んでいたとは思わなかったと言っていた。


 めぐみの自宅は火事の影響で裏庭から台所、真上の寝室まで火がまわり、一部外壁も崩れているために寝泊まりする場所はあまりない。

 修繕するなり建て直すなりしなければ住み続けることは難しいため、行政と相談中である。


 ただ、今はまだ、綺麗に残っている和室とリビングに布団を敷けばなんとか過ごせる。


「わざわざこんな遠いところまで送っていただきましてありがとうございます。本当に助かりました」

「いえいえ、こちらこそ色々話しかけてしまって申し訳ないです。またいつでも異世界生物対策室になんでもご相談くださいませ。すぐそこの百里基地にも窓口がありますので、いつでもお越しいただけるように手配しておきますから」

 岡田さん岡田さん、欲望ダダ漏れしてませんか?


「はい、またぜひ寄らせて下さい。それではごきげんよう」

「はい、それでは失礼致します」

 黒塗りのトヨタが去っていく。

 さて……とゴロゴロバッグを持ち上げ、玄関までの三段を登る。

 ガチャ。

「ただいまー」

 奥に声をかけると年老いた両親が顔を出し……


「め、めぐみ? めぐみ、めぐみぃぃい……」

 母が泣き出した。


 そう、あの疲れ果てたおばさまはもういない。

 そこには美人アナウンサーだった頃と、ほとんど変わらない三浦めぐみが立っていた。

 

 

 実際にこんなアンチエイジングができる様になったら、社会は大混乱するでしょうね……

 しっかし、主役は中学生なのに、なんでこんなに熟女ばっかり出てくるんですか? このお話……


 それではまた、お会いいたしましょう。

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